9月3日、中国は「抗日戦争および世界反ファシズム戦争勝利80周年」を記念し、北京・天安門広場で大規模な軍事パレードを実施した。人民解放軍と武装警察部隊が合わせて45の部隊を編成し、地上と空から閲兵を受けた。2019年の建国70周年記念のパレードと比べ、2025年の今回の「九三軍事パレード」では新型装備の公開が増え、解放軍が全領域で新たな戦力を構築している成果を示した。これは国際的な軍事関係者の注目を集め、米国や西側諸国、日本の軍当局に衝撃を与えるとともに、解放軍の実際の戦力や戦略的意図の再評価を促すものとなった。長年にわたり解放軍から直接的な脅威を受けてきた台湾軍にとっても、このパレードが台湾海峡防衛作戦に警鐘を鳴らすものであることは言うまでもない。
関係筋によれば、台湾軍の情報部門はここ数日間、公開された装備の分析を行い、今回登場した兵器はいずれも現役配備されている実用兵器であり、少なくとも一部の部隊に実際に装備されていることを確認した。開発段階にとどまる兵器を用いて虚勢を張った形跡はなかったという。台湾軍関係者は「今回の解放軍の狙いは、パレードを通じて米国や西側に対し『信頼できる抑止力』を示すことにある。不完全で戦力化されていない兵器を混ぜて誤認させても、米国の強力な情報収集・分析能力によって直ちに真相を見抜かれるだろう。その場合、虚偽が露呈すれば北京は大きく面目を失い、米国と対等に張り合うつもりでいた解放軍の評価はかえって下落しかねない」と指摘した。
中国国家主席習近平氏(中央)、ロシア大統領プーチン氏(左)、北朝鮮指導者金正恩氏(右)が共にパレードに参加。(写真/AP)通信提供)
解放軍九三軍事パレードの新兵器 半数以上は米軍に照準 さらに台湾軍の情報部門は、今回の九三軍事パレードで披露された解放軍の新装備の過半数は、米軍を標的として精密に設計されたものだと分析している。その狙いは、台湾海峡で戦争が勃発した際、西太平洋に展開する米軍戦力を短時間で壊滅・無力化し、日本の自衛隊の介入を抑止するとともに、米軍の後続増援が第二列島線から第一列島線へ進入するのを阻止し、解放軍が台湾海峡で速戦即決を実現することにあるという。軍関係者によれば、核ミサイル部隊が披露した「驚雷-1」空中発射型長距離核ミサイルや、射程1万2000キロ以上に達する大陸間弾道ミサイル「東風-5C」「東風-31BJ」「東風-61」などは、いずれも米国や西側を直接に狙ったものであり、台湾そのものとは無関係である。
同関係者はさらに強調する。極超音速ミサイル部隊が公開した「鷹撃-21」や「東風-17」極超音速ミサイル、「東風-26D」中遠距離対艦ミサイル、また海上対艦作戦部隊で初めて姿を見せた「鷹撃-15」「鷹撃-17」「鷹撃-19」「鷹撃-20」といった極超音速対艦ミサイルも、その主な攻撃対象は在日米軍、フィリピンやグアムの米軍基地、さらに西太平洋を行動範囲とする空母打撃群である。
一方で、軍事情報関係者の間で最も注目と議論を呼んだのは、大型無人潜水艇「HSU100」や全長20メートルの「AJX002」無人潜水艇である。米欧の一部軍事専門家は、台湾への武力行使の際に海上封鎖に投入され得るとみているが、台湾軍情報部門の分析では、これらは長時間の水中活動が可能で、偵察や攻撃任務に従事できる特性を持つことから、実際の戦時には第一・第二列島線の外洋に投入され、米国の原子力潜水艦の作戦上の優位性を打ち消す補助戦力として用いられる可能性が高いとみられる。そのため、台湾周辺海域に直接投入される確率は低いとの見方を示している。
HSU100無人潜水艦は軍事情報関係者の注目を集めるが、主な任務は米軍への対抗であり、台湾周辺での使用は少ないとされる。(写真/AP通信提供)
2種類の武器は台湾の弱点を狙う 国軍は警戒と恐れ 台湾軍の分析によれば、今回の九三軍事パレードにおいて台湾防衛作戦に直接関わる装備は、解放軍海軍陸戦隊による「両棲突撃部隊」、空降兵による「空降突撃部隊」、陸軍の「長距離火砲部隊」、さらに陸・海・空それぞれの「無人作戦部隊」である。台湾軍関係者は、解放軍が披露した新型両棲車両や火力強化型の空降歩兵戦闘車は、実際に戦場で国軍が必ず遭遇する主力兵器とみられるとしつつも、これら軽装甲車両の脅威は限定的であると指摘した。上陸後には、台湾軍が広く配備する「紅隼」携帯ロケット弾すら防ぎきれず、自爆型無人機による攻撃を受ければ生存は困難だと見られる。
