「取引の芸術」に長けているアメリカのドナルド・トランプ大統領は、来月の韓国でのAPEC首脳会議の際に中国の習近平国家主席と会談する予定だ。近年の国際情勢を主導してきた米中対立、さらには「新冷戦」とも呼ばれる構図が、トランプ氏の一存によって大きく変わる可能性があり、各方面から注目が集まっている。トランプ氏の発言によれば、10月には韓国で習氏と会い、翌年には北京で再会し、その後はワシントンでも会談する計画だという。米中の指導者がこれほど短期間に相次いで顔を合わせる中で、今後の米中貿易関係が対立に傾くのか、それとも和解に進むのか、またテクノロジーや軍事分野での競争がどう展開していくのか、大きな関心が寄せられている。
仮に3度の「トランプ・習近平会談」が短期間で順調に行われるなら、冒頭からトランプ氏が強硬に出る可能性は低いとみられる。ただし、それも絶対とは言えない。何しろ彼はトランプ氏だからだ。予測不能なこの大統領の言動は、米国在台協会(AIT)が「台湾地位未定論」を改めて持ち出したことで、台北政界に激しい論争を巻き起こしている。与党・民進党系は「中国の歴史的な語りや法的戦術に台湾が絡め取られるのを防ぐための米国の配慮だ」と解釈する一方、国民党系は「米国が中華民国の主権を軽んじ、かえって両岸の緊張を悪化させた」と批判している。
実際、台湾地位未定論に対する解釈は、双方とも台湾の利益と安全を出発点としているが、その論理構造は大きく異なる。しかし、この問題の本質は歴史解釈や国際法の是非にあるのではなく、「トランプ氏本人がどう考えるか」、さらに「今後3度の首脳会談で習近平氏と台湾についてどう語るか」にあるといえる。残念ながら、この点で台湾が直接影響力を及ぼす余地はほとんどない。
トランプ政権復帰後初となる「トランプ・習近平会談」を目前に控え、米中対立の最前線に立つ台湾は極めて不確実な状況に置かれている。こうした中で、国際関係の権威ある専門誌『フォーリン・アフェアーズ』(Foreign Affairs)は今月(2025年9月)、二つの長文分析を掲載し、ワシントンと台北に向けて緊急かつ明確な警告を発した。アメリカの主要シンクタンクに属する研究者によるこの分析は、現在の米中台関係に「二つの致命的な誤判」が存在すると指摘し、修正が遅れれば台湾海峡、さらにはインド太平洋全体を不要な危機に追い込む可能性があると警鐘を鳴らしている。
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第一の誤判は、米国が中国の「世界覇権への野心」を過大に評価していること。第二の誤判は、台湾が自らの実力と交渉力を深刻に過小評価していることだ。二つの報告は、あたかも鐘を鳴らすように強い警告を発している。ワシントンと台北の双方が現実をより冷静かつ明確に認識することで、変化の激しい状況の中でも、平和と繁栄に向けた持続可能な道を歩むことができると結んでいる。
第一の誤判:中国は「修正主義の怪物」ではない
ワシントンでは長年にわたり、超党派の「鉄のコンセンサス」が形成されてきた。すなわち、中国は現行の国際秩序を転覆し、米国に代わって唯一の覇権国家になろうとしている、という認識だ。共和党の戦略家エルブリッジ・コルビー氏(現・国防総省政策部門の要職にある)も、民主党の戦略家ラッシュ・ドシ氏(バイデン政権で国家安全保障会議の中国・台湾担当副部長を務めた)も、この点では同じ結論に至っており、この「共通認識」が近年の米国の対中政策を方向づけ、軍事力強化や経済デカップリングへとつながってきた。
ところが、『フォーリン・アフェアーズ』(Foreign Affairs)に掲載された論文「中国が望まないもの」(What China Doesn’t Want)で、南カリフォルニア大学のデイヴィッド・カン教授、シャルジャ・アメリカン大学(UAE)のジャッキー・ウォン助教、ジョージタウン大学のゼノビア・チャン助教の3人は、こうした前提そのものを覆す主張を展開した。彼らの結論は、中国が領土拡張を企て米国と覇権を争うという主流の見方は「誤り」である、というものだ。
カン氏らは、中国の指導者や高官による数万件に及ぶ演説・論文を量的に分析。その結果、中国は野心的な「修正主義の怪物」ではなく、むしろ体制の安定を最優先する「現状維持型の大国(status quo power)」であることが明らかになったとする。米国が誤った前提で軍事的に対抗すれば、アジア太平洋に「本来回避できた危機」を生み出しかねないと警告した。
「中国脅威論」の神話を打ち破る
3人の筆者は、中国官僚の言動に表れる実際の目標を精査し、三つの核心的な観察を提示することで、ワシントンを覆う認識の霧を晴らそうと試みている。
