台湾で大きな注目を集める汚職事件をめぐり、元台北市長の柯文哲氏と台北市議員の應曉薇氏に対する保釈決定について、台北地方検察署(地検)は9月9日に抗告を提起した。台湾高等法院(高裁)の合議体は12日、台北地方法院(地裁)が出した保釈決定を取り消し、事件を地裁に差し戻して改めて審理するよう命じた。
高裁が原決定を覆した背景には、検察側が新たな証拠を提示したことがある。検察は抗告の中で、柯氏が保釈後すぐに関係証人と接触し、裁判所が命じた接触禁止の条件に違反したと指摘した。
検察が抗告した4つの理由
台北地検が抗告を申し立てた主な理由は以下の通り。
1. 重重要証人の調査が未了:柯氏が関与する「公益侵占罪(公共資産の不正使用)」について、依然として重要な証人の調査が終わっておらず、保釈が進行中の捜査に影響を与える恐れがある。
2.保釈後の証人接触: 柯氏は保釈後、自身の選挙キャンペーン用に制作されたグッズ(通称「KP選挙グッズ」)に関連する証人、陳宥丞氏や陳智菡氏と接触した。これは接触制限命令に違反すると検察は判断している。
3.共犯被告への呼びかけ:保釈後に同事件の被告である李文宗氏に対して呼びかけを行った点も、不適切な行為として問題視されている。
4.SNS投稿の継続許可: 勾留中に面会禁止の措置が取られていたにもかかわらず、柯氏が自身のSNSアカウントを特定人物に使用させ続け、訴訟活動を一方的に解釈する投稿を行わせたことについて、検察側は強い不満を示した。
京華城事件、法廷攻防の行方
高裁の今回の判断により、地裁は再度法廷を開き、検察が提出した新証拠を精査した上で、柯氏と應氏の保釈を改めて判断することになる。
両氏はそれぞれ7000万元(約33億6000万円)と3000万元(約14億4000万円)の保釈金を納め、電子足輪(GPSで行動を監視する台湾の電子監視装置)を装着して監視下に置かれている。しかし、検察は依然として証拠隠滅の恐れを否定できないとしている。今回の高裁による差し戻しは、「京華城事件」の行方に新たな不確定要素を加えることとなり、地裁がどのような結論を導くかに注目が集まっている。
柯文哲の保釈取り消し 高等法院が示した地方法院の3つの不備
《ETtoday》の報道によると、台湾高等法院の合議体は裁定文の中で、台北地方法院の判断には明確な欠陥があったと指摘し、検察側の抗告理由は十分に根拠があると結論づけた。
1. 判断の前後矛盾と不十分なリスク評価
高裁は、台北地方法院がわずか1か月前(7月21日)に「一部証人の召喚が終わっておらず、口裏合わせの恐れを排除できない」として勾留延長を決定した事実を挙げた。それにもかかわらず、短期間で「証拠隠滅や口裏合わせの可能性が大幅に低下した」と結論づけたのは明らかに矛盾しているとした。また、地裁は汚職罪に関してのみリスクを検討し、公益侵占や背任罪の側面を十分考慮していなかった点も不備とされた。
2. 接触禁止命令の範囲が曖昧
地裁は二人を保釈する際に「同事件の被告や証人と一切接触してはならない」と命じたが、高裁は、この事件には共犯や証人が多数存在し関係が複雑であるため、「同事件の被告」「証人」といった表現では曖昧すぎると批判した。その結果、命令が守られているかどうかの監視が難しく、被告側が容易に違反してしまう恐れがあると指摘した。
3. 裁定理由の説明不足
高裁は、地裁の裁定には「説明が不十分な部分」があり、判断を正当化するだけの説得力を欠いていると結論づけた。
以上を踏まえ、高等法院は検察側の抗告を認め、地裁の保釈決定を取り消した。今後は台北地方法院に差し戻され、改めて柯文哲氏と應曉薇氏の保釈の是非が審理される。なお、この決定に対しては再抗告はできない。
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