公益財団法人フォーリン・プレスセンター(FPCJ)が主催した岩手県プレスツアー2日目、記者団は花巻市の株式会社小彌太を訪問した。1781年創業の老舗染物会社である同社は、代表取締役社長・小瀬川弘樹氏のもと、2024年に郷土芸能事業「雷太(らいた)」を立ち上げた。10代目の小瀬川雄太氏(営業部課長・取締役・染師)が登壇し、会社の沿革と自身の役割を紹介したうえで、順を追って同社の取り組みを説明した。
岩手県花巻市の老舗染物会社・小彌太がFPCJ主催プレスツアーで、3Dプリンターによる鹿頭製作やゴムわらじ開発を紹介し、春日流落合鹿踊りの演舞と大野氏の説明を通じて伝統芸能継承への挑戦を示した。(撮影 黃信維) まず、鹿踊り(ししおどり)の象徴である「鹿頭(ししがしら)」について取り上げた。従来は木彫り職人が数十年に一度の需要に応じて製作し、何十年も使えるものを作ってきたが、高齢化と後継者不足で途絶の危機にあると説明した。
岩手県花巻市の老舗染物会社・小彌太がFPCJ主催プレスツアーで、3Dプリンターによる鹿頭製作やゴムわらじ開発を紹介し、春日流落合鹿踊りの演舞と大野氏の説明を通じて伝統芸能継承への挑戦を示した。(撮影 黃信維) その解決策として、3Dスキャナーと3Dプリンターを導入し、鹿頭を四つのパーツに分けて造形、組み合わせて塗装する方法を披露。実際に出力された白色の鹿頭と彩色済みの完成品を並べて示しながら、「スキャナーは500万円、プリンターは300万円」と機材の価格も明らかにした。
岩手県花巻市の老舗染物会社・小彌太がFPCJ主催プレスツアーで、3Dプリンターによる鹿頭製作やゴムわらじ開発を紹介し、春日流落合鹿踊りの演舞と大野氏の説明を通じて伝統芸能継承への挑戦を示した。(撮影 黃信維) 次に、鹿踊りの足元を支える「ゴムわらじ」の製作について説明した。従来の藁製わらじは屋外で壊れやすく、屋内では滑りやすいため危険だった。過去にゴムわらじを作った企業も廃業し、製法は失われていた。
岩手県花巻市の老舗染物会社・小彌太がFPCJ主催プレスツアーで、3Dプリンターによる鹿頭製作やゴムわらじ開発を紹介し、春日流落合鹿踊りの演舞と大野氏の説明を通じて伝統芸能継承への挑戦を示した。(撮影 黃信維) 岩手県花巻市の老舗染物会社・小彌太がFPCJ主催プレスツアーで、3Dプリンターによる鹿頭製作やゴムわらじ開発を紹介し、春日流落合鹿踊りの演舞と大野氏の説明を通じて伝統芸能継承への挑戦を示した。(撮影 黃信維) 続いて、同社の本業である染物事業についても紹介された。伝統的な半纏(はんてん)の染色や、日本国旗(日の丸)の染色に取り組んできたことを説明し、実際の染布技術を見せながら縫製工程について解説した。老舗染物会社として培った技術を、郷土芸能の分野に応用していることが強調された。
岩手県花巻市の老舗染物会社・小彌太がFPCJ主催プレスツアーで、3Dプリンターによる鹿頭製作やゴムわらじ開発を紹介し、春日流落合鹿踊りの演舞と大野氏の説明を通じて伝統芸能継承への挑戦を示した。(撮影 黃信維) その後、再び3Dプリンターのデモンストレーションが行われた。スキャナーでデータを取り込み、パソコンで編集してプリントする過程を示し、完成品を塗料で仕上げる工程も紹介した。小瀬川氏は「ハニカム構造を用いれば、軽量化しながら強度を維持できる。データがあれば木彫り以外でも多様な造形が可能になる」と説明した。
岩手県花巻市の老舗染物会社・小彌太がFPCJ主催プレスツアーで、3Dプリンターによる鹿頭製作やゴムわらじ開発を紹介し、春日流落合鹿踊りの演舞と大野氏の説明を通じて伝統芸能継承への挑戦を示した。(撮影 黃信維) 質疑応答では、風伝媒記者から「3Dプリンターを導入することで伝統を壊してしまうのではないか」との質問が出た。小瀬川氏は「木でなければならないと考える人もいるが、担い手が減り作る人がいない以上、仕方がないという理解が多い。否定的な声はほとんどなく、『仕方ないよね』という反応が多かった。3D技術は伝統を壊すのではなく、新しい形で未来を支える手段だ」と回答した。
