第二次世界大戦の終結から80年が経過したが、戦火の影は今も消えていない。米国の政治専門誌『ポリティコ』(Politico) は25日、今後5年間で世界規模の戦争が勃発するリスクは想像以上に近いと警告した。わずかな誤判断や軍事的偶発事態、さらにはハッカー攻撃さえも、24時間以内に地域的な摩擦を全面戦争へと押し上げる可能性があるという。 今年5月の印パ間のミサイル相互攻撃や、6月のイスラエルによるイラン攻撃は、「潜在的衝突」が現実の事態に転じたことを示した。
『ポリティコ』は世界の五つの火薬庫を挙げ、そこでは核兵器や地政学が交錯し、国際秩序を覆しかねないと論じる。いずれか一つでも火を噴けば、世界は後戻りできなくなる。以下では、最も戦争勃発の危険が高い五つの戦線について、その起源、危険性、回避の余地があるかを検証する。
戦争は目前に迫る 2027年、台湾は備えられているのか
世界各地で緊張が高まるなか、台湾にとって最も切迫し、直接的な脅威は言うまでもなく中国による武力侵攻である。米誌『ポリティコ』(Politico)の報道によれば、今後5年間で最大の地政学的影響を及ぼす可能性のある戦争は何かという問いに、専門家の多くは台湾海峡を挙げている。
中国の習近平国家主席は「台湾統一」を歴史的偉業の核心と位置づけており、台湾の世論がすでに中国から離れていることを十分に理解している。これはウクライナがロシアから離脱した状況と酷似している。台湾問題のリスクは、戦火が開かれるかどうかだけではなく、その背後に横たわる世界秩序をめぐる対立にある。21世紀の覇権を握るのは米国か中国か――それこそが最大の争点なのである。
台湾海峡での戦争の影響が深刻 米国と台湾の間には正式な防衛条約は存在しないが、長年にわたり米国は「有事には介入する」との姿勢を繰り返し示してきた。しかし、トランプ政権がその立場を堅持するかどうかについては、大きな疑念が拭えない。ワシントンの複数のシンクタンクが行った戦争シミュレーションでも、台湾海峡で戦争が勃発すれば、米軍は数カ月以内に弾薬を使い果たし、死傷者数は数カ月でベトナム戦争と朝鮮戦争の合計を上回る可能性があると示されている。
中国人民解放軍が艦艇を派遣し、ロシア海軍と合同演習を実施した。(写真/AP通信提供)
中国は実際に攻めてくるのか? では中国は本当に動くのか――。習近平国家主席は、2027年までに台湾侵攻能力を整えるよう軍に命じており、中国は現在、上陸作戦部隊の拡充と関連演習を急速に強化している。これは解放軍にとって「最も現実的な作戦任務」とされ、演習の密度と頻度は他の軍事シナリオを大きく上回る。また習近平にとって台湾は、すでに支配を固めたチベットや完全に体制に組み込んだ香港とは異なり、唯一残された「未完の事業」と位置づけられている。北京から見れば、台湾が国際社会との結びつきを深めるほど、武力行使の好機は急速に失われ、開戦への圧力は高まっている。
しかし、この戦争が現実に勃発するかどうかはなお不透明である。『ポリティコ』は、習近平が解放軍の戦闘能力に絶対的な信頼を置いていないと指摘する。軍内には深刻な腐敗や派閥抗争が存在し、実戦経験の欠如も不安材料だ。中国軍は1979年の対ベトナム戦以来、大規模な戦闘を経験しておらず、現役部隊のほとんどが実戦を知らない。さらにロシアがウクライナで泥沼にはまった事例は、習近平に台湾侵攻への慎重さを抱かせる可能性がある。
加えて北京には「戦わずして圧力をかける」選択肢も残されている。いわゆる「グレーゾーン作戦」による台湾封鎖や、輸出入品への懲罰的関税の課徴といった手段である。これらは宣戦布告を伴わずに経済や補給網に甚大な打撃を与えることができ、長期的には戦争に匹敵する効果を生み出しうる。同時に米国にとっても、軍事介入を決断しづらくする効果を持つ。『ポリティコ』は問いかける――ワシントンは本当に、北京による封鎖を打ち破るために一、二個の空母打撃群を失う危険を冒すのか。
バルト海は新たなウクライナとなるか? 世界の注目が台湾海峡とウクライナに集まるなか、ロシアのプーチン大統領は「より低コスト」の戦線としてバルト三国に狙いを定めている可能性がある。リトアニア、ラトビア、エストニアは国土も人口も小さいが、いずれもNATO加盟国であり、ロシアが「勢力圏回復」の標的とするには格好の相手だ。『ポリティコ』は、プーチンの狙いは単なる領土占領ではなく、NATOが果たしてこの最も周縁的な三国を本当に守るのかを試すことにあると分析する。
