調査》台湾・盧秀燕台中市長ら15県市長が中央と激突　総予算に賴清德政権の「見せかけの財政操作」

2026年度の中央政府総予算案が発表され、歳出総額は3兆0350億元（約14兆5680億円）に達した。その中には過去最高額となる9495億元（約4兆5567億円）の国防予算が含まれている一方で、軍人の給与引き上げが見送られた点が注目されている。

台北市の蔣萬安市長は「学校の電気代」補助を中央が一方的に打ち切ったと批判し、行政院と対立した。これに対して行政院の李慧芝報道官は「新しい財政劃分法により地方交付金が大幅に増え、学校の水道光熱費には十分対応できる」と反論。雲林県の張麗善県長も卓榮泰行政院長に直接、「やっと補助金が確保できたのに、中央は左手で与え右手で引き上げる」と不満を訴えている。

実際、2026年度予算案では、地方交付税にあたる「統籌分配税款」が8841億元（約4兆2436億円）と、前年より4165億元（約2兆円）増加している。しかし配分方法の差で連江県のように逆に減額となる自治体もある。さらに「一般補助金」は前年と同額の2501億元（約1兆2000億円）に据え置かれた上、12項目の経費が「一般補助金」に振り替えられ、地方の自己負担が増える仕組みになっている。その中には、総統の賴清德政権が掲げる看板政策も含まれている。

​賴清德の看板政策「0～6歳国家が一緒に育てる」が「地方が一緒に育てる」に？​

予算書によると、賴清德総統が打ち出した「0～6歳国家一緒に育てる2.0」の2026年度予算では、教育部が管轄する「2歳～6歳未満の幼児教育・保育」に9.8億元（約47億円）が計上されたが、前年より678.8億元（約3257億円）減少。そのうち590.3億元（約2833億円）は新制度により「一般補助金」で地方が負担する。

衛生福利部が担当する「0～2歳の幼児ケア」予算も1.9億元（約9億円）と、前年から285億元（約1368億円）減額。このうち251.1億元（約1205億円）を地方の一般補助金に回す形となった。

結果として、2026年度の「0～6歳国家一緒に育てる2.0」の総額1136億元（約5453億円）のうち、実に74.06%を地方自治体が負担する構造となった。

内訳を見ると、衛生福利部と教育部が低料金の保育提供や指導サービスに579.8億元（約2783億円）、育児手当に286.9億元（約1377億円）、内政部が新婚・育児家庭向けの家賃補助に108.3億元（約519億円）、さらに労働部・衛生福利部・国防部による育児休職給付や保険差額補助に97.4億元（約467億円）、人工生殖や妊婦検査などの補助に37.6億元（約180億円）が計上されている。

多くの省庁で予算が大幅削減　地方への負担転嫁

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予算書によれば、教育部の「軍教課税」に関連する経費は0.6億元（約2.9億円）にとどまり、前年より72.3億元（約347億円）減少した。この全額が「財政劃分法」に従って一般補助金に振り替えられている。また、各地方政府が取り組む専任カウンセラーの増員や学生相談センターの運営、人件費補助なども1.7億元（約8.1億円）に縮小され、前年より31.5億元（約151億円）の削減。こちらも18.5億元（約88億円）が一般補助金として計上された。

内政部が進める「歩行者安全長期計画」の予算は0.7億元（約3.3億円）で、前年から47.6億元（約228億円）減額され、37億元（約177億円）が一般補助金に置き換えられている。下水道第6期建設計画の予算は18.1億元（約86億円）で、前年より126.8億元（約608億円）削減。このうち78.5億元（約376億円）が一般補助金化された。さらに公共下水処理場の再生水推進計画も1.3億元（約6.2億円）に縮小され、前年から43.7億元（約210億円）減少。そのうち17.4億元（約83億円）が一般補助金に振り替えられた。

環境部の「多様化ごみ処理計画（第2期）」も1億元（約4.8億円）に抑えられ、前年から11.1億元（約53億円）削減。4.5億元（約21億円）が一般補助金に計上された。「美質環境推進計画」も0.7億元（約3.3億円）で、前年より4億元（約19億円）減少し、3.2億元（約15億円）が一般補助金に回された。「水質改善推進計画2.0」に含まれる河川環境改善では、1.2億元（約5.7億円）が計上され、前年から3.6億元（約17億円）削減されつつ、5.7億元（約27億円）が一般補助金で処理された。

衛生福利部が進める「社会安全ネット2.0」経費も30.5億元（約146億円）に減額され、前年から36.4億元（約174億円）削られたものの、42.9億元（約206億円）が一般補助金に計上されている。障害者ケアサービス資源の整備費も10.3億元（約49億円）で、前年から18.1億元（約86億円）の減少。これも23.3億元（約112億円）が一般補助金に置き換えられた

