過去3年で隣国政権が次々崩壊　ネパール抗議が失制の様相、最も不安を抱く国はどこか

南アジアではこの3年間、相次いで政治的激変が起きている。2021年にはアフガニスタンが再びタリバンに掌握され、同年パキスタンではイムラン・カーン前首相が退陣。2022年にはスリランカで国民が抗議デモを起こし、ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領を追放した。さらに2024年にはバングラデシュでも大規模な抗議が発生し、長期政権を率いたシェイク・ハシナ首相が辞任・国外退避に追い込まれた。政権崩壊が繰り返されるこの地域で、いま新たに動揺が広がっているのがヒマラヤ山脈の小国ネパールだ。

一見すると隣国の政情不安に過ぎないように見えるが、インドにとっては決して無関係ではない。自国の安全保障にも直結しかねない事態と受け止め、インド国内メディアは各国で「導火線」となった要因を改めて分析。少しの油断が波及を招くとの危機感が強まっている。

ネパール　Z世代が主導した体制転覆

今回ネパールで抗議が激化したきっかけは、K・P・オリ前首相が打ち出した拙速なインターネット規制にある。政府はフェイスブックやX（旧ツイッター）、ユーチューブを含む主要26のSNSを一斉に遮断したが、その理由は説得力を欠いていた。この強硬な措置は、汚職や社会的不平等、高い失業率に不満を募らせていた若者世代に抗議の大義名分を与えることとなり、怒りが一気に噴き出した。

ネパールの若年層失業率は約20％に達し、数千人が日々海外での出稼ぎを余儀なくされている。一方で「二世特権層」がSNS上で豪華な生活を誇示する姿が拡散され、同世代の若者に強い剥奪感を植え付けた。積もり重なった不満はやがて街頭に爆発し、首都カトマンズでは国会や大統領府、閣僚の官邸が放火される事態に発展。結果として首相は辞任に追い込まれ、同時にSNS禁止令も撤回された。 （関連記事： ネパールで「Z世代革命」　オリ首相が辞任、19人死亡の流血抗議が政権崩壊を招く ｜ 関連記事をもっと読む ）

バングラデシュ：学生デモが首相を追放

2024年、バングラデシュでも学生を中心とする大規模抗議が発生した。発端は政府が公務員採用の多くを「配分制度」と称して特定枠に割り当て、実力よりも出身や背景で決まる不公平な仕組みを維持したことだった。これに反発した学生や若者が街頭に出たことで抗議は一気に拡大し、やがてハシナ首相退陣を求める全国規模の運動へと発展した。

政府は強硬な鎮圧に踏み切り、死者は300人を超えた。事態の悪化を受け、ハシナ首相はインドへ逃亡。権力の空白状態となった国内では、調整の末にノーベル平和賞受賞者で経済学者のムハマド・ユヌス氏が暫定政権の指導者に就任し、2026年2月の総選挙実施が決まった。

スリランカ：経済崩壊が引き金に

バングラデシュに先立つ2022年、スリランカでは深刻な経済危機が国民の怒りを爆発させた。7月には市民が大統領府や首相官邸に突入し、政府庁舎を占拠して写真を撮る光景が世界に伝わった。

当時のラジャパクサ大統領は国外へ逃亡し、電子メールで辞任を表明。だが、首相を代行大統領に昇格させた決定がさらなる反発を招き、抗議は収まらなかった。市民は両者の退陣と新政権樹立を要求し、国の政治は混乱を極めた。

パキスタン：イムラン・カーン失脚と混迷

パキスタンの場合、抗議ではなく議会主導の動きが政権交代を引き起こした。2022年4月、イムラン・カーン首相は軍との対立を表面化させ、不信任投票で失脚。2023年には汚職容疑で逮捕され、支持者による暴力的な抗議も鎮圧されて勢力は大きく後退した。

同国は現在も高騰するインフレ、中国からの巨額債務、越境テロの脅威、そしてインドとの緊張関係といった難題を抱える。国際通貨基金（IMF）の救済を得たものの、伴う金融・通貨改革は国民生活をさらに圧迫し、混迷は続いている。

アフガニスタン：タリバンの復権

最も血なまぐさい変動となったのはアフガニスタンだ。2021年8月、米軍が撤退するとタリバンが首都カブールを制圧し、民主政権を率いていたガニ大統領は国外逃亡。タリバンは再び政権を掌握した。

その後、女性や少女の教育を禁じ、異議を唱える声を封じ込めるなど強権的な政策を復活させ、国際社会から孤立を深めている。

共通の背景　腐敗と若者の剥奪感

ネパール、バングラデシュ、スリランカ、パキスタン――これらの動乱には共通の要因がある。汚職、経済の失政、そして未来を閉ざされた若者世代の憤りである。シカゴ大学の政治学者ポール・スタニランド氏は「南アジアの若年層は発展の機会から排除されており、不公平感が抗議の先鋒役となっている」と指摘する。

しかし、既存体制を崩しても安定的な改革にはつながらず、暫定政権や軍の介入、不安定な連立体制が生まれるだけの場合が多い。結果として旧来のエリート層が再び権力に返り咲くか、より大規模で暴力的な混乱を招く悪循環に陥っている。

インドにとって、東部での紛争、西部からのテロの脅威、そして周辺国で相次ぐ政権崩壊は、地域全体の安定を揺るがす重大な懸案だ。これは単なる国際ニュースではなく、南アジア最大国として直面する現実的な課題でもある。

ネパールと接する北部国境では、抗議後に想定される移民流入や不安定要因への備えが急務となる。東隣のバングラデシュは、過激派対策の信頼できるパートナーではなくなりつつあり、イスラム勢力の台頭が不安を増幅させている。パキスタンは依然として核、経済、治安の三重リスクを抱え、さらにアフガニスタンではタリバン政権の継続により経済崩壊と国際的孤立が深刻化し、国境を越えたテロ活動や難民の不法越境の脅威が高まっている。

これら一連の抗議運動が浮き彫りにしたのは、南アジア諸国に共通する構造的問題だ。すなわち、腐敗や雇用不安、政府不信に直面しながらも、統一的な指導者や明確な改革の青写真を欠いている点である。権力の空白が生じても即座に適切なリーダーが現れず、旧体制を排除しても同じ背景を持つ政治家が権力を取り戻す。こうした悪循環こそが、状況を改善させるどころか一層悪化させる最大の要因となっている。

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​編集：田中佳奈

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