近年、台湾海峡危機の注目度が高まり、世界は両岸関係の緊張に敏感になっている。米誌『ディプロマット(The Diplomat)』は、民進党政権が長年掲げてきた「抗中カード」が徐々に効力を失い、むしろ逆効果を招いていると指摘。その状況こそ北京当局の思惑通りであり、台湾は相手の罠にはまりつつあると警鐘を鳴らした。
民進党が直面する「内憂外患」
内政部政治分析師の徐光成氏と国際関係専門家のカルビン・チュー(Calvin Chu)氏は、「台湾における防衛への緊急感の衰退」と題する論考を『ディプロマット』に寄稿し、民進党が直面する「内憂外患」を分析した。
中国は近年、台湾に対する圧力を強め、侵攻の野心を隠そうとしない。他方で世界各国が台湾の安全保障を懸念する一方、台湾国内の警戒心はむしろ弱まっているという。記事は、その象徴が「大規模リコールの失敗」であり、民進党の「抗中保台」のスローガンが効力を失った事実だと指摘した。
習慣化する中国の圧力と台湾の麻痺
記事はさらに、台湾内部が中国の挑発に慣れてしまっている背景として、中国が近年、軍機や艦艇を常態的に派遣するだけでなく、法律上の論理を強化し台湾の防備意識を弱めてきたことを挙げた。その結果、民衆が中国の圧力を「日常」として受け止めるようになったとする。
“抗中カード”の逆効果
記事は、こうした状況に対し、民進党政権が一貫して「抗中カード」で対抗しているが、具体的な証拠を示すことなくスローガンに頼る姿勢が、かえって逆効果を招いていると警告した。すなわち、国民は「抗中カード」を政府が問題から逃げるための“万能カード”と受け止めるようになっているという。
必要とされる戦略的転換
記事は、台湾が今後取るべき対応として以下の点を挙げている。
- 単なるスローガンではなく、現在の国際情勢や中国の行動の可能性を具体的に国民へ説明し、政策と結びつけて理解を促すこと。
- そのためには、まず正式な国家安全保障戦略を策定し、口先の非難ではなく中国の浸透の証拠を提示する必要がある。
- 次に、政府と国民の間のコミュニケーションを強化し、政策判断の根拠を明確に伝えること。
- さらに、防衛論述には「敵の行動評価」や「システム化」といった科学的要素を組み込み、説得力を高めること。
中国の「分断戦略」への警戒
記事は最後に、最も重要なのは政治闘争の場で安易に「親中」レッテルを貼らないことだと強調。証拠が不十分なまま抗中カードを多用すれば、むしろ中国の「分化戦略」に巻き込まれる危険があると警告した。 (関連記事: トランプ氏は台湾を中国に委ねるのか 学者が警鐘「台湾放棄の危険」 | 関連記事をもっと読む )
編集:梅木奈実
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