ドナルド・トランプ氏がホワイトハウスに復帰したことで、世界情勢は再び大きく揺れ動いている。この「権力の再配置」の中で最も得をしているのは誰か――『エコノミスト』元編集長のビル・エモット氏は、日本の『毎日新聞』コラムでこう警告する。最大の受益者は中国の習近平国家主席であり、トランプ氏の孤立主義的な外交政策は「北京への贈り物」となりかねない。さらに、台湾海峡情勢に関する重大な誤算を招けば、その帰結は「世界全体にとって壊滅的なものになり得る」と指摘している。
米国不在の国際舞台 習近平の独壇場
エモット氏は、トランプ氏再選を最も喜ぶのは習近平主席だとし、その姿勢はすでに二つの国際イベントで示されたと論じる。一つは天津で開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議、もう一つは北京で開催された「抗日戦争勝利80周年」を記念する大規模な軍事パレードである。
いずれの場でも習主席はホストとして存在感を誇示し、多くの首脳を引きつけた。エモット氏は、もしトランプ政権がインド太平洋地域の同盟国やパートナーに対し、即座に関税障壁を設けたり無視する姿勢を取らなければ、こうした「習近平の舞台」は成立しなかっただろうと分析する。結果的に中国は国際的影響力を誇示し、同時にアメリカの孤立も際立つ格好となった。
もちろん出席した首脳の中には、ロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩総書記、イランのペゼシキアン大統領といった独裁色の強い指導者も含まれていた。それでも習近平氏にとっては大きな勝利である。彼はこの場を利用し、「トランプ政権下のアメリカとは異なり、中国こそが自由貿易や国際法、平和と安全の真の守護者である」と主張した。
エモット氏は、こうした言説が虚偽であることを強調する一方で、トランプ氏の対外的なイメージが極めて悪いため、中国が一時的に「善玉」を演じられるだけで十分に北京の利益となる、と結論づけている。
虚勢を張る習近平の同盟者たち
エモット氏は、中国が国際舞台を華々しく演出する一方で、私たちはその「政治ショー」に惑わされてはならないと指摘する。なぜなら、ロシア、イラン、北朝鮮といった出席国は実力ではなく「弱点ゆえに」北京に接近しているからだ。ロシアはウクライナ侵攻で泥沼に陥り、イランはイスラエルの軍事攻撃で戦力の限界を露呈し、北朝鮮は脆弱な経済を中国の支援に依存せざるを得ない。
言い換えれば、これらの国々は中国の「対等なパートナー」ではなく、事実上は覇権国に従う従属国に近い存在である。彼らの出席はむしろ、習近平が独裁国家群の中心にいることを示しているに過ぎない。なかでも象徴的とされるのはインドのモディ首相の存在だ。過去25年間、歴代米大統領は中国を牽制する要としてインドとの関係強化に努めてきたが、トランプ氏が政権復帰してわずか8カ月で、インドを習近平の隣に押しやってしまった。
エモット氏は、モディ首相の真意を性急に判断すべきではないとしつつも、トランプ氏のインドへの強硬な姿勢は「地政学的自傷行為」にほかならないと強調する。今回の中国主導イベントが新たな国際秩序を即座に形作ったわけではないが、アメリカが同盟やパートナーから孤立しつつある不吉な兆候を明確に示していると警鐘を鳴らす。