論評:台湾で再燃「中国籍配偶者の参政権」論争 野党の法改正構想に民進党が警戒感

2025-11-27 11:50
民進党の立法委員で「認知戦」担当とされる沈伯洋氏は、中国籍配偶者の参政権を認める国民党の法改正案を「緊急事態」と批判した。(写真/柯承惠撮影)
民進党の立法委員で「認知戦」担当とされる沈伯洋氏は、中国籍配偶者の参政権を認める国民党の法改正案を「緊急事態」と批判した。(写真/柯承惠撮影)
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台湾・藍白(国民党・民衆党)が共同で法改正を進めようとする中、「中国籍配偶者の参政権」が再び焦点となっている。これについて、民進党の「認知戦指揮官」を担うとされる立法委員・沈伯洋は、フェイスブックへの投稿で日本語の「緊急事態」という言葉を用いた。沈伯洋の認知ロジックは常人とは異なるため、あえて論争する必要はないが、彼が論拠として用いる事実は、常に現実とかけ離れている。沈伯洋個人の「緊急」はそれとしても、偏にその「緊急」が民進党全体の思考を混乱させている点は看過できない。民進党の混乱もそれとしても、真の「緊急事態」とはその混乱そのものであり、台湾がようやく勝ち取ってきた法治と人権を深刻に損なっている。

中国籍配偶者の参政権」はそもそも問題ではない。「中国籍配偶者」とは、両岸の交流開放の中で生まれた存在であり、男女を問わず台湾に婚姻を通じて移住したとしても、台湾人としての身分を取得するのは容易ではない。両岸人民関係条例によれば、陸配が台湾で立候補登録を行うためには、「戸籍を10年設ける」ことが必要であり、戸籍取得に至る前に、少なくとも6年間の居留期間を経なければならない。すなわち、陸配が選挙に立候補するための基本条件は、6年で公民権(投票権)を取得し、16年で参政権(立候補資格)を取得することであり、この年限は短縮されることはなく、延びることはあっても短くなることはない。すでにこの条件自体が決して低くないハードルとなっている。

中国籍配偶者は法律上「立候補はできるが就任できない」 一体どこの国の法体系なのか

台湾で両岸交流が解禁されてから38年、中国から台湾へ移住した配偶者は約40万人とされる。その中で地方選挙に立候補し、実際に当選した例はごくわずかだ。南投県議会の元議員・史雪燕氏が任期終了から2年後に突然解職された事例が知られるほか、現在確認されている中国出身の村里長は全台湾で5人のみ。花蓮県の鄧姓村里長は解職処分に対し不服申立てが認められ、原処分が取り消された。しかし台湾内政部は、2023年5月に行政院が出した行政通達を根拠に次のように主張している。

「中国大陸の国籍を持つ者は台湾国籍を有していないため、台湾の国民となった後に公職に就く場合は、国籍法に基づき『二重国籍を禁止』する規定に従わなければならない」。
この方針に基づき、内政部は昨年11月以降、地方政府に対して村里長の職解任を繰り返し要請。対応しない自治体については今年5月、関連資料を監察院に送付して審査を求めた。

まず第一に、村長が「公職」に該当するのかは法律上なお議論の余地がある。村里長は地方制度法に基づく選挙で選ばれるが、民意代表ではなく、給与ではなく「事務費」が支給されるだけで公務員の身分も持たない。任期の制限すらなく、住民の支持があれば何期でも続けられる。公務員との接点といえば、汚職や買収で逮捕された場合に、貪汚治罪条例や公職選挙罷免法により刑罰が加重される点くらいだ。村里長は行政の末端を支える重要な存在だが、性格としては住民サービスに近く、封建時代の「保甲」に似た位置づけと言える。このような無給で編制にも属さない立場に対し、内政部が監察院を通じて地方政府に解職を迫るのは、まさに「大砲で雀を撃つ」ようなもので、まして現在の監察院(民進党寄りとされる)への信頼が揺らぐ中で、説得力は乏しい。

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