「偶発的衝突こそ最大の脅威」　台湾海峡で高まる誤判リスク、米専門家が対話ルート確立を提言

米国の上級研究員ジョエル・ウースナウ氏は、「台湾海峡における最大の危険」（The Greatest Danger in the Taiwan Strait）と題する論考を外交専門誌《フォーリン・アフェアーズ》（Foreign Affairs）に寄稿した。ウースナウ氏によれば、一般的には台湾海峡をめぐる戦争勃発の要因として二つの主要な経路が懸念されているが、しばしば見過ごされがちな第三の可能性が存在するという。それは偶発的な衝突や誤判による戦争の勃発であり、これこそが現下の頼清徳政権において最も現実味を帯びた危険であると指摘した。ウースナウ氏は、台北当局が北京との実質的な意思疎通を確保できるパイプを模索すべきだと警鐘を鳴らしている。

論考はまず、台湾海峡の将来をめぐる二つの典型的なシナリオを挙げている。第一は「選択の戦争」（war of choice）と呼ばれるものである。これは北京が経済・軍事・政治的リスクを慎重に検討したうえで、なお武力による台湾奪取を自ら選択するケースである。第二は俗に「必要の戦争」（war of necessity）とされるもので、台湾が中国にとって容認不可能な政治的レッドラインを越え、国家利益を恒常的に脅かすと北京が判断した場合に軍事行動をとるという想定である。その最も極端な例が「台湾の正式な独立宣言」であり、この場合、北京はあらゆる代償を払ってでも軍事的対応に踏み切ると見られている。

誤判断と偶発事故の方が恐ろしい

しかし、ジョエル・ウースナウ氏がより重視するのは、普段あまり論じられない第三の可能性である。すなわち台湾と中国の間で武力衝突が勃発する原因が、単なる「偶発」あるいは「誤判」による事件から生じ、適時の意思疎通が欠如した結果として制御不能なエスカレーションへと発展する危険性である。

世界の他地域と比べても、台湾海峡におけるこの種の「偶発戦争」（war of chance）のリスクは特に高い。その一因は、双方の軍事活動がきわめて接近した範囲で展開されていることである。さらに、両岸それぞれの国内政治の力学によって、指導者たちは譲歩や回避の余地をほとんど持たない。加えて、米国は台湾防衛への関与を明確に約束してはいないものの、介入の可能性が常に存在しており、衝突がより深刻な段階へと拡大する危険を一層高めている。

小規模な摩擦であっても、一気に大規模戦争へと拡大しかねない。

（関連記事： 陸文浩氏の視点：中国軍機、台海で昼夜を問わぬ異常活動　Ro-Ro船団を護衛し南下集結か ｜ 関連記事をもっと読む ）

「選択の戦争」や「必要の戦争」と異なり、第三国が抑止力を強化したり、台湾の法的独立の追求を制約したりすることで予防できる余地はあっても、「偶発戦争」のリスクを完全に排除することはできない。突発的な事態や誤判を回避する唯一の手段は、指導者による巧みな外交手腕にほかならない。まさにこの点こそ、論考が繰り返し強調する部分であり、両岸が秘密裏にでも意思疎通のパイプを維持し、危機予防と対応の仕組みを確立する必要があると訴える理由である。

「偶発戦争」は本質的に予測が極めて困難であり、過去の歴史を振り返れば、この種の衝突はしばしば壊滅的な結果をもたらしてきた。

歴史における偶発的な衝突

台湾海峡で偶発的な戦火が勃発するシナリオは容易に想像できる。たとえば、解放軍（PLA）の戦闘機が台湾領空にあまりに接近し、度重なる警告も効果を示さなかった場合、台湾軍が地対空ミサイルで撃墜し、飛行員が死亡する事態となる。これに激昂した北京が報復命令を下し、台湾の防空システムを破壊、数十人規模の台湾兵士が犠牲になる、といった展開である。

その際、米国は北京の意図を即座に把握できず、大規模な軍事動員に踏み切る。これに対し、中国も関連情報を受け取ったのち、同様に備戦態勢を強化する。各当事者が一歩も引かず、相手の行動を侵略とみなした場合、危機は瞬く間にエスカレートしかねない。

歴史の経験は、偶発戦争のリスクを「最も高める」三つの要因を示している。

1. 頻繁な軍事接触：米国独立戦争前夜における植民地民兵と英軍の関係のように、前線での小規模な接触が重大な衝突へと発展しやすい。

2. 国内政治の圧力：指導者や政権幹部が国内の威信や名誉を守るため、譲歩や回避の選択肢をほとんど持たない状況に追い込まれる。

3. 同盟国の連鎖的動員：第一次世界大戦において、オーストリア＝ハンガリー帝国、ドイツ、英国、フランスが複雑な同盟関係で結ばれ、暗殺の銃声ひとつで一気に総力戦へと引きずり込まれた事例が典型である。