まず、中国の目標は極めて明確で、しかも限定的であるという点だ。研究によれば、北京の関心はほぼ「地域的」な問題に集中しており、世界的な覇権を狙っているわけではない。その内容は、第一に東シナ海や南シナ海、インドとの未確定国境を含む主権問題、第二に香港・台湾・チベット・新疆といった、国際的に中国の領域と認められている地域の統治権の行使、第三に自国に有利な対外経済関係の構築である。ここでの目的は国際貿易を縮小することではなく、むしろ「拡大」することにある。
三つ目に、中国は国力を急速に拡大させてきたにもかかわらず、その要求や野心は比例して大きくなってはいないという点がある。アメリカの政策立案者がしばしば前提に置く「国の利益は国力の拡大とともに増加する」という理論とは対照的に、中国の指導層はむしろ膨大な経済問題や社会的課題といった国内問題に資源を注ぎ込んでおり、国外での拡張やイデオロギーの輸出には重きを置いていない。
中国が「望まないもの」と覇権の不在
カン氏らはさらに、中国が「何を望んでいないのか」を明確にした。彼らの研究によれば、北京の公式な言説の中には「領土拡張」「他国征服」「世界覇権の追求」といった野心はほとんど存在せず、イデオロギー輸出の証拠も見当たらない。中国共産党が強調する「中国特色社会主義」は、世界に普及させる普遍モデルとしてではなく、あくまで自国の問題を解決するための内向きの方策とされてきた。したがって、中国を伝統的な軍事的脅威とみなす米国の見解は根本的に誤っており、それに基づいたアジア太平洋戦略も重大な誤りを含んでいる。
3人の学者は、中国の意図を誤解したままでは米国は危険な道を進むことになると警鐘を鳴らす。太平洋地域における敵対的な軍事姿勢は資源の浪費であり、不必要な誤解を生むだけで、外交や経済という真に重要な問題の解決には逆効果だとする。特に「台湾の将来を軍事的威嚇で左右しようとするのは重大な誤り」であると強調する。
彼らはワシントンに対し、「軍事的対決を緩和し、中国を普通の競争相手として扱うべきだ」と提案する。その政策目標は「現状維持」であり、最も有効な方法は、かつてジョージ・W・ブッシュ大統領がとったように、北京に対して「台湾の現状を一方的に変えることは受け入れられない」と強く明示することである。台湾独立に反対する中国の核心的利益を尊重すれば、長期的な平和を維持できる可能性が高まるという。
また、米中はエネルギー転換、環境保護、世界的な公衆衛生といった課題において大きな協力余地を持っている。これらは軍事では解決できない分野であり、むしろ外交努力こそが不可欠であると論じている。カン氏らは、米国が中国の「限定的な目標」を正しく理解し、恐怖に基づく軍事封じ込めから、より実用的で効果的な外交・経済戦略へと転換すべきだと結論づけている。
第二の誤判:台湾の大きな能動性を過小評価している
ここ数年、台湾有事をめぐる議論は「中国が台湾に侵攻する可能性」を中心に展開されてきた。北京による記録的な軍拡、台湾周辺空域や海域への常態化した侵入、さらには「2027年までに解放軍に台湾侵攻能力を持たせよ」と習近平氏が命じたとの米国当局の警告など、数々の兆候が台湾の未来に不安を投げかけている。加えて、トランプ政権下の対台政策が一貫性を欠いたこともあり、元国務省高官クリスチャン・ホイットン氏が「台湾はこうしてトランプを失った」(How Taiwan Lost Trump)と題した論考を発表すると、台湾社会で大きな反響を呼び、「疑米」と「悲観」の空気をさらに強めた。
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しかし、元副大統領カマラ・ハリス氏の国家安全保障顧問を務めたフィリップ・ゴードン氏と、オバマ政権で国家安全保障会議の中国・台湾担当ディレクターを務めたライアン・ハス氏は、『フォーリン・アフェアーズ』(Foreign Affairs)誌に「台湾を失った者はいない」(Nobody Lost Taiwan)を共同寄稿し、この悲観論に真っ向から反論した。両氏は、台湾をめぐる不安が理解できるとしても「大きく誇張されている」と断じ、台湾は他の米国同盟国と違って、決して受け身の存在ではなく、自らを守り、局面を左右するための貴重なカードを握っていると強調する。適切にそのカードを切れば、台湾は繁栄を維持するだけでなく、北京の軍事的・政治的な策動を打ち砕くこともできるというのだ。
悲観論を覆す――台湾は想像以上に強い
