張鈞凱コラム:花蓮せき止め湖決壊で17人死亡 「シャベル超人」が自発的に救援の裏で問われる台湾民主主義の機能不全

2025-09-30 17:49
最近、多くの人々が東部へ向かう列車で、救援用具を背負った「シャベル超人」たちが光復駅で下車し、自発的に救援活動に参加する姿を目にしている。(写真/台湾鉄路公司公式Facebookより)
最近、多くの人々が東部へ向かう列車で、救援用具を背負った「シャベル超人」たちが光復駅で下車し、自発的に救援活動に参加する姿を目にしている。(写真/台湾鉄路公司公式Facebookより)
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台湾・花蓮県光復郷の馬太鞍渓せき止め湖の災害が発生し、洪水が周辺の町に流れ込んだ。9月28日午後3時時点で、死者17人、行方不明者7人、負傷者100人に達した。光復地区の惨状は目を覆うばかりであり、教師節の連休中、多くの市民が救助器具を手に光復郷へ駆けつけ、自ら救助に加わった。その姿から「鏟子超人(シャベル超人)」と呼ばれるようになった。蔡英文前総統と頼清徳総統はFacebookを通じて、数多くの「シャベル超人」への感謝を表明した。

「シャベル超人」の出現、再び民粹的大動員か?

作家の楊渡氏は「一鍬ごとに民間の愛を示す一方で、政府の無能を浮き彫りにした」と評した。まさにその通りだ。災害発生後、国民が最初に目にしたのは中央と地方政府、議員らの罵り合いであった。さらに、民進党議員がグループ内で「殺傷力のある情報」を集めて政治攻撃に使うよう指示し、別の民進党議員は「決壊」ではなく「越流」と定義づけ、政府部門は直ちにメディアへ「用語を統一せよ」と通達した。

これこそが「政府があれば安心」「政府がやればうまくいく」という実態である。せき止め湖はすでに7月に形成されていたが、農業大臣は「直ちに決壊の危険はない」と発言していた。当時、与党の関心は「大規模リコール」に集中しており、政党の存続が国民の命よりも優先されていた。水利専門家で元内政部長の李鴻源氏がチームを率いて介入した時には、悲劇は避けられなかった。李氏が「明らかに決壊なのに用語にこだわることに意味はあるのか」と嘆いたのも当然である。

歴代総統がそろって「シャベル超人」を称賛することは、台湾の民主主義が全面的に機能不全に陥っていることを示す。夏は台風や洪水が多発する季節であり、リコールの最中、台湾南部は台風4号によって大きな被害を受けた。水道・電気・通信が断絶し、第三世界に逆戻りしたかのような状況を前に、頼政権は大きな打撃を受けた。それにもかかわらず、政府は教訓を学ばず、天災を再び人災へと変えてしまった。

20250925-馬太鞍溪堰塞湖潰堤,山洪衝入光復鄉市區,造成重大傷亡。(顏麟宇攝)
台湾・花蓮馬太鞍渓のせき止め湖が決壊し、洪水が光復郷の市街地に流れ込み、大きな被害と死傷者をもたらした。(写真/顏麟宇撮影)

言葉遊びで責任逃れ、台湾民主の常態化

責任転嫁と逃避は台湾民主の常態となっている。執政者の最大の特技は、巧妙な言葉遊びで政治責任を完全に回避する点だ。「密輸」ではなく「超過購入」、「停電」ではなく「過負荷」、「無給休暇」ではなく「減班休業」。コロナ禍ではマスク不足に際して「蒸して再利用」と指導し、ワクチン不足時には「私は大丈夫だからあなたが先に打て」と国民に忍耐を強いた。

そしていま、「シャベル超人」もまた、政府の救援失敗から目をそらすための民粹的大動員として利用されようとしている。 (関連記事: 台風18号被害の台湾・花蓮を支援 名古屋市民の行動に台湾から感謝の声「日本は永遠の友」 関連記事をもっと読む

科学技術による防災、中国のせき止め湖災害対応SOP

記者キャリアの中で、特に印象に残る災害がいくつかある。その一つが2018年2月の花蓮大地震である。当時、中国側は救援隊を派遣して台湾を支援したいと申し出たが、台湾側は即座に拒否した。現場にいた同業者の一人は「被災地は狭く混雑しているため、他地域からの救援隊の進入を許可しなかったのだ」と報告した。だが、その言葉が終わらぬうちに、遠路はるばる駆けつけたトルコの救援隊が堂々と被災地に入っていった。同時に、インターネット上では1999年の台湾大地震(九二一地震)の際に「中国が国際救援を妨害した」という“偽情報”が改めて回想され、いまなお流布している。

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