米中両国の首脳会談を前に、両国の貿易交渉が大きく前進した。米財務長官スコット・ベッセント氏は26日、マレーシア・クアラルンプールでの会談後、「非常にポジティブな枠組み(a very positive framework)」に合意したと発表し、11月10日に期限を迎える「貿易戦休戦協定」が延長される可能性を示唆した。同日、東アジア歴訪中のドナルド・トランプ米大統領は、タイとカンボジアの歴史的和解を見届け、さらにカンボジアのフン・マネット首相からノーベル平和賞に推薦されるという“ダブルの朗報”を手にした。
クアラルンプールでの重要合意 米中関係に「前向きな枠組み」 世界が注目するトランプ・習会談を目前に控え、両国の貿易代表団による緊迫した交渉がマレーシアの首都クアラルンプールで行われた。2日間にわたる協議の末、ベッセント氏は中国の何立峰副首相率いる代表団と「非常に前向きな枠組み」に合意したと発表。これにより、今週後半に予定されるドナルド・トランプ大統領と習近平国家主席との首脳会談に、一定の楽観的見通しが開かれた。
英『フィナンシャル・タイムズ』によると、ベッセント氏は会談後に記者団へ、「建設的で、影響が大きく、かつ深い議論が行われた」と説明。「この成果によって両国は次の段階に進む準備が整い、首脳会談に向けて非常に前向きな土台が築かれた」と強調した。
2025年10月26日、アメリカのトランプ大統領(中央)は、国務長官マルコ・ルビオ(左)、財務長官スコット・ベッセント(右)、通商代表ジェイミソン・グリア(右奥)を伴い、ブラジルのルラ大統領と会談した。(AP通信)
報道陣から「11月10日に期限を迎える貿易戦休戦協定が延長されるのか」と問われると、ベッセント氏は「そう言ってよいだろう(I would say yes)」と明言した。ただし、「最終決定権はトランプ大統領にある」と、ワシントン流の慎重な一言を付け加えた。
クアラルンプールからの「休戦シグナル」 ベッセント氏によれば、協議では中国による米国産農産物の購入拡大が主要議題の一つだった。これはトランプ大統領が強くこだわるポイントであり、「首脳会談での最終確認を期待している」と述べた。トランプ氏は第1次政権期から、中国が米国産大豆などの輸入を増やすことを、貿易交渉における誠意の象徴とみなしていた。再びこのテーマが浮上したのは、今週予定される川習会に向けた「実質的な贈り物」を用意する狙いがあるとみられる。
2025年10月26日、アメリカのトランプ大統領がマレーシア・クアラルンプールで開催された第47回ASEAN首脳会議に出席した。(AP通信)
これに対抗し、トランプ大統領は11月1日から全ての中国製品に100%の追加関税を課すと警告。全面的な貿易戦争が現実味を帯び、市場には不安が広がっていた。そうした中で、吉隆坡から発せられた「休戦シグナル」は市場に安堵をもたらし、関税休戦の延長、さらにはトランプ・習会談での対立回避に向けた重要な一歩となった。
トランプ氏のアジア「平和の旅」 外交と取引が交錯する「トランプ流ディプロマシー」 米中貿易交渉団が神経戦を繰り広げる一方で、ドナルド・トランプ米大統領は、再びホワイトハウスに復帰してから初となるアジア歴訪を開始した。大統領専用機「エアフォース・ワン」は26日午前、マレーシアのクアラルンプールに到着。今回の訪問の主目的は、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議への出席だった。各国首脳が見守る中、トランプ氏はかつて国境紛争をめぐり流血の衝突を起こしたカンボジアとタイの停戦協定署名式を主導。「平和の仲介者」としての自らの役割に満足げな表情を浮かべ、「これは単なる趣味なんかじゃない。もっと真剣な仕事だ。だが、これは私が得意で、そして大好きなことだ」と語った。
2025年10月26日、タイとカンボジアがマレーシアで正式に停戦協定に署名し、両国の首相が記念の名札を交換した。(AP通信)
この「平和劇」のクライマックスを演出したのは、カンボジアのフン・マネット首相だった。マネット氏は「トランプ大統領をノーベル平和賞に推薦する」と宣言し、タイとカンボジアの和解を仲介した功績を称えた。
トランプ氏にとってこれは、まさに「遅れてきた栄誉」といえる。近週、ガザ地区停戦の仲介にも関わったにもかかわらず、今年のノーベル平和賞に選ばれなかったことを繰り返し不満として口にしていたからだ。マネット氏の「援護射撃」によって、再び世界の注目がトランプ氏に集まった。
2025年10月26日、アメリカのトランプ大統領が、タイとカンボジアの停戦協定署名式に先立ち、カンボジアのフン・マネット首相の演説に耳を傾けた。(AP通信)
もちろん、トランプ外交に「平和」だけがあるわけではない。今回の停戦合意に合わせ、具体的な経済取引も動いた。トランプ氏は署名式で「平和条約と同時に、米国はカンボジアと大規模な貿易協定を、そしてタイとは重要な戦略鉱物に関する協定を締結した」と発表。「両国が平和を保つ限り、米国は商業と協力の面で多くの“ディール”を進めていく」と強調した。
新たな合意によって、米国はカンボジア、タイ、そして開催国マレーシアへの関税を最大49%から19%に引き下げることになる。経済的利益と外交的成果を同時に手に入れる「トランプ流の二段構え」が、ここでも鮮明に表れた。
不透明なインド太平洋戦略 日本は「慎重接近」、カナダは「摩擦」 トランプ氏のアジア歴訪は、地域各国にとっても試練の舞台となっている。各国政府は、トランプ政権の「インド太平洋戦略」の輪郭を探り続けているが、関税政策と突発的なSNS発言に翻弄され、その全体像はいまだ霧の中だ。
日本の高市早苗首相は、トランプ氏の到着前に電話会談を行い、SNS「X」で「率直で建設的な会話だった」と投稿した。さらに、高市氏は先週金曜日、日本の防衛予算の増額を加速させる方針を発表。日本政府関係者によると、「同盟国にタダ乗りしている」と不満を漏らすトランプ氏を「喜ばせる」狙いもあったという。
一方、もう一つの米国の同盟国であるカナダは、まったく異なる経験を味わった。トランプ氏は訪問前日、ロナルド・レーガン元大統領の「反関税」発言を引用したテレビCMに激怒し、カナダ製品に対して10%の追加関税を課すと発表。カナダのマーク・カーニー首相もASEAN首脳会議に出席する予定だが、トランプ氏は「会談の予定はない」と明言した。この一件は、トランプ氏の突発的かつ感情的な決定プロセスを改めて浮き彫りにし、同盟諸国に「緊張と警戒」の空気を残した。