関税を「唯一の交渉カード」として多用してきたドナルド・トランプ米大統領が、今度は映画産業に照準を合わせる発言を繰り返し、世界の注目を集めている。米国を再び偉大に(MAGA)との旗印の下、米国外で製作された映画作品に対し関税100%を課す構想を示したもので、実施となれば、映画・ドラマ輸出が盛んでストリーミング依存度も高い韓国が大きな影響を受ける可能性がある。
韓国紙『コリア・タイムズ』によると、世宗大学の金大中(キム・デジョン)教授は、外国映画・コンテンツへの関税100%はWTO規則に「極めて」抵触する恐れが高く、同盟国間の外交摩擦を招くと指摘する。
Trump says US to impose 100% tariff on movies made outside the countryhttps://t.co/426ta3i57Q
— Nikkei Asia (@NikkeiAsia)September 29, 2025
韓国は現時点で米国との新たな通商合意を結べておらず、主力輸出品の自動車が日本勢より高い関税を課されるリスクを抱えるなか、トランプ氏が海外製作映画への関税を検討しているとの報は、Kカルチャーで存在感を高めた同国に再び不安を呼んでいる。
金教授は「韓国の映画・ドラマはNetflix、Disney、Amazon Prime Videoなどを通じ世界配信されている。輸出・投資比率が非常に高いため、政策が実行されれば直接打撃となる」と述べる。高関税や各種制限は、コンテンツ企業の損失拡大と投資・新規プロジェクト縮小を招きかねないという。その上で、業界には「最悪シナリオを恐れるより、発想を転換し、アジア、欧州、中東など他市場の開拓で販売先を多角化し、単一市場依存を避けるべきだ」と助言した。

金教授は、業界への助言として「全面崩壊や最悪シナリオを恐れるより、発想を切り替え、この局面を活かして販路を多角化すべきだ」と強調。具体的には、アジア/欧州/中東など新規・周辺市場での展開を拡大し、作品の海外販売をより多様化して単一市場への依存を薄めるよう促した。
海外製作映画への高関税は、トランプ氏が打ち出したプランの一つだ。実際、同氏は5月に商務省へ「外国映画に関税100%を課す準備」を指示したとSNSで明言し、その後の投稿でも方針を再確認。「米国の映画製作は長年、他国に“赤ん坊からキャンディーを奪うように”奪われてきた。無能な知事の下でカリフォルニアは特に深刻だ。この終わりなき問題を解くため、米国外で製作されたすべての映画に100%の関税を課す」と述べている。
「米映画の制作は長年、他国に“赤ん坊からキャンディーを取り上げる”ように奪われてきた。とりわけカリフォルニアは無能な州知事の下で深刻だ。長年の終わりなき問題に終止符を打つため、米国外で製作されたすべての映画に関税100%を課す」

もっとも、この構想をどの法令・枠組みで実施するのかは不透明で、映画業界や法曹の専門家を戸惑わせている。業界運営に詳しい専門家は、米国・海外いずれの映画産業も製作資金・撮影・ポスプロが国境をまたぐ高度な分業構造にあり、しかも配信時代の現在は映画・番組がデジタル伝送され物理的に“輸入”されないケースが大半のため、「関税をどう徴収するのかが最大の論点になる」と疑問を呈する。
韓国のマーケティング会社関係者(匿名)も「米側の具体像が示されておらず現状は静観するしかないが、実務経験上、本当に実行できるのか強い疑念がある」と話す。たとえば「海外で撮影し、米国内で編集した作品は“輸入映画”に当たるのか」といった線引き一つ取っても難しく、「課税に踏み切れば韓国のコンテンツ産業は無縁では済まない」と危機感を示した。
専門家・研究者は、韓国のクリエイティブ産業の進路修正を提案する。トランプ政権の出方を織り込みつつ、当面取り得る選択肢は二つ――①米市場への依存度を段階的に下げ、自国系ストリーミングの競争力を底上げする、②米国内の製作拠点・出資比率を拡大し、共同製作/共同投資で“米国産”扱いを増やしてリスクを分散する――という方向だ。
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