香港・新界の大埔にある住宅団地「宏福苑」で起きた大規模火災では、少なくとも55人が死亡し、74人が負傷、さらに200人超の行方不明者が出る深刻な事態となった。17年ぶりとなる五級火災は、建物自体の安全性の問題にとどまらず、施工業者によるコスト削減や不適切な施工の実態も浮き彫りにした。現場では難燃性を欠くネットが使われていた疑いがあるほか、各戸の窓が発泡スチロール板で塞がれていたことも判明しており、こうした複数の要因が重なった結果、被害がここまで拡大したとみられている。
香港・宏福苑火災の原因1:業者が「漁網」で難燃ネットを代用 1枚40香港ドルの節約が命取りに
『香港01』によると、火の手は宏昌閣の外壁に設置された施工用ネットから上方へ一気に燃え広がった。香港執業安全師学会の李光昇氏は、現場のネットが法定の難燃性資材ではなかった可能性が高いと指摘する。
李氏は「適合品の難燃ネットは、着火しても数秒以内に燃え広がりが止まり、竹製足場も簡単には燃えない」と説明。しかし映像ではネット全体が瞬時に炎に包まれ、安全基準とは明らかに異なる燃え方を示していた。
李氏によると、一部の施工業者はコスト削減のため、価格の安い通常のネットや、場合によっては「漁網」で代用することがあるという。難燃ネットは1枚あたり約90香港ドルだが、通常のネットは50香港ドル台で購入できる。「差額は40香港ドルほどだが、難燃ネットは日光に弱く、実質使い捨て。そのため、業者の中にはリスクを承知で安価な資材を選ぶケースがある」と話した。
香港・宏福苑火災の原因2:足場上での喫煙疑惑 ネット動画が工人の危険行為を告発
火災後、SNS上には足場に座り、周囲に煙が充満する中で喫煙する工人の動画が拡散した。
橙色の作業服を着た男性が、緑色の防護ネット近くで火の付いたたばこを持ち、女性から「またここで吸っているのですか」と問いかけられる様子が映っている。
動画が宏福苑で撮影されたかは確認されていないが、多くの住民は「工事中の足場で喫煙する作業員を何度も見た」と証言。ネット上では「可燃物だらけの足場で喫煙するのは極めて危険」と批判が相次ぎ、火災との関連を懸念する声も広がっている。
香港・宏福苑火災の原因3:窓が発泡材で全面封鎖 住民「本当に逃げ道がなかった」
被害が拡大した背景の一つに、8棟の大半の住戸で、窓が発泡スチロール板で塞がれていたことが挙げられる。
宏福苑管理組合の徐満柑氏によれば、外壁工事中に飛散する石片からガラスを守る目的で封鎖を認めたという。しかし、施工会社は難燃性能を証明する資料を提出しておらず、発泡材が高い可燃性を持つ点は説明されていなかった。
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独居の住民・甘さんは、「浴室もリビングも寝室も、すべての窓が白い発泡板で覆われていた。冷房機器の穴も塞がれていた」と語り、「工事の人は『防爆用』と言ったが、実際は逃げ道が完全に閉ざされていた」と嘆いた。今回の火災で家を失い、現在は物資配布所で衣類などを受け取って生活している。














































