李忠謙コラム:習近平退陣後、台湾は本当に安全になるのか?

2025-09-16 16:42
中国の習近平国家主席は、中国人民解放軍に対し「世界一流の軍隊を早急に育成し、国家の主権と統一、領土の完整を断固守らなければならない」と強調した。(CCTV提供)
中国の習近平国家主席は、中国人民解放軍に対し「世界一流の軍隊を早急に育成し、国家の主権と統一、領土の完整を断固守らなければならない」と強調した。(CCTV提供)
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「中華民族の偉大な復興」を掲げる習近平国家主席は、中国共産党史上、毛沢東以来もっとも権力を集中させた指導者とされる。彼は台湾統一を任期中に必ず果たすべき目標に掲げ、人民解放軍には「2027年までに対台湾の軍事行動能力を整えよ」と命じている。こうした動きと呼応するように、米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン元司令官は「台湾有事は2027年前後にピークを迎える」と警告しており、この見立ては軽視できない現実感を帯びている。

だが、ここで避けられない問いが生じる。もし習近平氏が台湾統一を果たせないまま退陣すれば、その後の台湾はより安全になるのだろうか。

米国の政界や学界では「デービッドソン・ウィンドウ」が戦略立案の重要な指標とされている。しかし、実際に習近平氏が2027年に武力行使に踏み切るかどうかは、国際情勢の変化や米中関係の力学、両岸関係の推移、中国国内の政治・経済状況などに大きく左右され、現時点で確かな答えを示すことは誰にもできない。今年72歳を迎えた習近平氏は任期制限から解放されているが、9月3日の軍事パレードではプーチン大統領と「長生不老」を冗談めかして語り合った一方で、いずれは権力を譲らざるを得ない日が来る。そのとき、中国の国家主席と党総書記が交代すれば、台湾への軍事的脅威は本当に和らぐのか。

中央研究院社会学研究所の呉介民研究員は「中華帝国」という概念を提唱し、現在の台湾は朝鮮戦争(米国による共産中国封じ込め体制の確立)や、1971年の国連総会2758号決議(中国代表権を中華人民共和国に承認)に続く「戦後三度目の地政学的転換点」にあると論じる。米中貿易戦争とハイテク摩擦を経て、「米中和解」は「米中競争」へと完全に移行し、その戦略的対立構造は台湾に深刻な影響を及ぼしている。

呉氏は「台湾統一」は中国共産党が「中華帝国」を再建するための二大柱の一つであり、それは習近平氏個人の意思を超える歴史的な課題だと強調する。したがって、たとえ中国共産党が崩壊したり、仮に民主化が進んだとしても、中国のナショナリズムと「帝国の栄光を取り戻す」欲望は簡単には消えず、台湾は決して安泰ではないという。

こうした「帝国計画」が台湾統一を放棄しない宿命を背負わせている一方で、米国の研究者らは別の角度からも警鐘を鳴らす。ブラウン大学のタイラー・ジョスト准教授とイェール大学のダニエル・マティングリー准教授は、習近平氏の退陣後も両岸関係は楽観できないとみる。彼らの分析は「帝国計画」に基づくものではなく、中国共産党内の権力闘争の歴史に根ざした予測であり、権力継承の不安定さそのものが新たなリスクを生むと指摘している。 (関連記事: 李忠謙コラム:台湾賴清徳総統の「大いなる幻想」を検証——「今日のウクライナ、明日の東アジア」が突きつける現実 関連記事をもっと読む

習近平の後継は必ず訪れる

ジョスト氏とマティングリー氏は、米外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』の最新号に〈習近平の後―後継問題が中国の未来を覆い隠し、現在を不安定にする〉と題した論文を寄稿した。彼らは、現在の中国は「習近平時代」と呼ばれるにふさわしいが、党の高層部が次の後継者探しを始めた瞬間から、すべてが揺らぎ始めると警告する。独裁体制にとって権力移行は常に最大の危機であり、中国共産党もその例外ではない。

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