2025年6月に行われた東京都議会議員選挙で、わずか8458円という驚きの選挙費用で当選を果たした議員がいる。佐藤沙織里氏(さとう・さおり)、36歳。公認会計士と税理士の資格を持ち、政治団体「減税党」の代表を務める彼女は、千代田区選挙区で史上初の無所属当選者となった。今回『風伝媒』の単独インタビューに応じ、4度目の挑戦でつかんだ議席までの道のり、大政党に属さない候補が直面する壁、そして議会文化の実情について語った。さらに「減税」「情報公開」「世代交代」という自身の信念についても明かした。

1989年生まれで茨城県出身の佐藤氏は、公認会計士・税理士として活動するかたわら企業経営者としても実績を積んできた。2025年の都議選では、千代田区から無所属で立候補。限られた資金ながらも独自の戦い方で注目を集め、並み居る候補者を抑えて当選を果たした。海辺の町で育った経験から魚料理を好み、海洋国家としての日本の文化や自然への関心も強い。また、江戸城再建や江戸文化の復興にも関心を寄せ、休日には神田の古書店を訪ねて古地図や設計図を探すという一面も持つ。
無所属、選挙費用ほぼゼロで突破 鍵は「見てもらうこと」
佐藤氏の選挙戦は「ないない尽くし」として注目を集めた。X(旧Twitter)で明かしたところによると、選挙事務所なし、選挙カーなし、事務員なし、ハガキなし、電話なし、のぼりなし、スタッフジャンパーなしと、通常の選挙戦に必須とされるものを一切使わなかった。唯一かかった費用はコピー代17円、電池代7489円、レインコート代952円の合計8458円のみ。供託金についても得票率が没収点を超えたため返還された。

佐藤氏は「繰り返し見てもらうことが勝因だった」と振り返る。千代田区で何度も立候補を続けたことに加え、SNSで日々発信を続けたことで認知度が着実に高まり、支持が広がったという。「特に10代や学生が自発的に話しかけてくれたことが大きな支えになった」とも語り、若い世代の存在感を強調した。
大政党の後ろ盾がない候補がどうやって突破口を開くのか。その答えを佐藤氏は「まずは自分の存在を知ってもらうこと」と語る。テレビは無所属候補をほとんど取り上げないため、自力で知名度を上げる工夫が欠かせないという。そして「選挙の隙間」、つまり世論や候補者の顔ぶれ、政策争点などが生み出す一瞬のチャンスを逃さない洞察力が重要だと指摘する。今回の当選も「複数の条件が奇跡的に重なった結果」と総括し、無所属で戦うことの厳しさと可能性を同時に示した。 (関連記事: 石破茂首相が電撃辞任表明 自民党総裁選は9月22日告示・10月4日投開票へ | 関連記事をもっと読む )
空中戦より地上戦 日本の議会内部の生態系を語る
SNSでの発信力が当選の決め手だったのではないか、と問うと、佐藤沙織里氏はこう反論した。
「演説動画は実際にはあまり再生されていません。本当に大切なのは日々の積み重ねであり、ぶれない主張を地道に伝えることです。」
実際、投稿が特別に多かったわけでも、毎回街頭演説をライブ配信したわけでもなく、選挙の中心はビラ配布や握手といった現実の活動だった。X(旧Twitter)も補助的に使ったが、選挙戦の軸はあくまで有権者との直接の接触だった。