日本、「万能人工血液」を開発 血液型不問で2年間保存可能 2030年の実用化を目指す

人工血液製品の利点の一つは、血液型の適合を気にする必要がない点である。さらに通常の赤血球よりも小型であるため、脳卒中や血栓によって閉塞した部位などにも到達できる可能性がある。(写真/Pexels提供)
人工血液製品の利点の一つは、血液型の適合を気にする必要がない点である。さらに通常の赤血球よりも小型であるため、脳卒中や血栓によって閉塞した部位などにも到達できる可能性がある。(写真/Pexels提供)
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奈良県立医科大学は、臨床試験用の「万能人工血液」を今年3月から開始し、志願者による初回の輸注を完了したと発表した。この技術が成功すれば、世界の輸血医療を根本から変える可能性がある。人工血液は血液型に関係なく使用でき、保存期間も2年に延長可能であり、戦争や災害、日常医療における血液不足の解決に向けた画期的な突破口となると期待されている。

日本が「万能人工血液」を推進する理由

研究計画を主導するのは、奈良医大の酒井宏実教授である。酒井教授によれば、この研究の目的は血液供給不足の解消にある。従来の輸血システムには「感染リスク、血液型不一致、免疫反応、保存期限の短さ」といった構造的問題が存在する。人工血液の実用化によって、緊急医療や慢性疾患の治療における供給不安を減らし、低所得国にも治療の機会を広げることが期待されている。

世界的な輸血不足の現状

世界保健機関(WHO)の推計によれば、世界では年間約1億1800万件の献血が行われているが、その40%は高所得国に集中している。高所得国の人口は全体のわずか16%に過ぎないため、低所得国では緊急医療や手術、産婦人科医療の現場で慢性的に血液が不足している。人工血液が普及すれば、血液不足による「防げたはずの死」を大幅に減らせる可能性がある。

日本で進む人工血液の臨床試験

共同通信の報道によると、研究チームは今年3月、健康な成人志願者16人に対し、100〜400ミリリットルの人工血液を輸注した。今後は副作用の有無を観察し、効果と安全性を評価していくという。

この製品の技術的核心は、献血から3週間以上経過した血液から血色素(ヘモグロビン)を抽出し、それを脂質膜に封入することで「ヘモグロビン小胞(hemoglobin vesicles)」を作る点にある。

  • 酸素運搬機能を持ち、赤血球を模倣
  • 血液型抗原を持たず「汎用性」を確保
  • ウイルスを含まないため感染リスクを回避
  • 保存期間を最長2年に延長可能で、戦地や災害時の備蓄に有効

日本では2022年にも実験が行われ、当時の参加者は軽度の発熱や発疹が見られたのみで、すぐに消失した。この結果が今回の臨床試験の基盤となっている。

専門家の見解

英国ブリストル大学の生化学教授アッシュ・トイ氏は、米誌『Newsweek』の取材に対し「日本が人間由来のヘモグロビンを基盤とした人工血液製品の臨床試験を開始したことは、輸血医学における画期的な進展を示す」と評価した。

ただし、これまで人工血液研究が直面してきた課題は「安全性、安定性、酸素運搬効率」であり、今回の試験で献血血液と同等の信頼性を証明できるかが焦点となる。

トイ氏はさらに「人工血液の利点の一つは血液型を気にする必要がない点だ。また通常の血球よりも小さいため、脳梗塞や血栓などで詰まった領域に入り込める可能性もある」と指摘。その一方で「原料が人間の献血由来である限り、感染リスクや供給制限は残る。将来的には再生医療による『リコンビナント(組換え)血色素』の利用に移行することが望ましい」と述べている。

人工血液はいつ医療現場で使用できるようになるか

奈良医科大学は、安全性の確認後に大規模臨床試験へ移行し、2030年までに臨床承認と実用化を目指す方針だ。計画が順調に進めば、人工血液は世界の輸血システムを一変させる可能性がある。救急医療、手術、慢性疾患治療において柔軟性と安定性を提供し、特に戦争や災害が頻発する地域では数百万単位の命を救う可能性があると期待されている。

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