アメリカ政府は《CHIPS・科学法》の未執行補助金や国家安全保障プロジェクト資金を株式に振り替え、インテルの大株主となった。取引はすでに8月26日に完了し、総額89億ドル(約1兆3000億円)、持ち株比率は約10%、取得価格は1株20.47ドル。ホワイトハウスは「一銭も使っていない。元々は補助金を形を変えて提供しただけ」と説明する。しかしインテル自身は、この取引が両刃の剣であることを認めている。公開資料には「政府が株主になることで国際市場の信頼低下、補助政策の不透明化、意思決定の政治化、さらには株式希薄化のリスクがある」と明記されている。
では、この動きがTSMC(台湾積体電路製造)にどう関係するのか。影響は小さくない。大きく分けると3つの論点がある。
一、米国内生産拠点をめぐる競争
二、輸出規制による価格と需要の再配分
三、「技術主権」をめぐる長期的リスクである。
以下、順に見ていく。
一、 米国生産拠点──政策支援を得た者が市場を先取り
短期的に見れば、インテルへの資本投入は資金繰りを支える即効性のある「強心剤」だ。永豐投顧は「米政府の出資は資金圧力を緩和し、先端プロセスや増産を後押しする」と評価する一方で、「経営への介入や政治リスクを伴う」と指摘する。
一方、TSMCにとって重要なのは投資ペースと政策の中立性だ。市場では一時「米政府がTSMCに出資するのでは」との懸念が流れたが、現政権が「TSMCに出資する意向はない」と発信したことで、短期的には安心材料となった。政治色が強まるリスクをひとまず避けられた格好だ。

さらにTSMCは市場を意識し、「米国での投資計画はすでに発表済みの1650億ドル(約24兆2500億円)であり、それ以上でも以下でもない」と明言。空虚な数字ではなく、人材・材料・パッケージ・装置・研究開発まで連動する段階的なロードマップであることを強調した。
投資機関の見通しでも、今後10年間で米国は半導体生産の「中核拠点」となり、TSMCは米国における先端プロセスで独占的地位を確立するとの観測がある。実際には「2ナノを含む先端プロセスの3割を米国で生産する」というシナリオも描かれている。これは単なるスローガンではなく、供給網と地政学の緩衝材として現実的に検討されているものだ。
ただし政策の副作用も無視できない。補助金、出資、調達といったリソースが今後インテルに偏れば、TSMCが米国内で得られる支援は薄まる。永豐投信は「途中でルールが変えられることは、外国企業にとって最も受け入れがたい政治リスクだ」と警告している。 (関連記事: TSMC米国投資の内幕 ルートニック長官「魏CEOに直接圧力」暴露 | 関連記事をもっと読む )
二、輸出規制──価格と需要の再配分が「現地生産」の必要性を押し上げる
次の焦点は輸出規制による新たな枠組みだ。華南投顧は、一、H20やMI308の販売制限、二、収益の15%分担、三、H20価格の18%上昇リスク、四、IDC用半導体の50%国産化──この4点を挙げ、いずれもAIサプライチェーンにおける資金繰りや納品ペースを左右する「変数」と分析する。