張鈞凱のコラム:沈黙は共犯 イスラエル駐台北代表の寄稿とガザで続く記者殺害隠蔽の現実

2025-09-15 13:55
アルジャジーラの著名なガザ戦地記者アナス・アル=シャリフ氏(28)は、8月10日夜、ガザ市のシファ病院外に設けられた記者キャンプでイスラエルの空爆に遭い、同僚4人と共に死亡した。(写真/シャリフ氏Instagramより)
アルジャジーラの著名なガザ戦地記者アナス・アル=シャリフ氏(28)は、8月10日夜、ガザ市のシファ病院外に設けられた記者キャンプでイスラエルの空爆に遭い、同僚4人と共に死亡した。(写真/シャリフ氏Instagramより)
目次

イスラエル駐台北代表のマヤ・ヤロン(Maya Yaron)氏は12日、《風傳媒》に〈昼は記者を装い、夜はテロ活動に従事―ハマスによる記者証濫用の実態〉と題する寄稿を行った。ガザ情勢に関心を寄せる者であれば、この見出しだけで同代表が台湾の読者に伝えようとするメッセージを察することができる。メディア研究の観点から見れば、ヤロン氏は自らの立場を巧みに活用し、また台湾の与野党を問わず共有される「米国の戦争代理人」としてのイスラエルへの共感を背景に、台湾社会に対して静かに認知戦を仕掛けているのである。

ガザの記者が多数殺害され、最も致命的な職業に

ヤロン氏の主張は単純である。国際社会からイスラエルによるガザ地区記者殺害への批判が日増しに高まる中、彼女は「攻撃を受けた記者は実際にはハマスやパレスチナ・イスラム聖戦機構(PIJ)などのテロ組織に偽装した“偽記者”だ」と反論した。そして「テロリストが報道関係者を装うことで、真実を伝えようとする本物の記者の信頼性と安全が損なわれる」と強調し、イスラエルの行為を「本物の記者を守る」「民間人への被害を減らす」ものと美化したのである。

しかし現実は異なる。8月25日、イスラエル軍はガザ南部のナセル病院を空爆し、20人が死亡。その中にはAP通信、ロイター、アルジャジーラなどに所属する5人の記者が含まれていた。さらに8月10日には、ガザのシファ病院近くに設けられていた記者用テントを空爆し、アルジャジーラの記者5人とフリー記者1人が犠牲となった。わずか半月の間に、イスラエルの空爆で少なくとも10人以上の記者が命を落とした計算になる。

英紙《インディペンデント》の集計によれば、2023年10月7日にハマスがイスラエルを攻撃し、それに対する大規模報復作戦が開始されて以降、ガザでは少なくとも245人の記者が死亡したという。同紙は「これは史上最も記者にとって致命的な紛争の一つである」と指摘した。だが実際にはこの評価でさえ控えめである。なぜなら、その犠牲者数は、米国の南北戦争、第一次・第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争(カンボジア・ラオス紛争を含む)、1990年代から21世紀初頭のユーゴスラビア紛争、さらには同時多発テロ後のアフガニスタン戦争における記者死亡数をすべて合わせた数を上回るからである。こうした衝撃的な事実は、イスラエル駐台北代表の寄稿には一切触れられていないのである。 (関連記事: 「ガザは世界最大の墓場に」パレスチナ大使が東京で訴え 「日本は歴史の正しい側に立つべき」と国家承認を呼びかけ 関連記事をもっと読む

パレスチナ人フリージャーナリストのマリアム・アブ・ダッガは2025年8月24日にイスラエルの空爆で死亡し、血みどろのカメラを残した。生前、AP通信などにガザの前線状況を提供していた。(AP通信)
パレスチナ人フリージャーナリストのマリアム・アブ・ダッガ氏は2025年8月24日にイスラエルの空爆で死亡し、血みどろのカメラを残した。生前、AP通信などにガザの前線状況を提供していた。(写真/AP通信提供)

最も注目を集めたのは、28歳のアルジャジーラ記者アナス・アル=シャリフ氏である。彼はガザ戦火を象徴する存在の一人であり、多くの人々が彼の報道と記録を通じて、同地で進行する惨状を知ることができた。犠牲となる直前にも、シャリフ氏はイスラエルの空爆を映した映像をSNSに投稿していた。彼は本年(2025年)4月6日に遺言を残しており、その冒頭の言葉は痛切であった。「もしこの言葉があなた方の耳に届いているのなら、イスラエルは私を殺すことに成功し、私の声を封じたということだ。」──ガザで報道を続ける記者たちにとって、遺言をあらかじめ書き残すことはもはや日常となっており、シャリフ氏もその例外ではなかった。

