台湾の与党・民進党は、7月26日と8月23日に相次いで行われた大規模なリコール投票で敗北し、立法院(国会)における野党多数の構図を覆すことができなかった。むしろ、与党としての基盤が大きく揺らぐ危険に直面した格好だ。多くの地方議員にとって、この敗北は単なる選挙結果ではなく、長年盤石と考えられてきた中南部の「伝統的な票田」が、もはや絶対的な支持を保証するものではなくなったことを示す重大な警告だった。議員が選挙区に戻ると、支持層の反応は冷ややかで、従来のコア支持層すら態度を保留し始めている。2026年の地方首長選挙を前に、危機感を抱いた地方議員たちは県市や派閥の垣根を越えて結束し、総統兼党主席の頼清徳氏に対し、5項目の提言をまとめるに至った。
最初に動いたのは台中市議員の黄守達氏である。彼は地方派閥に属さず、党内で独断専行するタイプでもない。むしろ、党内最大派閥であり、組織規律を最重視する「新潮流」の出身で、頼清徳氏自身もこの派閥の代表的人物だ。新潮流は、組織の結束が固く、方針に従わない者は排除されるという厳格な体制で知られ、通常メンバーが独自行動や公開の異論を示すことはほとんどない。しかし黄氏は慣例を破り、各地の議員と連絡を取り合い、中央政府の執政方針の見直しを議論した。そして新内閣の人事が固まった直後、正式に声明を発表し、頼氏に公開の形で意見を突き付けた。

新潮流議員の異例の行動、規律を超えた基層の焦燥
緑営(民進党系)の地方関係者は「新潮流の議員が派閥指導部の統一見解を待たず、最前線で行動したこと自体、基層の不安が組織の規律を超えていることを示す」と指摘する。つまり、今回の動きは単なる基層の声ではなく、頼政権の執政に対する内部からの深刻なシグナルでもある。
黄氏は基隆市議の張之豪氏と共にリコール投票後、南部の議員らと討議を始め、「支持基盤が緩んでいる」という共通認識を確認。その後、北部へと広げ、最終的に17人の議員が署名した声明に結実した。声明は憲政体制から党改革に至るまで幅広いテーマを網羅し、頼政権が抱える課題を突き付ける内容となった。
声明の5つの柱は以下の通りである。まず、憲法法廷の停滞を解消し、三権分立を守ること。次に、経済面では分配の公正を確保し、格差拡大を防ぐこと。さらに、エネルギー政策においては利権構造を徹底的に調査し、「エネルギー源」の名を借りた不正を排除すること。地方行政については、長期的に軽視されてきた地域の声を反映させ、「地方優先」の原則に基づき、地方自治に関する国是会議を開いて県市統合や地域均衡を検討すること。そして最後に、党務改革として、民進党が硬直した官僚的体質を改め、社会との新しい関係を築く必要があると訴えた。

若手世代の危機感と署名議員の顔ぶれ
署名に参加した17人の議員の中で、新潮流の存在感は際立っている。黄氏をはじめ、台北市の林亮君氏、桃園市の許家睿氏と魏筠氏、新北市の林秉宥氏、台南市の李宗翰氏など、普段は中央の方針に異を唱えることが少ないメンバーが揃って名を連ねた。さらに、彰化県の「新芽連線」と呼ばれる5人の議員も新潮流系であり、声明の異例性を一層際立たせている。
林秉宥氏は「署名した議員は同世代で、これから20年、30年先を見据えている。視点や関心の広さからも、声明の5項目はいずれも欠かせない」と語り、世代としての危機感を明らかにした。

頼清徳政権に突き付けられた皮肉と内在リスク
頼清徳総統にとって、今回の動きは皮肉であり、深刻なリスクをも示す。自身が出身であり最も信頼を寄せるはずの新潮流から、初めて公然と異論が突き付けられたからだ。
7月26日のリコールは、民進党の支持構造に地震のような衝撃を与えた。そして、黄守達氏が規律を破って動いたことは、単なる地方議員のパフォーマンスではなく、新潮流の基層議員が中央に送った明確な危機のサインといえる。党内の観測筋は「頼清徳の最も忠実な支持基盤でさえ、もはや無条件に従うとは限らない」と分析している。
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