台湾での第三原発(核三)再稼働の国民投票は成立要件に届かず不成立となり、民進党は冷静に対応する姿勢を見せた。しかしその最中、台北市党部の前副執行長を務めた陳聖文氏が話題を呼んだ。彼は「蘭嶼核廃料貯蔵場に一晩置いた」とするペットボトルの水を複数本持参し、国民党本部前で抗議。国民党(藍営)が核廃料問題で責任回避していると皮肉った。
ところが、国民党の楊智伃報道官がその場で水を受け取り、カメラの前で直接飲み干し「私はまだ生きている、変異もしていない」と発言。抗議は逆に公開の対決ショーへと変貌し、世論の注目は国民党側に集まる結果となった。陳氏は単なる市民活動家ではなく、民進党との関係を持ちながら過去には国民党を支援した経歴もある。今回の行動がなぜ「逆効果」となったのかが問われている。
陳氏は事後にフェイスブックで「自分が届けたのは核廃料場の水だが、国民党に『別の水』として利用され、話題を『飲み比べ』にすり替えられた」と不満を示した。しかし医師の蘇一峰氏は「低レベル放射性廃棄物の保管施設付近に水を置いただけでは放射能汚染は起きない」と指摘。科学的根拠のない行動で市民を誤解させかねないと警鐘を鳴らした。
民進党立法院党団の陳培瑜書記長は「核廃料の安全性に対する疑念は理解できるが、今回の行動が適切かどうかは社会が判断することだ」と述べた。一方で、民進党内の大物政治家は「注目を集めたいのならば、こうしたやり方は逆効果だ」と厳しい評価を下した。

葬祭業界大手の創業家出身 財力はあれど政治基盤は脆弱
党内関係者も「民進党が第三原発再稼働の議論を冷静に処理しようとしている中で、陳氏の行動は唐突すぎた。科学的根拠を欠いたパフォーマンスは一時的な話題にはなっても、社会的共鳴を得られない」と分析。さらに「国民党報道官にその場で『反撃』され、抗議そのものが相手の舞台装置になってしまった」と述べ、民進党内では「自らも党も傷つけた」との見方が広がっている。
陳聖文氏の父親は、葬祭関連大手「台湾仁本サービスグループ」を創設した陳原氏。藍(国民党)・緑(民進党)・白(民衆党)の主要政党に資金援助を行ってきた有力スポンサーでもあり、家族は豊かな財力と人脈を持つ。
聖文氏自身は2022年、民進党の公認候補として台北市大安・文山区の市議選に立候補し、党内予備選を通過したものの落選した。当時は父親の影響力から幅広い支援を得たが、本人に政治スタッフ経験や社会運動の実績はなく、組織戦を勝ち抜くことはできなかった。さらに家族の意向が強く政治活動に干渉してきたこともあり、政治家としての歩みは順調ではなかった。今回の「核廃水抗議」がかえって逆風を招いたことは、財力だけでは政治的な影響力を築けないという現実を浮き彫りにしている。 (関連記事: 台湾・第三原発再稼働の国民投票不成立 「反原発票」が過去の4割に減少 | 関連記事をもっと読む )

かつては国民党の強烈な支持者、今は民進党に傾倒
2022年の選挙戦で、陳聖文氏は「選挙区に200枚の看板を掲示した候補者」として注目を浴びたが、その過程で過去の国民党や中国との関わりが取り沙汰された。大学時代に上海へ留学し、中国台湾学生聯誼総会の幹部を務めただけでなく、国台弁の張志軍主任と面会。さらに国民党前主席・洪秀柱氏の選挙看板の前で「いいね」ポーズを取った写真が拡散され、「鉄の洪支持者(鋼鐵柱粉)」と呼ばれた。