大阪府は9月25日、「未来医療情報発信事業」として国内外メディア向け勉強会を大阪・中之島クロスで開催した。テーマは「大阪が開く未来医療の社会実装への道―万博で加速するエコシステムの形成と国際展開」。会場とオンラインで同時進行され、英語通訳も提供された。産官学の第一線で活躍する登壇者が、再生医療の最新動向と大阪の役割について語った。

大阪府・奥村健次推進官
大阪府商工労働部未来医療産業課推進官の奥村健次氏は、開会挨拶で「大阪・関西万博ではiPS細胞由来の心筋シートや『ミニ心臓』が注目を集めている。こうした技術は未来医療の象徴であり、産業化への期待も高い」と強調した。さらに「中之島クロスは開設以来、国内外から高い関心を集め、万博を契機に重要性が一層高まっている。大阪府として未来医療産業化を加速し、世界に誇るエコシステムを形成していきたい」と述べた。
澤芳樹理事長
基調講演に登壇した一般財団法人未来医療推進機構理事長の澤芳樹氏は、2020年に世界初となるiPS細胞由来心筋シートの臨床試験を実施し、治療を受けた8例の患者が良好な経過を辿っていることを紹介。「現在は薬事承認に向けた準備を進めている」と述べた。
一方で、糖尿病治療などiPS細胞を用いた臨床試験数では、米国や中国に大きく後れを取っている現状に触れ、「社会実装の遅れが最大の課題だ。このままでは日本がiPS細胞治療製品を海外から輸入せざるを得なくなる可能性もある」と危機感を示した。
また、中之島クロスの意義について「大阪医学の聖地である地に、産官学が連携して最先端のディープテック拠点を築いたことは極めて意義深い」と語り、すでに60社以上が入居し、今後200社規模のスタートアップ育成を進める計画を紹介。国際的な投資・人材育成の仕組みを整備し「日本のスタートアップを最初からグローバル水準で育成する必要がある」と強調した。
京大iPS財団・塚原正義センター長
京都大学iPS細胞研究財団研究開発センター長の塚原正義氏は、大阪府の補助事業として進める「My iPS」プロジェクトについて説明。「究極の個別化医療を実現するためにはコスト削減が鍵となる。特に製造と品質管理の自動化によって、再生医療の普及を目指す」と述べた。
塚原氏は、従来の手作業によるiPS細胞培養は極めて負担が大きいと指摘し、「機械化によって効率性と安定性を高め、世界中に普及できる基盤を築きたい」と語った。さらに「閉鎖系プロセスにおける無菌管理の確立」が重要であり、産学連携でその検証を進め、成果を国際学会などで発信していく方針を示した。
厚労省・羽野嘉朗企画官
厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画官の羽野嘉朗氏は、政府の創薬力強化策について講演。日本の医薬品市場規模は12兆円に達するが、世界における存在感は低下しており、生物医薬品分野での遅れや「ドラッグロス」の深刻化を課題に挙げた。
羽野氏は「官邸主導で創薬エコシステム構築が始まり、関係省庁が一体となって取り組んでいる」と説明。2024年には首相出席のもと「創薬エコシステムサミット」が開催され、2025年6月には官民協議会も発足したと報告した。さらに「革新的薬品等実用化支援基金」を創設し、複数年度にわたる安定的支援を可能としたことを紹介。「大阪・中之島クロスは、産官学の強みを集約し、日本の創薬・再生医療の国際競争力を牽引する拠点になる」と期待を寄せた。
編集:柄澤南 (関連記事: 日本、「万能人工血液」を開発 血液型不問で2年間保存可能 2030年の実用化を目指す | 関連記事をもっと読む )
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