岩手県花巻市の老舗染物会社・小彌太がFPCJ主催プレスツアーで、3Dプリンターによる鹿頭製作やゴムわらじ開発を紹介し、春日流落合鹿踊りの演舞と大野氏の説明を通じて伝統芸能継承への挑戦を示した。(撮影 黃信維) さらに「新しい技術を使うことで、具体的にどう伝統継承に役立つのか」という質問には、「昔の木彫りの技術は重要だが、時間がかかる。3Dプリントなら軽くも重くも調整できるし、ハニカム構造を採用すれば強度を保ちながら軽量化も可能だ。新しい技術と伝統を融合させることが大切だ」と答えた。
岩手県花巻市の老舗染物会社・小彌太がFPCJ主催プレスツアーで、3Dプリンターによる鹿頭製作やゴムわらじ開発を紹介し、春日流落合鹿踊りの演舞と大野氏の説明を通じて伝統芸能継承への挑戦を示した。(撮影 黃信維) 風伝媒とのやり取りの中で、小瀬川弘樹社長は「伝統的な文化を守るのは確かに難しい。しかし新しい技術を組み合わせれば、より楽しく文化を継続できる」と述べた。 また「岩手の人々は『これはダメだ』とはあまり言わず、『いいんじゃない?』と柔軟に受け止める。木でなければならないと考える人もいるが、データさえあれば機械で掘ることも可能だ。昔の技術も大切だが、より速い方法で継いでいくことも重要だ」と語った。 さらに「花巻東高校の校舎には、当社が制作した大谷翔平選手の幕が掲げられており、それをパンフレットにも掲載している。台湾の人々にも岩手の文化とともに知ってほしい」と述べた。
また、風伝媒記者から鹿頭の軽重について質問があり、弘樹氏は「軽くも重くもできる。丈夫にすれば当然重くなるが、強度を保ちながら軽量化する方法もある。専門家の強度計算に基づいて安全性を確保している」と答えた。 さらに「昔の技術も重要だが、時間がかかる。だからこそスピードを高める新技術も必要だ」と強調した。
岩手県花巻市の老舗染物会社・小彌太がFPCJ主催プレスツアーで、3Dプリンターによる鹿頭製作やゴムわらじ開発を紹介し、春日流落合鹿踊りの演舞と大野氏の説明を通じて伝統芸能継承への挑戦を示した。(撮影 黃信維) 最後に春日流落合鹿踊りの踊り手6人による演舞が披露され、株式会社小彌太が製作した鹿頭やゴムわらじが使用された。演舞の後、大野五月男氏が挨拶し、鹿踊りの起源や祈願の意味、装束の構造について詳しく説明した。鹿の尻尾の毛を使った部分、中立と川篤の違い、ササラの象徴する意味、そして顔の造形が時代とともに可愛らしいものから鬼退治にふさわしい怖い表情へと変化してきた経緯を語った。
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岩手県花巻市の老舗染物会社・小彌太がFPCJ主催プレスツアーで、3Dプリンターによる鹿頭製作やゴムわらじ開発を紹介し、春日流落合鹿踊りの演舞と大野氏の説明を通じて伝統芸能継承への挑戦を示した。(撮影 黃信維) また「これは供養の踊りとして始まり、今は祭りや観光、さまざまな場で披露されている。天下安寧や疫病退散を祈願する踊りである」と述べた。
岩手県花巻市の老舗染物会社・小彌太がFPCJ主催プレスツアーで、3Dプリンターによる鹿頭製作やゴムわらじ開発を紹介し、春日流落合鹿踊りの演舞と大野氏の説明を通じて伝統芸能継承への挑戦を示した。(撮影 黃信維) 風伝媒記者がさらに「鹿頭の重量、着装時間、演舞の長さ、伝承など」について質問すると、大野氏は「鹿頭は約15キロあり、着装には20分を要する。一般的な演舞は15〜30分である。若い世代が継続的に参加できるように、高校の部活動でも取り組みが行われている。海外公演や飛行機での移動の際には、道具が大きすぎるため短縮版を用いることもある。舞台に立つには少なくとも半年間の稽古が必要であり、普段は祭りや定例演舞を通じて伝承を続けている。過去にはフランス公演にも参加した」と回答した。
岩手県花巻市の老舗染物会社・小彌太がFPCJ主催プレスツアーで、3Dプリンターによる鹿頭製作やゴムわらじ開発を紹介し、春日流落合鹿踊りの演舞と大野氏の説明を通じて伝統芸能継承への挑戦を示した。(撮影 黃信維) さらに草鞋についての質問には、実際に演舞を行った踊り手が応じ、「今回使用したゴムわらじは従来品に比べてクッション性があり、踊り終えた後の負担が少なかった。サイズも自分に合い、履き心地は非常に良い。これからも踊りを続けられると感じた」と感想を述べた。
岩手県花巻市の老舗染物会社・小彌太がFPCJ主催プレスツアーで、3Dプリンターによる鹿頭製作やゴムわらじ開発を紹介し、春日流落合鹿踊りの演舞と大野氏の説明を通じて伝統芸能継承への挑戦を示した。(撮影 黃信維)