最新ニュース
日本の百歳以上人口まもなく10万人突破へ
トランプ・習近平会談の開催地巡り北京か韓国か 交渉は「2つの問題」で停滞しトランプ氏は体裁と成果の間で葛藤
評論:興達発電所爆発事件が賴政権に教えること
「偶発的衝突こそ最大の脅威」 台湾海峡で高まる誤判リスク、米専門家が対話ルート確立を提言
池袋駅に「東京ばな奈」期間限定ストア ちいかわ新柄デザイン&ポケモン5周年キャンペーンが話題に!
大阪アジアン映画祭2025が閉幕 グランプリは『最後の夏』、アジアの新たな才能も輝く
ジミー チュウが銀座に「ストリートカフェ」を初開業 NiziUメンバーも来場、英国スタイルの特別空間を披露
米保守派インフルエンサーのチャーリー・カーク氏が演説中に暗殺 専門家「報復の連鎖が始まる危険」
SAO(荒木佐保里)、初のソロ曲「OHAYO」を発表 独占インタビューで語る世界への感謝
独占》台湾の安全保障「三つの一致」が鍵 元台湾駐在の泉裕泰氏が国民党青年団に警鐘
過去3年で隣国政権が次々崩壊 ネパール抗議が失制の様相、最も不安を抱く国はどこか
株価急騰でマスク氏を抜く 「一日だけ世界首富」オラクル創業者ラリー・エリソンとは
台湾の定番スナック「義美小泡芙」が話題 韓国人気アイドルも「1日で3袋」
「Blackハロウィン」がテーマのサンリオキャラクターが登場!
《人物》わずか8000円台で都議に!佐藤沙織里氏が単独告白 日本政界に挑む新人女性議員の逆襲
ASML徹底解剖》TSMCとの提携で壁も?半導体作家が語る「露光装置の覇者」がいかに神山を取り込んだか
《エコノミスト》「中東の新たな火種は米国とイスラエル」 ドーハ空爆でカタール巻き込み、湾岸諸国が新たな後ろ盾探し
《朝日》単独取材:東京のOLが「AI恋人」との結婚を告白 ―「彼は誰より優しく、返事も早い。ロマンチックにプロポーズされ、今とても幸せです」
台湾・柯文哲氏の7000万元保釈取り消し 台北地検の抗告認められ高裁が差し戻し 3つの理由を指摘
元エンジニアから撮影の夢へ 台湾出身・丁勤紜さん「日本の球場で自分の物語を残したい」
ano、デビュー5周年で“あの流哲学書”刊行 『哲学なんていらない哲学』を12月24日に発売
ano、初の日本武道館公演をU-NEXTで独占配信 10月25日にウォッチパーティも開催
ジール、東京ゲームショウ2025に出展 AI感情分析「STORYAI」の新機能を披露
Peatix、イベント参加者支援とブランド強化へ 新機能「Peatixインサイト」開始・公式キャラグッズ発売も
瑞起、「東京ゲームショウ2025」に最新製品を多数出展 EVOTOP新モデルや「ミニスロ獣王」初披露
第47回ぴあフィルムフェスティバルで『メイメイ』完成披露上映決定 台湾の王渝萱・王渝屏姉妹が来場へ
TENTIALがニュウマン高輪に新店開業 睡眠から移動まで快適に、人気「BAKUNE」シリーズも登場
「TENNOZ ART WEEK 2025」9月開催 諏訪敦の大規模個展やナイル・ケティング新作を発表
調査》台湾・盧秀燕台中市長ら15県市長が中央と激突 総予算に賴清德政権の「見せかけの財政操作」
中国の制裁を「光栄」と受け止める!石平参院議員、李逸洋駐日代表と会談し日台関係の深化を誓う
人類が宇宙生命に最も近づいた瞬間か NASA、火星で「豹紋岩石」を発見 生命の痕跡か、地球への持ち帰りは最大の難題
陸文浩の視点:福建艦の海上試験は北上か南下か 英米日韓の艦隊が黄海・東シナ海に集結
「MAGAの国師」チャーリー・カークの死 トランプが最も信頼した若き盟友、勝利を支えた立役者 演説中に「トランスジェンダー銃撃犯」への質問に
ルミネ最大規模「ニュウマン高輪」が本格開業、新ランドマーク誕生 表社長「100年先の豊かな社会を描く実験場に」
化粧品会社ディー・アップ、「野良犬」とパワハラで新入社員自殺 1.5億円支払いと社長辞任 東京地裁が決定
韓国元APEC議長が東京で警鐘 「WTO体制崩壊の危機、アジアは制度強化で対抗を」FCCJ会見
イスラエル国会議長と人質家族が東京で会見 「日本を愛した息子を救ってほしい」ガザ拘束の現実
ガザの惨状を描く新作ドキュメンタリー「Voices from Gaza」日本で配信開始 制作者「終わりなき避難を記録する」
トランプ最側近カーク氏射殺 31歳保守派指導者の死に米国全土が衝撃、政界緊張高まる
「ガザは世界最大の墓場に」パレスチナ大使が東京で訴え 「日本は歴史の正しい側に立つべき」と国家承認を呼びかけ
台湾ガソリンスタンドに現れた「ドラゴンボールの亀仙人」 一輪バイク走行にネット騒然、日本人世界記録ライダーが正体
米軍、スービック湾に再進出?トランプ政権、中国を狙いフィリピンに「世界最大の軍需工場」計画
舞台裏》中国九三軍事パレードで国軍を驚かせる!台湾対策の新兵器2種、「量が多い上に捕まえられない」
リッチモンドホテルズ、宇都宮・浅草で相次ぎリニューアル 長期滞在型や伝統×モダンの新空間に
ADK MSとブレインパッド、「エージェント“リンリー”」共同開発 AI倫理チェックで制作現場の負担軽減
「MAGA国師」カーク氏射殺 トランプ大統領の最側近、キャンパス演説中に銃撃され米国全土で半旗哀悼
エプスタインの「友人名簿」公開 トランプ氏のほかクリントン、英国王子、大使も登場 女性虐待の衝撃的画像が明らかに
イオン「オクトーバーフェスト」全国1600店舗で開催 乾杯に込めた三つの思い 敬老の日にもぴったり、三世代で楽しむ乾杯体験