2025年9月3日、米軍はベネズエラを出港した一隻の船舶を撃沈し、11人が死亡した。この報道は世界を震撼させ、なぜ米国がそのような行動に出たのか注目が集まっている。米国のトランプ大統領は、当該船舶がベネズエラの麻薬組織「アラグアの流れ(Tren de Aragua)」による運搬船であると主張し、米国が軍事力を用いて麻薬との戦争を宣言したと表明した。実際、米国はすでに2月の段階で「アラグアの流れ」や「太陽集団(Cartel of the Suns)」、さらにはメキシコの「シナロア・カルテル(Sinaloa Cartel)」など、ラテンアメリカの主要麻薬組織8団体をテロ組織に指定していた。
トランプ氏は、メキシコの麻薬組織が大量の麻薬を米国内に密輸していると非難し、とりわけ「ゾンビドラッグ」とも呼ばれるフェンタニル(fentanyl)を問題視している。フェンタニルとは何か。なぜ米国がこれほどまでに憎悪し、トランプ氏が「大砲で小鳥を撃つ」かのように国の重器を投入して軍事行動に踏み切ったのか。台湾の麻薬取締当局によれば、フェンタニルは強力な合成オピオイドであり、米国食品医薬品局(FDA)の承認の下で鎮痛薬や麻酔薬として使用されるが、厳格な規制薬物に指定されている。鎮痛効果はモルヒネの約100倍に達し、台湾で第一級毒品に分類されるヘロインと比較しても約50倍の効力を持つという。

フェンタニルがアメリカの街頭に蔓延 台湾も出遅れないように
麻薬取締当局はさらに、フェンタニルはわずか2ミリグラムで人を昏睡状態に陥らせ、呼吸を停止させて死に至らしめると指摘する。さらに恐ろしいのは、違法フェンタニルは低コストで製造が容易なため、麻薬組織がしばしば他の薬剤に偽装したり、処方鎮痛薬や向精神薬に紛れ込ませたり、あるいは別の違法薬物に混入させて巨額の利益を得ている点である。米国麻薬取締局(DEA)が押収した偽造薬のうち、4割以上にフェンタニルが混入しており、過剰摂取によって麻痺や死亡を招く危険があるという。違法フェンタニルはサンフランシスコやフィラデルフィアをはじめ米国の主要都市で蔓延し、「ゾンビドラッグ」と呼ばれている。推計では、年間7万人以上がフェンタニルの過剰摂取で命を落としている。
取締当局によれば、米国で蔓延する一方、台湾市場ではフェンタニルの流通はほとんど確認されておらず、そのため内政部警政署、海洋委員会海巡署、法務部調査局といった機関も、フェンタニルを主要な取締対象としてはこなかった。ところが2024年8月、米国麻薬取締局(DEA)が警政署など台湾の主力取締機関に協力を要請してきた。表向きは台湾国内での調査協力を求めるものだったが、実際には「責任追及」に近いものだった。米国で猛威を振るうにもかかわらず台湾とは直接関係のない違法フェンタニルが、なぜ台湾の警察、調査機関、海巡当局を緊張させ、さらには台湾の麻薬取締を統括する高等検察署検察長・張斗輝氏までも動かしたのか、注目が集まっている。
