ウクライナ戦争の惨状を受け、世界の関心は「次の破滅的衝突をいかに抑止するか」に集まっている。米紙ウ『ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)』は8月28日の社説で、台湾が具体的な国防強化策を打ち出し「実力で平和を確保する」姿勢を示していると評価した。その一方で「台湾に決意があるとしても、米国自身の武器供与の遅延や防衛投資不足が最大の障害となっていないか」と鋭く問いかけている。
台湾の決意―国防費をGDP5%へ
WSJは、頼清徳総統が提出した来年度予算案で国防費がGDPの3.3%超となる見通しだと紹介。2024年の約2.5%から顕著に拡大し、北大西洋条約機構(NATO)が新たに定めた3.5%目標に迫る水準だとした。頼氏はSNSで「実力で平和を確保する決意は揺るぎない」と明言しており、社説は「台湾は台湾海峡を挟む中国に対し強いメッセージを発すると同時に、太平洋の向こう側の米国に対しても同盟国としての信頼性を示した」と論じた。
さらに社説は、ウクライナ戦場でのプーチン軍の拙劣な戦闘が習近平氏の台湾上陸計画に一時的な逡巡を与えた可能性はあるとしつつも、「習は台湾統一の目標を一度も放棄しておらず、西側諸国の台湾有事への備えも依然として不十分だ」と警鐘を鳴らした。
兵棋演習の警告―台湾封鎖は世界的惨事に
潜在的な危機を示すため、ワシントンのシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」は今夏、台湾が封鎖された場合の26通りのシナリオを検証する兵棋演習報告を発表した。結論は衝撃的で、「ほぼすべてのシナリオで深刻な死傷者が発生する」と記された。
演習では、台湾の天然ガス備蓄が約10日で尽きるケースが想定され、一部では激しい交戦に発展して「米国が数百機の航空機と数十隻の艦艇を失う」シナリオも示された。CSISは「台湾海峡で抑止が崩れれば、その結果は壊滅的になる」と強調している。
台北は国防費の増額を通じて、ワシントンに「自国は米国の支援に値する真の安全保障パートナーである」と示そうとしている。WSJもこれを認めつつ、台湾が過去に抑止力強化を急がなかった点を指摘した。さらに、政府が2030年までに国防費をGDP比5%に高める目標を掲げているものの、習近平国家主席が人民解放軍に2027年までの戦闘準備を命じていることを踏まえれば、このペースでは依然として不十分だとの見方を示した。
米国は「口先だけ」で終わるな
ドナルド・トランプ米大統領とその側近の一部は「台湾の防衛費はGDPの10%に達すべきだ」と発言したことがある。だがウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、こうした米側の公然たる要求はむしろ北京に有利に働き、「米国は頼りにならない同盟国であり、台湾の抵抗は無意味だ」というプロパガンダを後押しする結果になっていると指摘する。
社説は、トランプ政権にとってより適切な対応は、単に大声で要求するのではなく、米国自身が戦略的パートナーとしての潜在力を実際に発揮できる体制を整えることだと強調。そのうえで「この点に関してワシントンには依然として大きな改善の余地がある」と論じた。
ジョージ・メイソン大学の最新統計によれば、米国が台湾に販売契約を結びながら未納入の武器は総額200億ドルを超える。米海軍退役少将マーク・モンゴメリー氏は「もし米国が対外軍事販売(FMS)の手続きを改善し、台湾への納入を加速できれば、台湾の防衛支出は容易にGDP比4%に達する」と試算している。
トランプ政権は選挙戦で「太平洋地域への注力」を掲げていたが、WSJは「その約束が果たされるかは疑問だ」とも記した。現実には、台湾のような最重要の同盟国が国防費を大幅に増やしている一方で、ホワイトハウス自身は防衛予算の大幅増を予定していないためである。
米インド太平洋軍司令官のサミュエル・パパロ海軍大将は議会証言で「台湾周辺での中国の攻撃的行動は単なる演習ではなく、武力統一に向けた“リハーサル”だ」と警告。WSJは結びで「もし台湾海峡での抑止が崩壊すれば、米国は他の優先課題に手を回す余裕を完全に失う」と強い危機感を示した。
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編集:田中佳奈
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