天王洲を舞台に9月11日から開幕する「TENNOZ ART WEEK 2025」を前に、10日午後、プレス向け内覧会が開催された。WHAT MUSEUMをはじめとする寺田倉庫の各拠点で、作家やキュレーターが登壇し、展示解説や質疑応答、フォトセッションを通じて報道関係者に向けて今年の見どころが披露された。

冒頭では、寺田倉庫取締役専務執行役員・WHAT MUSEUM副館長の秋元雅宏氏が挨拶に立ち、「9月11日から15日の期間、天王洲のアート関連施設をすべて開放し、多彩なイベントを展開する」と説明した。また「本イベントは横浜で始まった世界規模のアートフェアを契機に東京で展開し、今回で3回目となる」と語り、さらに「WHAT MUSEUMは設立から5年を迎え、初めてアーティストやクリエイターとの協働を新たな軸として打ち出す。その第一弾として諏訪敦氏の個展を迎えることができた」と強調した。

続いて行われた諏訪敦氏の個展「きみはうつくしい」では、作家本人が登壇し「一枚一枚の作品は過去の自分の姿であり、多くは亡くなった人々から気づかされたものだ」と語った。人物画から離れ静物を描いていた理由について「母を看取った経験のなかで人間の美しさを信じられなくなった」と説明しつつ、「静物を描くことは楽しかったが、人物画に復帰することは大きな個人的なステップでもあった」と心境を明かした。

展示構成を担った宮本武典キュレーターは「徹底した取材と準備に基づいた作品は単なる写実を超えて死や喪失のテーマを浮かび上がらせている」と説明した。展示は三章構成で、第一章はリアリズムの限界を示す作品群、第二章は遺族との対話を通じて描かれた肖像画、第三章は祖母や両親を主題とする家族の肖像で構成されると紹介。「他者の死から家族の死へと視点が移っていく過程が示されている」と解説し、文学者との協働による新たな解釈にも言及した。 (関連記事: 天王洲アートウィーク2025開幕 寺田倉庫で織りなす「境界・記憶・自然」のアート対話 | 関連記事をもっと読む )

会場では記者からの質問も行われた。諏訪氏は「静物を描くことは楽しかったが、やはり人物画に戻らなければならないという義務感があった」と回答した。そのうえで「母を描いたとき、人を文化化する冷酷さを自分の中に感じた。しかしそれは避けて通れない課題であり、人物画を続ける上で直面せざるを得ない」と語り、自身の制作における複雑な思いを吐露した。
