『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』は29日、最新の衛星画像分析に基づき、中国ロケット軍がかつてない速度で東南沿岸各地にミサイル発射プラットフォームを配備しており、主な標的は台湾と、台湾防衛を支援し得る米軍だと警告した。人民解放軍の「反介入/接近阻止(A2/AD)」に関わる配備強化は、習近平国家主席が台湾への統制を強め、アジアにおける米国の影響力を弱めるという野望を具体化する重要な一歩と受け止められている。
米国防総省の評価によれば、過去4年間で核・通常戦力を所管するロケット軍のミサイル保有数は約50%増え、約3,500発に達した。どの程度が東南沿岸に前方配備され台湾向けに特化しているかは不明だが、安徽省に位置する解放軍「611旅」基地の近年の変化から、基地建設と配備拡大の加速が明確に読み取れるという。最新の衛星画像では、同基地の面積は倍増し、新たな発射台、移動式発射機(TEL)用の車庫、貯蔵・整備施設に加え、作戦シミュレーション訓練に使われる可能性がある仮設トンネルも確認される。基地は台湾から約440マイル(約708キロ)に位置する。

中国ロケット軍を研究する専門家デッカー・イーブレス(Decker Eveleth)氏は、『NYT』が提供した画像を検証した上で「ほぼあらゆる作戦行動の訓練に対応できる巨大で完成度の高い訓練施設だ」と指摘。最大36基の発射台が追加されている点にも触れ、「通常は探知回避のため分散配備するのが通例で、これほど密集したクラスターは極めて異例だ」と述べた。さらに江西省の「616旅」も急速に拡張中で、衛星画像によれば、2020年のパンデミック最盛期でさえ大規模な造成を継続し、約18カ月後には新基地がほぼ完成。こちらは台湾により近い約360マイル(約580キロ)の距離にある。

新世代の「切り札」――DF-17と「グアム・エクスプレス」
さらに警戒すべきは、拡張された各基地により先進的なミサイルが配備されつつある点だ。専門家のデッカー・イーブレス氏は、衛星画像に映る倉庫の高さなどのディテールから、江西の616旅が極超音速ミサイル「東風(DF)-17」を配備する構えだと指摘する。DF-17は少なくともマッハ5で飛行し、大気圏内で機動・変軌できるため、現行の防空網での迎撃は極めて難しい。一方、習近平氏が昨年みずから視察した安徽の611旅には、中距離弾道ミサイル「東風(DF)-26」が配備済みで、射程がグアムの米軍基地に及ぶことから中国のネット上で「グアム・エクスプレス」と呼ばれている。 (関連記事: ハッカーが800ページ超の極秘文書を流出 ロシアが中国空挺部隊を訓練 中露軍事協力の深化で台湾に警戒 | 関連記事をもっと読む )

DF-26は通常弾頭と核弾頭のいずれも搭載可能で、公道機動からの発射にも対応し、追跡・破壊を格段に難しくする。米国防総省は、ロケット軍が現在およそ500基のDF-26を保有していると見積もる。元米海軍士官で現在は新アメリカ安全保障センター(CNAS)研究員のトーマス・シュガート氏は「ロケット軍は中国軍の“王冠の宝石”であり、中国の奇襲オプションの裾野を大幅に広げている」と評した。