2026年の補助金は「見かけ上の増額」　地方負担はむしろ拡大

これらの多岐にわたる経費が一般補助金へと振り替えられたことで、何が起きているのか。中央政府が地方に配分する財源には、統籌分配金、一般補助金、特定プロジェクト補助がある。本来、中央が直接負担すべき項目を一般補助金に振り替えることは、事実上その分を地方政府が背負うことを意味する。

2026年度の予算書では、中央から地方に渡る一般補助金は2501億元（約1兆2000億円）とされ、前年より636億元（約3050億円）増加したと説明されている。しかし、この「増額分」は実際には2025年度に行政院が自主調整で削った分を元に戻しただけにすぎない。さらに2026年度には、地方が新たに自己負担すべき予算として一般補助金に回された額が約1191.9億元（約5720億円）に上り、見かけの「増額」をはるかに超えている。

つまり、表面的には補助金が増えたように見えても、実際には地方政府の財政負担が大幅に拡大しているのが実情である。

地方政府が学校の電気料金補助を負担　台北市長・蔣萬安と中央政府が激突

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予算の一部が一般補助金に振り替えられただけでなく、「財政劃分法」によって直接「減額」された項目もある。代表例が台北市長・蔣萬安が問題視する学校の電気料金補助である。2026年度予算書では、各級学校の電気料金割引および料金凍結差額に30.9億元（約148億円）が計上されているが、前年より27.9億元（約134億円）削減された。また、地方への「小学校1クラスあたり教員数を1.65人とする」ための補助金も15億元（約72億円）に縮小され、前年より13.8億元（約66億円）の減少。これも「財政劃分法」に基づき直接削除された。

さらに、食品安全関連の経費は67億元（約321億円）、これに非営業特種基金5億元（約24億円）を加えて合計72億元（約346億円）が計上されたが、前年より22億元（約105億円）の減少。障害者支援関連の予算も300億元（約1440億円）とされ、前年より24億元（約115億円）減少した。削減の中心は、衛生福利部による低・中所得層向け生活・日間および宿泊ケア、補助器具助成の13億元（約62億円）削減や、交通部が掲げる「2030年バス電動化推進計画」の15億元（約72億円）削減とされている。これらはいずれも「財政劃分法」による見直しの影響だ。

低所得層および中低所得層向けの予算も127億元（約610億円）で、前年より15億元（約72億円）減少。その多くは衛生福利部が担う生活支援、教育、医療、看護や健康保険補助の13億元（約62億円）削減によるものだ。客家委員会の予算も31.3億元（約150億円）に一般補助金4.7億元（約23億円）を加えた36億元（約173億円）とされ、前年より5.8億元（約28億円）減、13.9％の減少となった。

一般補助金の定義修正に国民党議員が反発「中央集権化だ」

2026年度予算では、花東地区への補助費が98億元（約470億円）、営業・非営業特種基金332億元（約1593億円）を合わせた総額430億元（約2064億円）で、前年より126億元（約605億円）の減少。また、金門・馬祖・澎湖など離島向け補助費も72億元（約346億円）、営業・非営業特種基金174億元（約835億円）を含む総額246億元（約1181億円）となり、前年より70億元（約336億円）減少した。いずれも「財政劃分法」に基づく削減措置だ。

さらに、主計総処は2025年8月29日に「中央から地方政府への補助基準」を修正公告した。従来、一般補助金の定義は「地方政府の基本的な財政収支の不足を補完する教育・福祉・基盤整備等の補助」とされていたが、改正後は「継続的、普遍的、基礎建設または維持運営、財政均衡に関する事項」と変更された。これに対し、国民党の吳宗憲議員は「一般補助金の定義を曖昧化し、中央の配分権限を強めるものだ」と強く批判している。

地方政府が「資金を乞う」事態に？盧秀燕ら地方首長が抗議

新たな法改正により、地方政府が各省庁に一般補助金を申請する際には、計画審査や評価基準、財務計画の検証基準、支払い方法などを行政院に提出しなければならなくなった。国民党の立法院党団は「これでは地方が中央に資金を乞う形になる」と反発している。

立法院予算センターの陳玉清主任は「新しい『財政劃分法』第30条第3項では、一般補助金は改正前の年度予算額（2501億元＝約1兆2000億円）を下回ってはならないと定められている。行政院はこの規定を満たしつつ、多くの政策経費を一般補助金に振り替えることで、事実上中央の支出削減を実現している」と指摘。結果的に多くの政策負担が地方に押し付けられていると分析した。

こうした中央の財政操作に地方の不満は高まり、台中市長で国民党の2028年総統候補と目される盧秀燕は、15の県市長（国民党系、無党派含む）を率いて中央への抗議を主導。「一般補助金を申請制にするのは不当であり、基盤整備など計画型補助金は恣意的に審査すべきではない」と訴えた。

一方、総統の賴清德は「財政劃分法の問題は民進党の責任ではなく、国会での藍白勢力（国民党と民衆党）の修正が生んだ結果だ」と反論。こうして中央と地方の「財政戦争」は新たな局面を迎え、与野党の対立はさらに激化している。

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​編集：田中佳奈 

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