台湾軍が最も警戒するのは、長距離火砲部隊に属する「PHL-191」多連装ロケット砲と、無人作戦部隊に配備された各種ステルス無人機である。軍事情報関係者は「この二つは台湾軍の弱点を直接突く兵器であり、現行装備や調達中の兵器体系では有効な対抗手段を持たない」と語った。PHL-191は「箱型長距離ロケット砲」とも呼ばれ、2019年のパレードで初登場した際、中国中央テレビは「精密打撃能力を備える自走火砲」とのみ紹介していた。ところが翌2020年には早くも福建省沿岸に実戦配備され、解放軍第73集団軍(廈門駐屯)の砲兵旅に一個PHL-191大隊が所属していることが確認されている。
PHL-191は射程300キロに達し、「中国版ハイマース(HIMARS)」とも称される。しかし当初の部隊編制は未完成で、300ミリ・370ミリ誘導ロケット弾のみを搭載し、米軍の陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)に相当する兵器は欠けていた。だが、今回の九三軍事パレードで披露されたPHL-191は完全版とされ、車両搭載の370ミリ誘導ロケット弾8発に加え、750ミリ「火龍480」戦術ミサイル2発を搭載できる仕様が明らかとなった。現在、解放軍13個集団軍すべてがPHL-191大隊を保有しており、従来のPHL-03大隊と高低併用の態勢を形成している。特に台湾正面の作戦を担う福建省の2個集団軍については、すでに台湾に届かないPHL-03を廃し、PHL-191に置き換えた可能性が高いとみられる。
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中国人民解放軍の極超音速対艦ミサイル「鷹撃(YJ)17型」。(写真/AP通信提供)
台湾西部はすでに解放軍の長距離ロケット砲の射程圏内 それは未来ではなく現在の脅威台湾軍情報部門が把握しているPHL-191の性能データによれば、370ミリ口径の「火龍280」ロケット弾は射程約300キロ、新たに就役した「火龍480」戦術ミサイルは最新型のBRE10を搭載し、射程は500キロに達する。いずれも北斗衛星測位システムによる誘導と空力舵面制御を採用し、命中精度は半径10メートル程度とされる。これは米国製ハイマース(HIMARS)の5メートルに近く、従来台湾攻撃の主力と見なされてきた東風11・15短距離弾道ミサイルを代替し得る性能である。特にPHL-191は、370ミリロケット弾でも750ミリ戦術ミサイルでも先進的な箱型モジュール発射機構を採用しており、打撃効率はPHL-03長射程ロケット砲を大きく上回る。さらにロケット弾は弾道ミサイルに比べて製造コストが低廉であり、単純に「量」で圧倒するだけで台湾軍を翻弄し得る点も脅威とされる。
台湾海峡の平均幅は約180キロであり、厦門市沿岸から台中市までは直線距離約250キロ、最も広い南端でも広東沿岸から台南市までは300キロに満たない。したがってPHL-191の射程は台湾本島の中央山脈以西をほぼ全域カバーすることになる。近年の解放軍による台湾包囲演習でも、長距離ロケット砲を用いた台湾の天然ガス備蓄施設など重要インフラへの精密攻撃が繰り返し想定されてきた。台湾軍関係者は「台湾西部がすでに解放軍長距離ロケット砲の射程圏内にあるという危機は、『未来形』ではなく『現在形』である」と強調している。
解放軍のPHL-191ロケット弾は低コストかつ大量配備が可能であり、台湾軍のハイマース(写真)では対応が困難とされる。(写真/劉偉宏撮影)
「大砲で小鳥を撃つことはあり得ない」――共軍の長距離ロケット弾に対し、愛国者ミサイルを迎撃に使うのはコストが高すぎる 2025年の九三軍事パレードで「火龍480」戦術ミサイルがPHL-191システムに正式編入されたことが確認されると、国防部前視察官の盧徳允氏は直ちに警鐘を鳴らした。彼は「PHL-191の攻撃範囲が台湾全島を覆うことを意味し、とりわけ山脈に守られてきた花蓮や台東までもが、低コストかつ大量に配備されたPHL-191各種弾種の攻撃にさらされる」と指摘した。さらに、台湾軍が配備するいかなる防空・迎撃システムの組み合わせも、数の優位による圧力の前には無力化されかねないと強調した。軍関係者も「盧氏の警告は台湾軍が最も懸念する核心を突いている」と認めている。