台海の「完璧な嵐」

これら三つの条件は、いま台湾海峡にすべて揃っている。中国人民解放軍の空軍と海軍は台湾への接近を強め、両岸の非公式な境界線を徐々に形骸化させようとしている。今年1月だけでも中国軍機は台湾海峡の中間線を248回越境し、前年同期の3倍に達した。軍艦や海警局の船舶も台湾が管理する海域へと接近を繰り返し、台湾籍船舶を押収する事例すらあった。これらはいずれも偶発戦争を誘発しかねない典型的な事象である。

台湾側が中国の軍事行動に「徐々に慣れる」としても、解放軍は挑発のレベルをさらに引き上げ、台湾の領空や領海への侵入に踏み込む可能性が残る。その場合、偶発的な衝突や誤判による危機は飛躍的に高まることになる。 （関連記事： 陸文浩氏の視点：中国軍機、台海で昼夜を問わぬ異常活動　Ro-Ro船団を護衛し南下集結か ｜ 関連記事をもっと読む ）

仮に事故が発生した場合、両岸の指導者はいずれも政治的要因から容易に譲歩できない。北京にとって「対台姿勢の弱腰」は絶対に容認できず、そうなれば強烈な民族主義的反発を招く。台湾側は大規模衝突を避けるため慎重な対応を望むかもしれないが、過度に譲歩すれば国内で政治的代償を払うことになり、反中抗議を誘発して北京をさらに刺激する恐れがある。

米国についても、台湾海峡で衝突や戦火の高リスクが生じた場合、議会や世論の圧力により介入を余儀なくされる可能性が高い。ホワイトハウスが静観すれば「弱腰」と批判され、日本やフィリピンといった同盟国への安全保障上の約束まで疑問視されかねない。

こうした一連の中国軍事行動は、必ずしも即時の開戦を意図したものではなく、軍機や艦艇による威嚇を通じた心理的圧力にとどまる可能性もある。しかし南シナ海の事例が示すように、たとえ一人のパイロットや艦艇指揮官であっても、「功を立てたい」「名を上げたい」といった過度な冒険心があれば、予測不能かつ不可逆的な危機を引き起こす危険性は常に残されている。

平時に確立すべき対話ルート

台湾海峡で偶発戦争を回避するには、誤解の余地を減らすことが不可欠であるとジョエル・ウースナウ氏は指摘する。解放軍は自制し、航空機や艦艇を台湾、金門、馬祖に過度に接近させるべきではなく、台湾軍もまた交戦規則を慎重に定め、あらゆる接近行為を挑発とみなすべきではないとする。

ただし、「最も理想的な状況」であっても、危険な突発事態が生じる可能性は残る。通報メカニズムを整備し、現場レベルの軽率な行動を上層部が即時に把握できるようにすれば、北京がリスクを掌握し抑制する助けとなる。さらに、米国が情報伝達の仲介役を担うことで、誤判の可能性を抑えることも期待される。

両岸には、危機が制御不能に陥るのを防ぐため、何らかの水準で秘密のコミュニケーション機構が必要である。現在の北京は頼清徳氏との直接対話を拒んでいるが、研究機関や民間組織を非公式の橋渡し役とすることは可能である。こうしたパイプは平時にこそ構築しておかなければならず、冷戦期に米ソ間の非公式な連絡ルートが核災厄を回避する助けとなったのと同様に、危機発生時に初めて機能するのである。

もっとも、予防には限界がある。ジョエル・ウースナウ氏が真に懸念するのは、現在行われているほぼすべての兵棋演習が「中国が意図的に」武力行使を開始する前提に立っている点であり、偶発的危機への事前対応策はほとんど練られていないという事実である。もし台湾がまったく準備のないまま突発事態に直面し、場当たり的に対応せざるを得なくなれば、世界史を再び変えてしまう「偶発的な大災厄」を招く可能性が高い。

中国語関連記事　

編集：柄澤南 （関連記事： 陸文浩氏の視点：中国軍機、台海で昼夜を問わぬ異常活動　Ro-Ro船団を護衛し南下集結か ｜ 関連記事をもっと読む ）

台湾ニュースをもっと深く⇒風傳媒日本語版X：@stormmedia_jp​