各国の視線が韓国で準備が進む「米中首脳会談」に集まるなか、28日付の『フォーリン・アフェアーズ(Foreign Affairs)』は、カーネギー国際平和基金(Carnegie Endowment for International Peace)の研究員、ウォルハイマー(Stephen Wertheim)氏の寄稿「Toward a Taiwan Truce(台湾休戦に向けて)」を掲載した。ウォルハイマー氏は、トランプ政権が「大取引」の青写真を描き、巧妙な外交上の保証を用いることで、米中台が戦争の縁から一歩退く枠組みの構築を提案している。
トランプ氏の「解放日関税」や米中の貿易・技術摩擦が世界経済に与える影響の大きさから、レアアースや大豆、半導体など通商案件に注目が集まるのは自然だ。しかし『ウォール・ストリート・ジャーナル』は27日付の社説「Xi Gives Trump a Taiwan Test(習近平の台湾に対する試練)」で、習近平氏が今回の会談で台湾も重視すると指摘。トランプ氏に対し、台湾独立をめぐり北京に譲歩すべきではないと警告した。さもなければ台湾の士気を損ない、「自助は無意味」との誤ったメッセージを与えかねないと懸念を示した。
同紙は、ルビオ(Marco Rubio)氏の「米国は台湾を見捨てない」との主張を評価しつつも、「トランプ氏と習氏が同じ部屋にいるとき何が起きるかは読めない」と不安を示す。そのうえで、「地政学から価値観に至るまで台湾は米国の利益の中核で、太平洋の第一列島線を構成する」と訴え、習氏の「台湾の売り渡し」要求は退けるべきだと求めた。これに対しウォルハイマー氏は、単に独立に反対するだけでなく、双方が一歩退く“相互後退”の道筋を模索すべきだと主張する。
「台湾撤退」論者の処方箋
ウォルハイマー氏とカヴァナ氏は、米国が従来の極端な親台路線を維持すべきではないと指摘。大統領が「台湾のために戦う」圧力に耐える必要はなく、そのコストと政治的計算は米国を「勝ち目のない戦争」に導きかねないと論じた。今回、トランプ氏が韓国で習氏と直接会談するのを前に、同氏は改めて長文の提言を公表し、30日の会談で「果断な行動」に踏み出し、台湾をめぐる戦争リスクを引き下げるべきだと主張。現在の台海の緊張は単独の当事者に帰すべきではなく、米中台が相互作用して「緊張のスパイラル(spiraling tensions)」を生んでいるとの見方を示した。
制御不能のスパイラル 三者ゲームの危うい均衡
ウォルハイマー氏はまず「最も危険な当事者」として中国を挙げる。習近平政権下の北京は、軍事・経済・外交・情報戦を総動員して台湾への圧力を強めている。大規模な軍事演習や台湾海峡中線を越える飛行の常態化など、2027年にも中国が侵攻または封鎖に踏み切るのではとの懸念が高まっている。しかし、同氏は「中国脅威論」を全面的に受け入れてはいない。現時点で北京が侵攻を決意した兆候は見えないが、もし台湾が法的独立へ動き、中国本土から永遠に分離しようとしていると北京が判断すれば、軍事行動のリスクは一気に高まると指摘。そのため、北京にそうした結論を下させないことが、ワシントンと台北にとって極めて重要だと強調している。
続いてウォルハイマー氏は、ワシントンと台北の双方が最近、衝突を回避するための「長期的保証」を弱めていると批判する。過去5年間、米国は「一つの中国政策」の一部を緩めてきた。これは、北京政府を中国唯一の合法政府と認め、「台湾は中国の一部」とする北京の立場を認識しながら、それに挑戦しないという原則だった。
だが、トランプ政権末期以降、米国は米台間の公式接触制限を解除し、アザー保健長官(Alex Azar)を派遣するなど、数十年ぶりの閣僚級訪台を実施した。ウォルハイマー氏は、これが米中3公報で掲げた「台湾との非公式関係維持」の約束を損なったとみる。バイデン政権が交流のトーンを一定程度抑制したものの、すでに生じた政治的損傷は明白だと指摘する。
バイデン大統領はこれまでに4度、台湾防衛のための米軍派遣を公言し、歴代政権が維持してきた「戦略的曖昧さ」を事実上崩した。ホワイトハウスは繰り返し「政策は変わらない」と説明したが、台湾の独立志向を抑止する米側の影響力は弱まりつつある。さらに、2022年8月のペロシ下院議長(当時)の訪台は緊張を頂点に押し上げ、北京の軍事演習拡大と中線合意の崩壊を招いた。トランプ氏の再登場後も、米国が台湾有事にどう対応するかを明言しない姿勢が続いており、北京は依然として米国が再び両岸の取り決めを緩めるのではないかと警戒している。
頼清徳政権の対応と波紋
ウォルハイマー氏は、米国だけでなく台北も緊張緩和に成功していないと批判する。とりわけ頼清徳総統の就任(昨年5月)以降、台湾と中国本土の「分離」を強調し、前任の蔡英文氏が努めた“なだめ”の努力を軽視していると指摘。蔡氏は民進党所属ながら、中華民国憲法と両岸関係法に基づき、「二つの中国」原則のもとで実務を扱う姿勢を示していたが、頼氏は「一つの中国に台湾を含む」という表現を避け、中国を「脅威」として描き、台湾統一だけでなく国際覇権を狙う存在とした。今年3月には中国を「外国の敵対勢力」と明言し、軍人のスパイ事件を扱うため軍事法廷を再設置するなど、対抗策を強化した。
