香港・新界の住宅団地「宏福苑」で発生した大規模火災は、26日午後の出火から瞬く間に全域へ広がり、香港の消防区分で最高レベルにあたる「五級火災」に指定された。火勢は短時間で複数棟をのみ込み、27日午後3時時点で少なくとも55人が死亡、72人が負傷したとされている。
重大事故を受け、香港政府と消防処は深夜まで説明を続けた。行政長官の李家超氏は27日未明の会見で、外壁に使用されていた「保護ネット、防護フィルム、防水シートやビニール布」などが、通常の難燃性資材と比べて極めて速い速度で燃え広がったと指摘。保安局の鄧炳強氏も「通常では考えにくい燃え方だ」と述べた。
警察と消防はすでに合同の専属チームを立ち上げ、出火原因の究明と並行して、可燃性資材の違法使用や重大な過失の有無を刑事事件としても調べる方針だ。
異常使用が疑われる発泡材 外壁火災を加速させた可能性
香港当局が特に問題視しているのが、外壁や窓周辺に使われていた資材だ。火の手が及んでいない棟の一部で、窓が「発泡スチロール板のような素材」でふさがれていたことが確認された。発泡スチロールは高温で極めて燃えやすく、有毒ガスも発生しやすい。消防処は、こうした使用が「異常であり、安全基準とかけ離れている」と懸念を示している。
鄧炳強氏と消防処長の楊恩健氏は、これらの資材が本来求められる難燃基準に明らかに適合していない可能性を指摘。資材の入手経路や施工方法が法令に沿っていたかどうか、丁寧に検証する必要があると述べた。
住宅行政を担う房屋局(香港政府の住宅部門)の独立審査チームは、外壁資材のサンプル採取を開始。防火基準を満たしているか検査を進めている。建築規制を所管する屋宇署と房屋局は、他の工事現場でも足場や保護ネットなどを抜き打ち点検し、違反や手抜き施工がないか調べる方針だ。
なぜ高齢者の犠牲が目立ったのか 時間帯と警報作動の遅れ
今回の火災では、とりわけ高齢者の死傷が目立った。大埔(タイポー)地区の議員・羅曉楓氏は、発生が午後の時間帯で、多くの働き盛り世代は外出しており、室内に残っていたのは主に高齢者だったと説明した。
さらに、火災発生時に警報ベルが正常に作動しなかったとの証言もあり、濃煙が迫るまで異変に気づけなかった住民が多かったとされる。
2021年の統計では、宏福苑の住民のうち「65歳以上の高齢者が36.6%」を占めていた。高層階では濃煙が通路をふさぎ、ほとんど視界が利かない状況が相次いだ。室内からの救助要請が届いても、現場と連絡がつかないケースも多く、死傷者が短時間で急増した背景とみられている。 (関連記事: なぜ炎は止まらなかったのか 香港・宏福苑五級火災、外壁ネットと喫煙疑惑 | 関連記事をもっと読む )

煙突効果と高層設計 風向きが救助活動をさらに困難に
消防処の楊恩健氏によると、宏福苑の7棟は同時に延焼の影響を受け、建物の高さと外周を覆う密集した足場が強い「煙突効果」を生み、炎と煙が通常の火災を大幅に上回る速度で上層階へ吹き上がった。

















