ゴードン氏とハス氏は、確かに中国の脅威は現実であると認める。とりわけ、2022年のペロシ米下院議長の訪台以降、中国は台湾海峡で「新常態」を築いた。中間線の常態的侵犯、実弾演習による「台湾封鎖」、台湾上空を越えるミサイル発射など、その狙いは台湾への威嚇にとどまらず、米国の介入を阻止することにあった。だが両氏は、台湾が黙ってそれを受け入れているわけではないと指摘する。むしろ三つの重要分野で、外部の想像を超える強靱さと実力を示しているという。
第一のカード:「ハリネズミ」から「ヤマアラシ」へ――中国を抑止する国防の回復力
峡の中間線で人民解放軍と正面衝突を図る発想が主流だったが、その時代はすでに過ぎ去った。いま台湾が目指すのは、全身に棘を備えた「ヤマアラシ」(porcupine)のように、侵略者にとって容易に飲み込めない存在となることだ。
台湾はロシアに抗するウクライナの経験を取り入れ、「全民国防韌性」運動を推進している。現実に即した攻撃シナリオを想定した軍事演習を重ね、市民防衛の参加を拡大し、2022年には予備役を統合するための「全民防衛動員署」を設立した。軍では前線の指揮官により広い裁量を与え、変化の激しい戦場で即応できる体制を構築している。
装備の面でも大きな転換が進む。冷戦期の老朽化した戦闘機や戦車は退役し、ウクライナ戦場で効果を示した「ハイマース」(HIMARS)多連装ロケットや「NASAMS 3」防空システムといった最新兵器が導入されている。さらに米台間の防衛産業協力も加速し、無人機、スマート機雷、電子戦装備など、非対称戦力の共同開発が進展している。
両氏は特に、防衛費増額が超党派の合意となった点を強調する。賴清徳総統は来年度の国防予算をGDP比3%以上に引き上げ、2030年までに5%超を目指すと明言している。これは自らを守る決意を示すだけでなく、米国に対し「台湾は自らの責任を果たしている」という力強いメッセージとなっている。
第二のカード:中国の心理戦に免疫――団結した民主主義と社会の回復力
観測筋の多くは、中国が宣伝、メディア工作、TikTokなどを通じて台湾社会を内部から揺さぶろうとしていると警告してきた。しかしゴードン氏とハス氏は、その効果を裏づける証拠はほとんどないと断言する。最新の世論調査では、9割以上が自らを「台湾人」(63%)または「台湾人かつ中国人」(30%)と認識し、「中国人」と答えたのは5%未満だった。統一を望む層は8%以下にとどまる。北京の宣伝攻勢や威嚇行動は恐怖を植え付けるどころか、むしろ反発や嘲笑を呼んでいる。
さらに、台湾政治が深刻に分裂しているという言説も誇張されている。主要政党である民進党、国民党、民衆党はいずれも民主主義を支持し、共産主義に反対し、米国との関係を維持する方針で一致している。違いがあるのは「どう現状を維持するか」であって、「現状を維持するか否か」ではない。
第三のカード:「シリコンシールド」の絶対的な力――世界を動かす経済的切り札
報告が強調するのは、台湾の持つ経済的優位性だ。台湾企業は世界の最先端半導体の約95%を供給し、グローバル経済の生命線を握っている。AI時代の到来に伴い、台湾の地位はさらに強固になる。この現実は、米国が自国の利益のために台湾の安全を軽視できないことを意味し、取引を重んじるトランプ政権下でも覆らない。
半導体大手TSMCをはじめとする台湾企業は、防衛費増額を可能にする財政的基盤を提供し、米国との交渉で強力なカードを握っている。実際にトランプ政権が補助金受給の条件として株式譲渡を求めた際、TSMCは補助金辞退を辞さず拒否し、最終的に米側が譲歩した。米国内での巨額投資もまた、今後の米台交渉で台湾の立場を強固にするだろう。
最後に、ゴードン氏とハス氏は、中国の脅威やワシントンの不確実性が増す中で、台湾がただ受け身でいるべきではないと結論づけている。むしろ台湾の指導者と国民は、自らの未来を形づくる「切り札」を手にしていることを意識する必要があると強調する。防衛費の増額や米国への戦略的投資、そして地域の安定を支える信頼できるパートナーとしての役割を示すことで、台湾はワシントンとの関係をより主体的に築けると指摘する。
もちろん、トランプ氏が習近平氏との取引の中で台湾を犠牲にする可能性は完全には消えない。しかし、それでも台湾には十分な資源と能力があり、正しい判断と行動を重ねれば、自らを守るだけでなく、繁栄を持続することもできる。
両氏のメッセージは明確だ。台湾は国際情勢に翻弄される小国ではなく、軍事・社会・経済の三つの強みを駆使して未来を切り開くことができる主体である。危機の只中にあっても、その現実を直視し行動することこそが、台湾の「生存」と「発展」を同時に確かなものにするというのである。