文学と漫画のクロスオーバー共鳴 吳明益と五十嵐大介が東京で対談

台湾の作家・呉明益と日本の漫画家・五十嵐大介が東京で対談し、文学と漫画の世界を通じて文化的共鳴を示した。(写真提供 台湾文化センター)
台湾の作家・呉明益と日本の漫画家・五十嵐大介が東京で対談し、文学と漫画の世界を通じて文化的共鳴を示した。(写真提供 台湾文化センター)

文化部駐日台湾文化センターと紀伊國屋書店の共催による台湾・日本作家交流座談会が9月28日に東京で開催され、台湾の作家・吳明益と日本の漫画家・五十嵐大介が登壇し、文学と漫画の世界を横断する対話を繰り広げた。告知直後に定員60名の枠が満席となり、当日は立ち見も出る盛況ぶりで、吳の日本での高い人気を示した。

台湾の作家・呉明益と日本の漫画家・五十嵐大介が東京で対談し、文学と漫画の世界を通じて文化的共鳴を示した。台湾文化センター
台湾の作家・呉明益と日本の漫画家・五十嵐大介が東京で対談し、文学と漫画の世界を通じて文化的共鳴を示した。(写真提供 台湾文化センター)

吳明益は台湾現代文学を代表する作家で、国立東華大学華文文学科教授を務める。代表作『複眼人』『自転車泥棒』『天橋上的魔術師』は多言語に翻訳され、国際的に評価されてきた。なかでも『自転車泥棒』はマン・ブッカー国際賞にノミネートされた実績を持つ。今年は長編小説『海風酒店』(日本語版タイトル『海風クラブ』、三浦裕子訳、KADOKAWA刊)が日本で出版され、花蓮県和平村でのセメント工場建設反対運動を背景に、太魯閣族の巨人神話を織り込んだ作品として注目を集めている。

一方の五十嵐大介は、自然と生物が織りなす世界を精緻かつ幻想的に描き出すことで知られる。代表作には実写映画化された『リトル・フォレスト』、文化庁メディア芸術祭漫画部門優秀賞を受賞した『魔女』、さらに『海獣の子供』などがある。

台湾の作家・呉明益と日本の漫画家・五十嵐大介が東京で対談し、文学と漫画の世界を通じて文化的共鳴を示した。台湾文化センター
台湾の作家・呉明益と日本の漫画家・五十嵐大介が東京で対談し、文学と漫画の世界を通じて文化的共鳴を示した。(写真提供 台湾文化センター)

座談会で吳は『海風クラブ』について「この作品は“再会”を描いた小説であり、この本を通じて再び日本の読者と出会えることを嬉しく思う」と語った。2016年前後に花蓮で学生と渓流溯行をした際、和平村でホテルを営んでいた画家・陳秀菊と出会い、当時セメント工場建設で外国人技師が集まっていた事実を知ったことが着想のきっかけだったと明かした。物語には太魯閣族の巨人神話を取り込み、表紙はフランス画家ルドンの作品を模しつつ、セメント工場を見つめる巨人として再解釈したことも紹介した。

また吳は小説に関連して創作した絵本『三本足のジャコウネコと巨人』についても触れ、失った足を抱えた動物と、汚染で歪んだ巨人との物語を通じて、環境破壊への記憶と省察を呼び起こしたいと述べた。さらに、自身の創作に漫画が与えた影響を回想し、手塚治虫の昆虫描写、矢口高雄『釣りキチ三平』の魚と自然の世界、山下和美『天才柳沢教授の生活』に見られる生命と芸術の融合などを挙げた。初めて五十嵐の『海獣の子供』を読んだ時、人間の自然環境における小ささや生物描写の細やかさに深く共鳴したとも語った。

五十嵐は「昨年、吳さんと対談した際に『三本足のジャコウネコと巨人』の原画を拝見し、大きな感銘を受けた」と振り返った。作品は精緻な細部描写と幻想的な雰囲気を兼ね備え、複数の視点を一枚に融合させる力を持ち、動物同士の深い感情が伝わってきたと語った。自身もかつて岩手の山間部に長く住み、野生動物を観察してきた経験があるため、吳の世界観に強く共感できると述べた。

吳はさらに、『複眼人』『天橋上的魔術師』など自身の作品が漫画化された経験を紹介し、舞台劇や音楽劇、テレビドラマへの展開と比較しても、漫画家との協働は特別な体験であったと語った。「これらの作品は私の想像力を広げ、新しい創作のインスピレーションを与えてくれた」と強調した。

台湾と日本の表現者が文学と漫画を通じて交わした今回の対話は、両国文化の新たな共鳴を示すものとして、参加者の記憶に強く刻まれた。 (関連記事: 台湾・花蓮の災害現場で活躍する救助犬 首輪も装備も付けない「4つの理由」とは 専門家「1頭で20人分の力」 関連記事をもっと読む

編集:佐野華美  

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