李忠謙コラム:「関税いじめ」が招く米中対抗戦略の崩壊危機

2025-08-13 12:47
ideogram 2.0 Turboが描いたイメージ。
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アメリカのドナルド・トランプ大統領は今年4月2日、自ら「解放の日」と呼ぶ日に、世界に向けて関税を突きつけた。彼が署名した大統領令第14257号は、「相互関税による貿易調整を通じて、長年続くアメリカの大規模な物品貿易赤字を是正する」という内容で、トランプ氏はこれを「アメリカ経済の独立宣言」とも位置づけた。

しかし、関税導入の理由は単なる貿易赤字の是正にとどまらない。中米カナダに課した「フェンタニル関税」、ブラジルの前大統領ジャイール・ボルソナーロ氏を法的に追及するための関税、さらにインドのロシア産原油購入に対する懲罰的関税など、トランプ氏は関税を他国への圧力手段として頻繁に活用している。こうした手法は、北京が用いる経済的威圧と酷似しており、「アメリカを再び偉大にする」どころか、長年築いた反中国包囲網を自ら崩壊させかねない。

2025年4月2日、アメリカのトランプ大統領と商務長官ルトニクがホワイトハウスのローズガーデンで新たな関税を発表する。(AP)
2025年4月2日、米ホワイトハウスのローズガーデンで新関税を発表するトランプ大統領とラトニック商務長官。(AP)

『ブルームバーグ』のエダニエル・テン・ケイト編集長は、最近のインドへの50%関税を「強引な外交」と表現し、中国の経済的脅迫と非常によく似ていると指摘する。皮肉なのは、2020年2月にトランプ氏がインドを訪れ、ナレンドラ・モディ首相の地元で10万人以上を前に演説し、「ある国は強要や威嚇、侵略で力を求め、もう一つの国は人々を解放し、夢を追わせることで台頭する」と語ったことだ。当時の「前者」は中国を指していたが、今やインド側から見れば「前者はアメリカ」と受け止められかねない状況である。

アメリカとインドの関係は急速に悪化し、トランプ氏は「インドとロシアが何をしていようと気にしない。それで経済が沈むならそれも構わない」とまで発言している。結果として、アメリカが10年以上かけて築いてきたインドとの協力関係という重要なバランスは、中国側へと傾きつつある。

アメリカのトランプ大統領が24日、インドを訪問し、2日間の国賓訪問を行った(AP)
米大統領トランプ氏とインド首相モディ氏の巨大ポスター。(AP)

ケイト氏は、トランプ氏がわずか数日で、アメリカが10年以上かけて築いてきた対中包囲網を自ら崩し、その結果、インドという重要な戦略的カードを北京に渡したと指摘する。トランプ氏の強引な外交手法は、これまでアメリカや同盟国が長年にわたり中国に対して非難してきた経済的威圧と本質的に同じだ。たとえば中国は、領土問題を理由に日本への希土類供給を停止し、THAADミサイル配備を理由に韓国製品をボイコット、新型コロナ起源を巡る対立でオーストラリア製品を輸入禁止にし、劉暁波氏のノーベル平和賞受賞後にはノルウェー産サーモンの輸入を制限、さらに企業が台湾を「国家」と表記したことに罰を科すなどの前例がある。

アメリカ主導のG7は、こうした経済的脅迫に対抗するため協調してきたが、トランプ氏はむしろ習近平氏の外交的「いじめ」手法を模倣し、それを新たに築こうとしている。かつて国務長官だったマイク・ポンペオ氏は、中国共産党について「ソ連の失敗を繰り返し、潜在的な同盟国を遠ざけ、国内外の信頼を損なっている」と批判していた。しかし皮肉にも、トランプ氏は関税とSNSでの短絡的な発言を駆使し、自ら中国の失敗例を実演しているかのようだ。

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