中国の習近平国家主席に近いとされる人民解放軍幹部の失脚が相次ぎ、「政権基盤にほころびが出ているのではないか」との見方が広がるなか、日本記者クラブで11日、「中国でいま何が起きているのか」をテーマにした研究会が開かれた。登壇したのは神田外語大学教授の興梠一郎氏。中国政治や経済、外交に詳しい同氏が、10月に予定される中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議(4中全会)を前に、中国体制の矛盾と変質について語った。
経済失速の裏側 人民日報が示す中央と地方の矛盾
興梠氏はまず、中国政府の機関紙『人民日報』の記事に注目した。7月31日付の記事は「我が国の発展環境は深刻かつ複雑な変化に直面している」と認めつつ、「無秩序な競争を規制せよ」「地方の外資誘致を規範化せよ」と繰り返していた。興梠氏は「“こうしろ”と書くのは、実際にはできていない証拠。だからこそ正直で面白い」と評した。
中国経済の減速には、電気自動車(EV)補助金を背景にした過剰投資と激しい価格競争が影を落としている。さらに地方政府は古い産業であっても外資を誘致し、中央の方針と相反する行動を取っており、中央と地方の溝が深まっている。
対米関係の悪化と「断絶」のリスク
米中対立による輸出減と外資流出も、中国経済に打撃を与えている。興梠氏は「対米貿易は8月に前年比33%減少した。政治と経済が完全に矛盾した状態だ」と指摘。
さらに鄧小平時代の「韜光養晦(闘わず黙って力を蓄える)」路線と比べ、習近平政権はイデオロギーや軍事に傾斜しすぎており、西側諸国から孤立しつつあると分析した。「政治体制の維持を優先し過ぎれば、経済力があっても国際社会での地位は危うくなる」と警告した。
不動産依存からの急転換 投資と雇用に直撃
興梠氏は、中国経済の大黒柱だった不動産政策の急転換についても言及した。かつて中国では、不動産が「もっとも安全な資産」とみなされ、長年にわたり投資と地方財政の両輪を支えてきた。しかし「投機抑制」や「ダブル総量規制」といった厳格な政策によって市場は一気に冷え込み、販売面積・販売額ともにマイナスが続いているという。
「中国人は不動産だけは安心だと思っていた。そこが揺らげば投資家心理は急速に冷え込む」と興梠氏は指摘した。さらに、「AIや半導体などのハイテク産業は、付加価値は高くても雇用を大規模には生まない。地方政府の財政は土地売却収入に長く依存してきたため、不動産市場の失速は雇用と財政の両面に深刻な矛盾をもたらしている」と述べ、中国の経済運営が「革命的断絶」ともいえる急激な転換を迎えていると懸念を示した。
冷戦構図を想起させる軍事演出 国際イメージに打撃
また、最近行われた軍事パレードで中国・ロシア・北朝鮮の三首脳が並んだ光景について、興梠氏は「完全に冷戦時代の構図を思い起こさせる」と語った。「経済の現実とは逆行しており、西側諸国との関係を自ら悪化させている」と批判し、国際社会での中国のイメージが大きく損なわれていると指摘した。