ウォルハイマー氏によれば、頼氏の発言はペロシ訪台ほど挑発的ではないものの、三度にわたり「両岸は互いに属さない」と明言した結果、人民解放軍は即座に台湾包囲の演習で応じた。一方で、5月や10月に頼氏が比較的穏やかな発言をした際には、中国側も大規模演習を控えている。短期的には台湾の挑発的な発言が圧力を高める一方、長期的には北京が「武力統一」に踏み切るリスクを高める可能性があると分析。最近の頼氏の発言はやや抑制的になっているが、米国が台湾に対話・緊張緩和の意志を後押しすれば、より柔軟な対応が可能になると示唆している。したがって、戦争リスクを下げるためには、ワシントンが北京に米国の意図を明確に伝えつつ、台北によるエスカレーションを防ぐ役割を果たすことが不可欠だと結論づけた。
相互保証で安定をつくる 精密に組む「グランド・バーゲン」
台湾海峡の行き詰まりに対し、ウォルハイマー氏は中核的な処方箋を示す。ワシントンと北京が公開の政治的保証を交換し、双方が互いの「レッドライン」から一歩退く――という構図だ。理想形は、既存の3本の共同コミュニケに続く新たな「米中共同コミュニケ」への署名。これが難しければ、平行声明の発出でもよいとする。同氏は、トランプ氏が「台湾独立を支持しない」と将来にわたる約束を明確化し、米国は台湾独立を現在も将来も支持しない(does not and will not support)ことを再確認するよう提案。独立や統一を含む一方的な現状変更には、いずれの側によるも反対し続ける姿勢を打ち出すべきだと述べる。
ここでの要は「will not(今後も)」だという。これにより、米国の約束は無期限の将来に及び、台北が「既成事実を積み上げれば最終的にワシントンは受け入れる」といった淡い期待を断つ効果がある。将来、台湾独立支持へ舵を切ろうとする米大統領は、より公然と自国の明文の約束に逆行することになる。一方でトランプ氏は、「米国の長期的利益は台湾海峡の平和と安定にあり、両側の人々に受け入れられる形での問題解決を歓迎する」とも強調すべきだとする。米国が公式かつ高位の声明で「平和統一」を許容されうる選択肢として明確化する初の機会になる、という位置づけだ。
この措置により、北京の「米国が台湾の自律を恒久化し、台北の事実上の独立を後押ししている」との懸念を和らげる狙いがある。同時に、台湾当局にも中国本土からの完全な切り離しを示唆するような絶対表現を避けるよう促す効果が見込める。
北京の見返りは何か
米側が善意を示した後は、北京も対等の対応が不可欠だと同氏は指摘する。具体的には、統一に期限を設けないとの公開声明――2023年に習近平氏がバイデン氏に伝えた「台湾攻撃のタイムテーブルはない」との発言を土台に、「統一に締め切りは設けない(no deadline)」、可能な限り平和的手段を追求する、と明言することである。台湾問題の解決に特定の時間枠はないと、北京が公式に公言する初の機会になりうる。
加えて、台湾周辺での軍事活動を大幅に縮小し、海峡中線を緩衝帯として維持することへの同意が必要だとする。2019年以降に始まり、2022年のペロシ氏訪台後に急拡大した中線越えの飛行を停止すること、周囲160海里での演習の頻度と規模を抑えることも含まれる。たとえ見かけ上は中国の軍事的譲歩に見えても、公平な交換になると同氏はみる。台湾に対する抑制を促すうえでは、北京の軍事的威嚇より、ワシントンの政治的圧力の方が効果的だからだ、という理屈である。
外交保証の不確実性と見返り
もっとも、この提案が高リスクの政治的賭けであることは同氏も認める。想定外の展開はいくつもありうる。たとえば、北京が約束を反故にし、米国の保証を取り込んだうえで対台湾圧力を続けるケースだ。ゆえにトランプ政権は成果を誇張せず、中国側の宣言が「言葉」だけでなく「行動」で裏づけられていることを示す必要があると説く。同時に、米国はインド太平洋での軍事態勢を引き続き強化し、台湾の防衛力向上を支援し続けるべきだとも主張する。
台湾が「置き去り感」や「裏切り」を感じる可能性については、交渉の前後および過程で台北と緊密に調整し、意図を説明、提案を聴取し、「絶対に交渉の対象にしない一線」を明確に伝えることが必要だという。米議会の反発に関しては、歴史的に行政府が北京と合意すると議会は強硬な台湾支援法案で応じる傾向があるため、トランプ氏は同盟調整が議会に資する点を説得し、この交渉が米国益にかなうことへの支持をつなぎ留める努力が求められる。
リスクは多いが、外交保証の交換は「大国間戦争の確率を下げるために、米国がいま取り得る最重要の行動になりうる」と同氏は強調する。米中台の対立のさらなる先鋭化を防ぎつつ、将来への余地を開く取り組みであり、米国が実質的利益を犠牲にせずとも実現可能だと見る。相互の自制が米中関係と台湾情勢で機能し、2027年を無事に乗り切ることができれば、西太平洋に新たな安定の枠組みが生まれる可能性がある――同氏はそう結んでいる。