中国外交部は9月8日午前、公式サイトで声明を発表し、日本の参議院議員で華人出身の石平氏に対する制裁を明らかにした。声明では「即日より、石平氏が中国国内に所有する不動産や動産など全ての資産を凍結し、中国国内の組織や個人が彼との取引・協力を行うことを禁止する」とした。また、本人と直系親族にはビザを発給せず、中国本土だけでなく香港・マカオへの入境も認めないと通告した。
これは帰化した華人の日本国会議員が制裁対象となった初の事例であり、近年悪化している中日関係の中でも、特に中国政府の強い不満を呼び起こしたものとされる。中国側の狙いは、日本に対して中日国交正常化の条約を厳守するよう警告する意味合いがあるとも解釈されている。
中国外交部は石平氏について「長年にわたり台湾、尖閣諸島、歴史、新疆、チベット、香港の各問題で誤った言論を展開し、靖国神社を公然と参拝してきた。これは中日間の四つの政治文書と一つの中国原則に深刻に違反し、中国の内政に重大な干渉を加え、中国の主権と領土の完全性を著しく損なった」と非難した。
石平氏とは何者か
石平氏(通称・北野陽)は1962年、中国四川省成都市の生まれ。1984年に北京大学哲学科を卒業し、1988年に公費留学生として来日した。天安門事件が起きた1989年、彼は「中華人民共和国との精神的決別」を宣言して帰国を拒み、日本に留まった。その後評論家や作家として活動を続け、2007年に日本国籍を取得。今年3月の参議院選挙で当選を果たし、全国的に広く知られる存在となった。
彼は文化大革命期に迫害を受け、その後の民主化運動に触発されるなど、中国の体制と対立する歩みを経てきたことが、北京当局からの強い敵視につながっている。
李登輝氏との会見と台湾民主化への評価
石平氏は1980年代、中国で民主化運動が高揚していた時期から、中国社会の問題について率直に批判を重ねてきた。その姿勢が、後に「中共にとって極めて誤った言論」とされ、北京から目の敵にされる主要な理由となった。
2008年には台湾を訪れ、李登輝元総統と面会。帰国後に発表した文章では「1990年代初頭、李登輝総統の下で実現した台湾の民主化の成功は、私たち世代の中国青年に巨大な影響を与えた」と記し、台湾の民主主義を高く評価した。さらに「中国は民主化を望むと口では言いながら、独裁体制を維持するために虚偽のドグマを信じ続けている。これは自己矛盾そのものだと悟った」とも述べている。
2014年には尖閣諸島をめぐる問題について、「尖閣は日本固有の領土であり、日米同盟を基軸に中国に対抗すべきだ。中国は張り子の虎にすぎず、外交手段は脅迫と威嚇ばかりで、日本は恐れる必要はない」と発言した。

これらの言論は中国国内で激しい反発を呼び、同年、中国共産党系のタカ派メディア『環球時報』は「漢奸石平:中方在釣魚島問題上態度強硬令人擔憂」(売国奴・石平:中国が尖閣問題で強硬姿勢を取るのは懸念すべきだ)という見出しの記事を掲載。ネット上では「中国30年来初めての公認漢奸」と批判が集中した。「漢奸」とは、中国本土で「民族を裏切り敵に協力する者」を意味する強い侮蔑表現である。
今回9月8日に外交部が石平氏への制裁を発表した直後も、国営CCTVニュースが微博で「漢奸石平」という見出しで報じ、中国当局がこのレッテルを改めて強調した。
しかし石平氏本人はX(旧Twitter)で反論し、「私は中国に財産を一切持っておらず、訪問する意図もない。資産凍結やビザ拒否は彼らの茶番にすぎない。むしろ制裁を受けたことを光栄に思う」と書き込んだ。
中国本土の民間の反応
石平氏が制裁対象となったニュースは、日本で石破茂首相が辞任した直後に伝えられ、そのタイミングに注目する声も多かった。SNS上では「父を知らず祖先を忘れ、喜んで漢奸となり、祖先を危険にさらした。彼への反制を支持する」といった厳しいコメントが相次ぎ、民間でも強い敵意が表明された。
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