台湾軍は長年、台湾海峡防衛作戦の想定において、中国軍の短距離弾道ミサイルや巡航ミサイルへの対処を最優先に掲げてきた。そのため、愛国者ミサイルや天弓シリーズによる防空・迎撃システムを巨額の費用で整備してきた。近年ではさらに1,800億台湾ドル以上を投じ、最大12セットのNASAMS(国産先進防空ミサイルシステム)を導入し、空軍基地など要所の防空力を強化している。
しかし、これら高価な防空兵器は、中国軍の東風シリーズ短・中距離弾道ミサイルや「長剣」巡航ミサイル、さらには戦闘機部隊の迎撃には一定の効果を発揮し得るものの、数にものを言わせる長距離ロケット砲への対応には力不足が否めない。特に、米製パトリオット迎撃ミサイルで、単価がその5分の1程度に過ぎない火龍480戦術ミサイルを迎撃するとなれば、コスト面で極めて不合理であるうえ、防空ミサイルの備蓄も短期間で枯渇する危険性が高い。
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愛国者防空ミサイル(写真)は高価であり、解放軍の戦術ミサイル迎撃に使用するのはコスト面で極めて非効率とされる。(写真/張曜麟撮影)
PHL191ロケット砲+ステルス無人機 浮き彫りになる台湾軍防衛作戦の劣勢 台湾軍情報関係者の分析によれば、解放軍が台湾攻撃を開始する際、第一撃・第二撃には必ずPHL-191ロケット砲が投入され、各種弾道ミサイルや巡航ミサイル、さらに戦闘爆撃機による精密誘導兵器と同時運用される見通しだという。その狙いは、最短時間で台湾の空港、港湾、指揮通信網、燃料・弾薬補給施設など重要拠点を破壊し、一挙に国軍の反撃能力を麻痺させることである。その後の台湾本島縦深への防衛拠点遮断攻撃は主に空軍が担うが、台海制空権が確立されていない状況では、戦闘爆撃機や無人機による爆撃には必ず盲点が生じ、地上部隊の機動や携帯式防空ミサイルによる迎撃を受ける恐れがある。この不足を補うのが、高精度かつ長射程を持つPHL-191であり、攻撃継続のための強力な支援火力を提供する役割を果たす。
軍事情勢に詳しい関係者は「PHL-191に加え、解放軍の新型無人戦力が組み合わされれば、台湾軍防衛作戦の劣勢はさらに際立つ」と指摘する。九三軍事パレードで公開された「攻撃-11」ステルス無人機や、殲20Sステルス戦闘機と連携可能とみられる4種類のステルス超音速無人機は、解放軍が米空軍より先に有人・無人協同作戦の「忠実僚機」分野へ踏み込んだことを示した。致命的なのは、これらの無人機が戦争初期に音もなく台湾上空へ侵入し、愛国者や天弓ミサイル陣地といった高価な防空資産を破壊するだけでなく、移動式レーダーや防空・対艦ミサイル発射車を追尾・攻撃する点である。もし台湾軍の防空能力がステルス無人機によって急速に削がれれば、PHL-191をはじめとする解放軍の各種精密兵器の攻撃に耐えることは、さらに困難となる。
中国共産党の九三軍事パレードで公開されたステルス無人機「攻撃-11」。しかし台湾軍は現時点で有効な対抗手段をほとんど持たない。(写真/AP通信提供)
ステルス無人機に打つ手なし 台湾軍の転換は厳しい試練 関係筋によれば、ここ2~3年の間に台湾軍の意思決定層は大きく方針を転換し、従来軽視していた無人作戦を重視するようになった。現在は攻撃型無人機や無人艇の部隊編成に力を入れているが、対無人機分野においては技術的蓄積の不足や資源配分の制約から進展は限定的である。台湾軍は台湾周辺で活動する中大型の非ステルス無人機への対応には一定の能力を持つものの、超小型無人機への監視能力は大きく低下し、ましてステルス無人機に対しては有効な対策が存在せず、現有センサーでは発見すら困難な状況だ。
軍関係者は「PHL-191ロケット砲の脅威に効果的に対抗するには、低コストかつ効率的な防空システムの開発や、米国を通じたイスラエル製『アイアンドーム』システムの調達が有効だ」と指摘する。その一方で、ステルス無人機への対抗には、レーダー探知、電子妨害、さらにレーザーやマイクロ波といった指向性エネルギー兵器を組み合わせた包括的な早期警戒・撃破システムの構築が不可欠だと強調する。だが、現在の台湾軍は資金には比較的余裕があっても、時間と技術が不足しており、この課題は極めて困難でありながらも避けて通れない厳しい挑戦だとしている。