ただし、それは戦車が押し寄せるような伝統的戦争ではないだろう。リトアニアの元外相ランズベルギス氏(Gabrielius Landsbergis)は、プーチンは飛行機火災やショッピングモールでの放火未遂など「日常的嫌がらせ」を繰り返す形でハイブリッド戦を仕掛け、NATO条約第5条の集団防衛を発動させない手法をとる可能性があると警告する。
仮にバルト地域で戦闘が始まった場合、米国は支援に動くのか。トランプ氏のNATOに対する温度差のある姿勢は、この問いをさらに複雑にしている。もし米国が介入を見送れば、他のNATO加盟国が先に反撃に動く可能性もあり、より大規模な衝突に発展しかねない。
2020年、スウェーデン空軍の戦闘機がバルト海上空を哨戒飛行した。(写真/AP通信提供)
プーチン大統領は常にロシアの往年の栄光を取り戻すことを念頭に置き、ジョージア、ウクライナ、さらにはバルト三国といった旧ソ連国家を再び勢力下に組み込もうとしてきた。西側主導の国際秩序を覆すことこそが狙いである。もしバルト三国を占領しながらもNATOの反撃を招かずに済めば、世界最強の軍事同盟が空洞であることを証明でき、西側にとって最大級の屈辱となる。それはプーチンにとって「西側に一撃を加える」最良の戦略的機会となる。
しかし、この賭けの代償はあまりにも大きい。ロシアはすでにウクライナ戦争で深刻な打撃を受けており、人的損失は百万人規模に達し、重火器の破壊も甚大であるにもかかわらず、目立った戦果はほとんど得られていない。この状況下でプーチンがNATO相手の新たな戦争に踏み切れば、リスクは極めて高く、国内外に正当性を示すことは困難であろう。
龍と象の対立 「安全策なき国境」
台湾海峡情勢に加え、中国は南アジアでも高リスクの戦線を抱えている。それが全長2,500マイルに及ぶインドとの国境である。中印国境問題の起源は1914年、英国がチベットと境界を画定した時期にさかのぼるが、中国はこれを一度も承認していない。1962年には両国間で戦争が勃発し、数千人の死者を出した。その後も散発的な衝突が続き、歴史的因縁の深さに加え、北京の地域戦略上の不安要因ともなっている。この火種が再び燃え上がれば、インド太平洋全体の安全保障環境に波及しかねない。
現在、中印両軍はいずれも世界有数の規模と装備を誇るが、人跡まれな「世界の屋根」と呼ばれる国境地帯には依然として大きなリスクが潜んでいる。仮に中国が武力を行使すれば、狙いは周辺国への威嚇、あるいは米国のインド太平洋戦略に揺さぶりをかけることだろう。戦略上の非対称性も顕著であり、インドの人口密集地帯は中国の火力圏内にあるのに対し、中国本土は比較的安全圏にある。この構造がインドを米国寄りへと押しやり、同時にロシア製兵器への依存を減らす要因となっている。
国境で戦争が起きやすいのは、誤算の危険が極めて高いためだ。両国兵士は衝突回避のために銃器の携行を禁じられているものの、2020年にはガルワン渓谷で激しい肉弾戦が発生し、石や鉄条棒が使われ、少なくともインド兵20人が死亡し、中国側も40人が死傷したと伝えられている。
中印国境ラダック地域のパンゴン湖(Pangong Tso Lake)。ラダックでは両国間の衝突が繰り返されている。(写真/AP通信提供)
さらに厄介なのは、両国の間にほとんど「セーフガード」が存在しないことである。すなわち、緊張を緩和する条約や恒常的な対話の枠組みが欠如しているのだ。冷戦期の「米ソ・ホットライン」は誤判防止に機能したが、中国は一貫して米国やインドとの類似制度の設置を拒んできた。中国側はそれを自国の台頭を縛るものと見なしているためである。その結果、衝突が発生しても即時対話が困難となり、リスクの制御は一層難しくなる。
インド・パキスタンの緊張、高度な核武装された火薬庫 中国との関係悪化に加え、インドはもう一つの隣国パキスタンとも不安定な関係にある。5月初め、印パ国境では近年で最も深刻な緊張が走り、わずか4日間で双方が複数の非核ミサイルを発射し合い、相手国の軍事基地を攻撃した。発端はインド支配下のカシミールで発生したテロ事件であり、これが一気に情勢を悪化させた。最終的には停戦合意に至ったものの、核保有国同士の「導火線の短さ」を世界に示す事態となった。
この因縁は1947年の印パ分離独立にさかのぼり、カシミールをめぐる対立は一度も収束していない。幾度もの戦争と散発的な交戦を経ても、双方はいまもカシミールの異なる地域を実効支配し続けており、国境付近では流血事件が頻発している。インドは長年にわたり、パキスタンが国内のテロ活動を支援していると非難してきたが、両国間の信頼関係はほぼ皆無に等しい。
1999年6月1日、インド陸軍がカシミールにおいてイスラム武装勢力の陣地に向けて砲撃を行った。(写真/AP通信提供)
