米国の著名な保守派インフルエンサーであり、非営利団体「ターニング・ポイントUSA(TPUSA)」の創設者であるチャーリー・カーク(Charlie Kirk)氏が、9月10日にユタ州のユタ・バレー大学(Utah Valley University)で行っていた演説中に銃撃を受け死亡した。事件は全米に衝撃を与え、政治暴力の深刻化に一層の懸念を呼び起こしている。
米マサチューセッツ大学ローウェル校の犯罪学教授で、政治暴力研究の第一人者であるアリエ・ペルリガー(Arie Perliger)氏は、米メディア《The Conversation》の取材に応じ、「これは決して一過性の事件ではない」と警鐘を鳴らした。
「非民選指導者」を狙った暗殺の異例性
ペルリガー氏によれば、政治暗殺の標的は通常、民選の公職者や政府高官に限られることが多い。非営利組織のリーダーが狙われるのは稀であり、今回の事件は「政治的憎悪の対象が拡大している」危険な兆候だという。
さらに同氏は、民主国家における暗殺事件のパターンを長年研究してきた経験から「政治暗殺は波のように連鎖する傾向がある」と指摘する。
「一度暗殺が成功すると、極端な思想を持つ対立勢力が『報復』を正当化する雰囲気が生まれる。暴力が政治的行為として容認されるという誤った認識が広がり、模倣と報復の連鎖が始まる可能性がある。カーク氏の死は終わりではなく、新たな暴力の波の始まりかもしれない」と分析した。
米国で相次ぐ政治暴力事件
カーク氏の死は孤立した出来事ではない。米国では近年、政治暴力事件が頻発している。
2024年:トランプ前大統領が選挙活動中に2度の暗殺未遂を経験。
2025年初頭:ペンシルベニア州知事ジョシュ・シャピロ氏の官邸が過越祭の期間中に火炎瓶攻撃を受けた。
2025年:ミネソタ州下院議員メリッサ・ホートマン氏とその夫が殺害された。
ペルリガー氏は「1960年代にも公民権運動やベトナム戦争を背景に政治的混乱があったが、現在の状況は質的に異なる」と述べる。
データによれば、連邦・地方レベルの公職者に対する脅迫件数は急増しており、「現在の特徴は、政治的スペクトルの両端において政治的暴力容認の傾向が強まっている。常に約4分の1の市民が、何らかの形で政治暴力を支持または正当な手段と考えている」という。
政敵の「悪魔化」と社会分断
ペルリガー氏は、こうした背景には米国社会の前例のない政治的分断があると分析する。
近年、議会における超党派の協力はほぼ消滅し、政策決定が停滞するなかで「対立する相手を単なる脅威として悪魔化する傾向」が拡大している。これにより、対話や妥協の余地が失われ、社会全体に敵対感情が広がっているという。 (関連記事: 「MAGAの国師」チャーリー・カークの死 トランプが最も信頼した若き盟友、勝利を支えた立役者 演説中に「トランスジェンダー銃撃犯」への質問に | 関連記事をもっと読む )
キャンパスの象徴性と暗殺事件の衝撃
今回の銃撃事件が大学キャンパス内で起きたことは、深い象徴性を持っている。ペルリガー氏は「本来、大学は思想を探求し、激しい議論をしても文明的に解決する知識の中心地であるべきだった。しかし、この1年でキャンパスの一部は暴力的になり、もはや対話の余地を残さない敵対的な空間となっている」と警鐘を鳴らした。