アメリカのトランプ大統領は、就任以来数多くの新政策を次々と打ち出し、その影響はすでに科学分野にまで及んでいる。日本の専門家は、トランプ政権が移民政策の縮小や科学予算の削減を行っていることについて、「その影響は即座には現れないものの、数年後には重大な副作用が現れ、最終的には国際的な力関係を大きく変える可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
科学の実力は一朝一夕では培われない
日本経済新聞の報道によると、日本国立研究開発法人「医薬基礎・健康・栄養研究所」の理事長である生医学専門家、中村祐輔氏は、「現在のアメリカの科学政策は、トランプ大統領の個人的な好悪が反映されている」と述べた。特に反ワクチン政策やハーバード大学に対する姿勢からも、トランプ氏の政策はユダヤ人やイスラエル寄りであることが見受けられる。「ハーバード大学はアメリカを象徴する大学であり、その象徴を標的にすることで他の大学にも従わせる意図がある」と分析している。
中村氏はさらに、「アメリカの影響力の源泉は、優れた人材を継続的に集める力にあった。しかし、トランプ政権はその源泉を断ち切ってしまった。これがアメリカにとって非常に不利であり、この政策が4年間続けば、アメリカの科学力は確実に低下するだろう。中国がトップに立つ可能性もある」と警告している。
また、トランプ政権が科学予算を削減し、その分の資金を減税政策に充てることを目指しているが、科学実力の低下は短期的には現れないものの、数年後には顕著に現れると予測している。「科学力は一朝一夕に向上するものではなく、積み重ねが必要だ」と強調している。
現年72歳の中村氏は、東京大学医科学研究所、理化学研究所ゲノム医学研究センターのセンター長や、アメリカ・シカゴ大学の教授などを歴任した。2022年からは「医薬基礎・健康・栄養研究所」の理事長を務めており、疾病分析や治療に役立つ遺伝子マーカーの発見に貢献し、「ゲノム医療」の分野で世界をリードしている。

日本には中長期的な科学戦略が欠けている
中村氏は、科学力の低下が最も顕著に表れている国として日本を挙げた。「アメリカの研究環境の悪化は、日本の研究機関が優れた研究者を招くチャンスとなる。しかし、どのような戦略を取るかが重要だ」と語る。日本の大学は「名前だけでは優れた人材を惹きつける魅力がない。たとえ10兆円規模の基金があっても、トップクラスの科学者が日本に来ることはない」と指摘している。
さらに、中村氏は日本が中長期的な戦略を欠いており、優秀な人材に対する投資が不足しているため、世界的なランキングが低下していると指摘。「日本は遺伝子研究などの重要な時期に投資を怠り、予算はiPS細胞研究に偏っている」と述べた。
また、海外から優秀な研究者を招聘する際には、長期的ビジョンが絶対に必要であり、国家の責任として未来の展望を描く必要があると中村氏は指摘した。「現在の日本の議論は表面的であり、せっかく人材が日本に来ても、彼らを留めるのは難しい」と述べ、さらに「アメリカに住むインド系や東南アジア系の情報領域の研究者に日本で活躍してもらうためには、情報関連の人材が深刻に不足している現状を改善し、優秀な人材を日本に惹きつけることが非常に重要である」と強調している。

責任ある国は未来を見据えるべき
中村氏は、生成AI(人工知能)などの新技術が医療に革命をもたらす可能性を指摘。AIは誤診や処方ミスを減らし、医師の働き方改革を通じて医療の質を向上させることができると述べた。「患者への説明もAIが担当することで、医師が直接行わなくてもよい環境を作り出せる」と提案している。
また、日本は遺伝子治療やiPS細胞を用いた再生医療の産業化において遅れを取っており、「重要な政策が個人の好みに基づいて決定されることで、このような状況が生じている。アメリカの現在の状況も一つの極端な例だ」と警告している。
中村氏は、科学力が国力、特に軍事力を強化することにつながるとし、「科学力が強い国は軍事能力も高まる可能性があり、これは国際的な影響力を増す要因になる」と述べている。アメリカの科学力の低下は、長期的に国際的な力関係を大きく変えるだろうと予測しており、「もし10年、20年後にアメリカ主導の国際秩序が逆転すれば、世界は不安定な状況に陥るだろう」と強調した。
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編集:田中佳奈
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