『ポリティコ』は、インドとパキスタンを「世界で最も核戦争に近い二国」と位置づけている。両国は合わせて350発以上の核弾頭を保有しており(双方ほぼ同数でインドがやや多い)、使用のハードルも低いとされる。専門家は、一度戦端が開かれ指揮系統が損なわれれば、双方の反応は制御不能に陥ると警告する。核戦争となれば甚大な死傷者を生むだけでなく、放射性降下物と気流により「核の冬」が引き起こされ、食糧生産に深刻な打撃を与え、数億人規模の飢餓を招く恐れがある。
もっとも、両国も安定の必要性を理解している。インドは経済発展を、パキスタンは国内反乱勢力への対処を優先せざるを得ない。そのため国境に火薬の匂いが漂っても、両国は幾度となく土壇場でブレーキを踏んできた。しかし長期的な解決策が存在しない以上、この「時限爆弾」はいつでも再び火を噴く危険をはらんでいる。
南北韓の果てのない対立 最後の戦争ホットスポットは朝鮮半島である。『ポリティコ』はこれを「終わりなき戦争」と表現する。朝鮮戦争からすでに70年以上が経過したが、いまだ正式な終結には至っていない。韓国は世界有数のテクノロジー大国となった一方、北朝鮮はいまも極権体制と飢餓に苦しむ国である。両国の間に広がる155マイルの非武装地帯(DMZ)は、一見平穏に見えるが実際には危機が潜む。ここは皮肉にも世界有数の自然保護区となっているが、その両側には大規模な兵力と砲兵が展開し、首都ソウルは北朝鮮のミサイル射程内に完全にさらされている。
朝鮮半島は世界で最も予測困難な地政学的火薬庫の一つである。米国は韓国に約3万人の兵士を駐留させているが、戦争が始まれば彼らは開戦直後に攻撃を受ける可能性が高い。さらに北朝鮮は情報機関にとって悪夢の存在であり、その内部体制や軍備の実態、権力構造について外部が把握している情報は極めて限られている。
2019年4月27日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅大統領が板門店の非武装地帯(DMZ)で会談し、両国を隔てる北緯38度線を越えた。(写真/AP通信提供)
朝鮮半島の危機は、他の地域情勢とも密接に結びついている。もし中国が台湾に武力を行使したり、米国がバルト海などで後退姿勢を見せたりすれば、韓国や日本は米国の安全保障の約束に不信感を抱き、自ら核武装を模索する可能性がある。世論調査では、すでに韓国国民の7割が自国の核兵器開発を支持しており、地域的な軍拡競争が激化しかねない。
もっとも、『ポリティコ』は朝鮮半島で全面戦争が勃発する可能性は当面低いとみている。北朝鮮が核兵器を保有しているとはいえ、その精密攻撃能力には依然疑問が残る。むしろ現在の半島情勢は、ここ数十年で最も安定しているとの評価すらある。トランプ氏が再び権力を握ったことで、金正恩総書記が「個人的な関係」によって安心感を得ている可能性もある。元米国防総省高官イヴリン・ファーカス氏は、「金正恩にはいま、自ら戦争を仕掛ける理由は全くない」と述べている。
本当の危機はトランプの一言かもしれない 『ポリティコ』は五つの戦争ホットスポットを詳細に分析したが、同時に強調するのは「地政学は決して台本通りに進まない」という現実である。歴史は常に予測不能の連続であり、かつて国際秩序の安定装置だった米国が、いまや最大の不確定要因となっている。元米国防長官ドナルド・ラムズフェルド氏の言葉を借りれば、真のリスクは「未知の未知」から生じる。それこそが各国を最も不安にさせる点であり、米国が次に何を仕出かすのか誰にも読めない。
トランプ氏がカナダを「米国51番目の州」とする構想や、デンマークからグリーンランドを買収する案、さらには情報機関が外国麻薬王を国家安全保障上の最大脅威に格上げした事例まで――かつては荒唐無稽とされた発想が、いまやホワイトハウス内部で真剣に議論されている。メキシコ政府を迂回して米軍が直接行動を起こす可能性すら取り沙汰されているのだ。
そして潜在的な戦場は地球の外へも広がる。米中による衛星競争は激化し、双方の軍事的配置は加速している。ひとたび宇宙空間で衝突が起これば、世界の通信網や金融システムが真っ先に麻痺し、全面的に機能停止に陥る恐れがある。
だが結局のところ、『ポリティコ』が指摘する最も破壊的な危機は、必ずしも戦場から生じるとは限らない。軍事シナリオでは想定できない、突如訪れる事態こそが最大の脅威である。例えば深夜、トランプ氏が「Truth Social 」に何気なく書き込んだ一文が、世界を一夜にしてひっくり返すことになるかもしれないのだ。