中国は本日午前9時(日本時間10時)、北京・天安門広場で「中国人民抗日戦争および世界反ファシズム戦争勝利80周年」記念大会と軍事パレードを実施した。国家主席の習近平氏は約10分間の演説を行い、ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩氏を含む26か国の首脳が見守る中、中国の戦略的立場と政策方向を示した。演説では「台湾」の名は一度も登場しなかったものの、「国家主権・統一・領土の完全性を断固として守る」と繰り返し強調しており、対台湾政策の姿勢を間接的に示したと受け止められている。
現場の映像によると、習近平氏は深色の中山服で天安門城楼に登壇し、80発の礼砲に続き演説を開始。演説冒頭で、中共中央・全国人民代表大会・国務院・全国政協・中央軍事委員会を代表して抗日戦争の元老兵を称え、支援した外国政府や国際関係者への感謝を述べた。この礼節ある開幕は、歴史への敬意を示すとともに、後続の政治的主張に道徳的な正当性を与える効果を持つ。
演説の主な内容:
- 「中国人民抗日戦争は世界反ファシズム戦争の重要な一部である」
- 「歴史は人類の運命が共通であることを警告する」
- 「中華民族は強国に屈せず、自立自強の偉大な民族である」
- 「今日、人類は平和か戦争か、対話か対抗か、共益かゼロサムかの選択に直面している」
- 「全軍は世界一流の軍隊建設を加速し、国家主権・統一・領土の完全性を断固として守る」
抗戦史の解釈と中共の主導性の強調
習近平氏は演説の歴史回顧部分で、中国共産党が抗日戦争で果たした中心的役割を強調した。「中国人民抗日戦争は困難を極めた偉大な戦争である。共産党が掲げた抗日民族統一戦線の旗の下、中国人民は鉄の意志で敵に立ち向かい、血肉の城を築き、近代における外敵侵略への初の完全勝利を収めた」と述べた。この表現により、中共は抗戦の主導者であることを示す形となり、台湾側が主に国民政府主導であったとする史観との対比が鮮明となった。
さらに、「中国人民抗日戦争は世界反ファシズム戦争の重要な一部であり、中国人民は巨大な民族的犠牲を払いつつ、人類文明の救済と世界平和の維持に大きく貢献した」と述べ、抗戦の世界史的意義を強調。これにより中国の国際的役割を歴史的に正当化し、「人類運命共同体」構想への歴史的裏付けを提供する狙いがある。
習近平氏は、中共が抗戦における「中流砥柱」であったことを強調することで、政権の歴史的正当性を再確認すると同時に、台湾に対する統一論の根拠を補強した形だ。もし中共が抗戦の主導者であると認められれば、戦後の中国政治体制も中共中心であるべきとの論理が導かれ、これにより中華民国政府の正統性を相対的に疑問視する効果が生まれる。
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平和発展路線の背後にある戦略的意図とは?習近平の三重表明を分析
習近平氏は国際情勢について、「今日、人類は平和か戦争か、対話か対抗か、共益かゼロサムかの選択に直面している」と述べた。この二元的表現は、国際社会が重要な歴史的転換点にあることを示唆すると同時に、米国を潜在的な対抗勢力として想定し、中国の選択が世界の進路に決定的影響を与える可能性を暗示している。