高市早苗首相は「台湾有事」に関する発言により中国の激しい反発を招き、日中関係は「スパイラル的悪化」の局面に入っている。こうした中、2026年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が中国・広東省深圳市で開催されることが決まり、開催国の国家主席である習近平氏は、高市氏を公式に招待せざるを得なくなる見通しだ。両国はそれまでにどのように「着地点」を見出すのかが焦点となっている。
『日経アジア』の上級論説主筆である中澤克二氏は、唯一の解決策として、故・安倍晋三元首相が2014年に実行した「密使外交」を再現することだと分析している。安倍氏は、尖閣諸島(中国側呼称:釣魚島)を巡る対立、靖国神社参拝問題などにより、中国との関係が極度に冷え込んだが、元首相の福田康夫氏を水面下の仲介役として活用することで、「日中首脳会談」の実現を果たし、関係改善の糸口をつかんだ。
一方で、ドナルド・トランプ米大統領と習近平国家主席はすでに2026年の相互訪問で合意しており、国際情勢は大きく動いている。高市氏が早期に対中パイプを構築できなければ、米中対立の狭間で日本は発言力を失い、外交的な窮地に陥る可能性があると指摘されている。
中国はなぜこれほど強硬なのか 高市氏はいかに関係改善を図るか
高市首相は、最近の「台湾有事は日本有事」との発言により、日中関係を急速に悪化させた。高市氏は11月7日、国会答弁で「台湾海峡で戦争が起きた場合、日本の『存立危機事態』に発展する可能性が極めて高い」と述べ、状況次第では自衛隊の介入もあり得るとの認識を示した。この発言は直ちに中国政府の強い反発を招いた。習近平政権はすべての国営メディアを動員し、高市氏に対する一斉の個人攻撃を展開し、発言の撤回を求めた。中国側はこの発言を「誤りである」と断じている。
国内外からの圧力に直面する中、高市氏は発言の撤回を拒否しつつも、「政府の台湾政策の枠組みを逸脱していない」と強調した。一方で、今後は「存立危機事態」に関する具体的な言及を避け、緊張緩和を図る意向も示した。高市氏と中国の李強首相は22日から23日にかけて南アフリカ・ヨハネスブルグで開催された主要20カ国・地域(G20)サミットに出席したが、両者の会談は実現せず、言葉を交わすこともなかった。 (関連記事: 中国が日中間の12路線を全面運休 欠航率2割超えで、日本は再び「経済寒冬」に陥るのか? | 関連記事をもっと読む )
トランプ氏の介入で事態はさらに不透明に
この対立はトランプ大統領の介入により、さらに不透明さを増した。24日、習近平国家主席はトランプ氏と電話会談を行い、「台湾の中国への回帰は戦後国際秩序の構成部分である」と強調した。これは、米日両国に対する警告であると同時に、高市氏への皮肉でもあったとみられる。
中国側は会談後、「トランプ氏は台湾問題が中国にとって重要であることを理解している」と発表したが、トランプ氏はその後、自身のSNS「Truth Social」への投稿で、台湾について一切触れず、今回の電話会談は「非常によかった(very good)」とだけ記した。
翌日、トランプ氏は高市氏と約25分間にわたり電話で会談し、習近平氏とのやり取りについて説明した。高市氏はその後、「日米は緊密に連携している」と述べたものの、日中対立や台湾問題の具体的な内容については明らかにしなかった。
背景にある中国内部の権力構造
中澤氏は、日中外交の対立は単なる発言問題ではなく、中国内部の権力バランスを反映したものだと指摘する。中国の王毅共産党政治局員兼外交部長は対日姿勢を一層強硬にしており、23日には、「高市氏は言うべきでないことを語り、触れてはならない一線を踏み越えた」と非難し、日本に対し「反省し、誤りを正すべきだ」と要求した。
王毅氏は、「日本が我が道を行き、過ちを繰り返すならば、『正義』を掲げるすべての国と人民は、日本の歴史的罪行を再び清算し、日本の軍国主義の復活を阻止する責任がある」と強く警告した。
中澤氏によると、王毅氏がこれほど強硬なのは、1か月前に慶州で行われたAPEC首脳会議の際、習近平氏と高市氏の会談を調整した責任者が王毅氏だったためだという。ところが、その後の高市氏の発言により、習近平氏が「面子を失った」と中国側が受け止めたため、王毅氏自身も責任を問われかねない立場となった。その結果、対日関係で「断固たる反撃」に出ざるを得なくなったという。
中澤氏は、高市氏が対中関係を緩和するには、「習近平・王毅ライン」との対話の仕方を深く理解する必要があると指摘している。


















































