日本人はなぜイグ・ノーベル賞に強いのか?18年連続受賞の背景と独創性の秘密

立教大学理学部共通教育推進室(SCOLA)特任准教授で、サイエンス・コミュニケーターとしても活動するイグ・ノーベル賞日本担当ディレクターの古澤輝由氏。(写真/FPCJ提供)
立教大学理学部共通教育推進室(SCOLA)特任准教授で、サイエンス・コミュニケーターとしても活動するイグ・ノーベル賞日本担当ディレクターの古澤輝由氏。(写真/FPCJ提供)
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公益財団法人フォーリン・プレスセンター(FPCJ)は2025年9月10日、「イグ・ノーベル賞に見る日本人研究者の独創性」をテーマに記者会見を開催した。登壇したのは立教大学理学部共通教育推進室(SCOLA)特任准教授であり、イグ・ノーベル賞日本担当ディレクターを務める古澤輝由氏で、日本人受賞者の特徴や背景、さらには賞が持つ文化的意義について豊富な実例を交えて講演した。

「人を笑わせ、考えさせる」研究に贈られる賞

イグ・ノーベル賞は1991年、米国のユーモア科学雑誌編集長マーク・エイブラハムズ氏によって創設された。毎年10部門で「人々を思わず笑わせ、そして考えさせる研究や業績」に対して授与される。ノーベル賞と異なり賞金はなく、受賞者は旅費や滞在費を自費で負担するが、世界中から研究者が集まり、科学とユーモアを融合させた発表を行うことで知られる。

古澤氏は冒頭、「研究者が真剣に取り組んだ成果が、結果として“笑えてしまう”からこそ面白い」と語り、2009年に受賞した“ブラジャーがガスマスクに変形する”発明や、ジンバブエのハイパーインフレを皮肉った紙幣研究などを紹介。笑いの中に科学の本質を問い直す契機があると強調した。

実用化につながる日本人の受賞研究

日本人研究者の受賞が18年連続で続いていることについて、古澤氏は「単なる話題性ではなく、実用化を見据えた研究が多い」と語る。例として挙げたのは、2011年の「わさび警報装置」だ。聴覚障害者向けに嗅覚で危機を伝える発想で、実際の装置開発に至っている。また、2023年に受賞した「電気刺激を使った味覚増強スプーン」では、塩分摂取を抑えることが期待され、健康志向とテクノロジーの融合が評価された。

独創性を育む「日本の文化的土壌」

古澤氏は「日本における独創性は、発想力や手法の斬新さ、さらにそれを“実行してしまう”実現力にある」と述べた。また、日本社会には「少し変わった人に対する寛容さや、誇りを抱く文化的背景」があることも、発想を後押ししている要素として挙げた。

イグ・ノーベル賞創設者エイブラハムズ氏との会話を紹介しながら、「日本とイギリスは、風変わりな行動をする人を排斥するよりも、どこか尊敬する文化が残っている」と語った。

笑いと科学の交差点としての賞の意義

「イグ・ノーベル賞の目的は、科学をバカにすることではなく、“わかりやすさの牽引”が進みすぎた現代科学を、もう一度“楽しめる”ものに戻すことにある」と古澤氏は締めくくった。

さらに「イグ・ノーベル賞は、サイエンス・コミュニケーションとして極めて丁寧に設計されたショーケースであり、科学と社会の距離を縮める試みとして評価されるべき」と述べ、その象徴として「ノーベル賞を受賞したアンドレ・ガエム氏が、10年前にイグ・ノーベル賞を受賞していたこと」を紹介。「ユーモアと好奇心に忠実であることが、科学を前進させる原動力になる」と語った。

国際的な関心と教育への波及

記者会では、シンガポールやトルコなど海外メディアからも質問が寄せられ、日本社会におけるユーモアとイノベーションの関係や、若者教育で“型破りな発想”を奨励する意義について議論が交わされた。

今年のイグ・ノーベル賞授賞式は9月18日(日本時間19日早朝)にオンラインで開催され、ニコニコ生放送やYouTubeを通じて視聴できる予定だ。

イグ・ノーベル賞とは

イグ・ノーベル賞は1991年に創設されたユニークな賞で、「人々を笑わせ、そして考えさせる」研究や業績に対して贈られる。名称はノーベル賞(Nobel Prize)に否定を意味する接頭辞「Ig(イグ)」を組み合わせた造語であり、英語の「ignoble(下品な、不名誉な)」にもかけられている。

日本人研究者の受賞は多く、毎年秋に行われる授賞式は世界的な注目を集めるイベントとなっている。

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