トランプ政権1期の米国務省元顧問クリスチャン・ウィットン氏が先ごろ発表した論考「台湾はいかにしてトランプを失ったか」(How Taiwan Lost Trump)が、台湾政界で大きな波紋を呼んでいる。ウィットン氏は、民進党政権が左派的価値観に固執し、現在のワシントンで台頭する新右派と相容れないことが、台湾がトランプ氏の支持を得られない理由だと批判した。この論考は多くの批判や疑念を招き、同氏は12日、東アジア地政学評論サイト「Domino Theory」において再び「台湾はどうすべきか」(What Taiwan Should Do)を発表した。副題は「台湾を長年支持してきた人物からの提言」である。以下、全文を翻訳する。
先週、筆者が寄稿した論考「台湾はいかにしてトランプを失ったか」(訳注:原文では誤って “How Trump Lost Taiwan” と記されているが、正しい題名は “How Taiwan Lost Trump”)がウェブメディア「Domino Theory」に掲載された。この論考は台北の左派政権を批判したため、台湾とワシントン双方で予想外の注目を集めた。
評価する声もあり、例えばYouTuber「好機車」として知られるSona Eyambe氏は、43.3万回再生を記録した動画の中で、この論考は台湾を長年支持してきた人物の見解であると指摘した。一方、批判的なメディアとしては『台北タイムズ』が三本の反論記事を掲載し、筆者の主張や経歴に疑義を呈したが、指摘した問題に対する解決策は提示しなかった。
知人の中には、ワシントンで台湾問題の経緯を詳述するだけでなく、可能な解決策を示すべきだと助言する者もいた。そこで、まずはあらゆる政府の最優先責務である国防から始めたい。台湾は「独自防衛」の明確な概念を確立すべきである。戦争や封鎖の事態には同盟国の支援を求める意志を表明しつつも、必要とあれば自らの資源で最後まで戦うという原則を掲げるべきだ。イスラエルの例にならい、「台湾の大統領は、米国大統領に台湾防衛のため米国人の命を犠牲にすることは求めない」と声明を出すべきである。
国防費の国内総生産比率をめぐる議論に終始するのではなく、台湾と米国の国民双方が理解し得る具体的な能力に焦点を移すべきである。
最先端の無人機を中核とする部隊を配備すべきである。筆者の同僚の一人は、台湾は米国以上の軍用無人機を保有している可能性があると指摘している。米軍の調達の遅れや更新の鈍さは周知の事実であり、これは十分にあり得ることだ。
台湾は自律型無人機の能力を極限まで高めるべきである。ウクライナ戦争の教訓を踏まえ、高性能センサーや分散型ネットワークと、比較的低技術の無人機を陸上・海上で組み合わせるべきだ。これらの技術は各種兵器体系と組み合わせ、太平洋地域の他国へ輸出することで、中国への防衛力を迅速に強化する有効策となる。
さらに、独立した衛星ネットワークを打ち上げるべきである。平時には通信と監視、戦時には軍事指揮・管制に活用する。台湾がSpaceXおよび同社CEOのイーロン・マスク氏を信用しないのは正しい判断である。中国に自動車工場を持つ人物を誰が信頼できるだろうか。近年、低軌道への衛星打ち上げ費用は大幅に低下している。台湾は米国企業から容易にライセンスを受けられる技術を利用し、自前の衛星ネットワークを構築できる。これを怠れば、中国が台湾有事に海底通信ケーブルを破壊した場合、無線通信に頼るしかなくなる。
また、民兵の活用と縦深防衛を認めるべきである。台湾の生存にとって、中国の侵攻を海上や空中で削ぐことは極めて重要だが、人民解放軍を完全に海岸で阻むことは困難だろう。中国の侵攻はノルマンディー上陸作戦(Dデイ)のような形ではなく、むしろ逆方向のダンケルク作戦に近いものになる可能性が高い。すなわち、数千隻の中型船舶や航空機に小規模の中国兵部隊を分乗させて送り込む形である。
台湾は全島規模の作戦計画を準備し、公に議論すべきである。さらに、台北やその他の大都市を「非武装都市(オープンシティ)」として宣言し、攻撃や破壊を回避することも検討すべきだ。オープンシティとは、都市が自発的にあらゆる抵抗を放棄し、敵軍が砲撃や空爆を行わず、行軍のみで進入すると想定される形態を指す。現在、台湾では一部の民間人がエアガンで戦闘技術を訓練し、戦時に実銃を用いて防衛に加わることを望んでいる。こうした愛国的志願者は、スイス型の民兵組織に編入し、武器・戦術・後方支援・指揮・医療などの体系的な軍事訓練を受けるべきである。加えて、特に資格を持つ民兵が武器を分散配置された軍需庫に保管できるよう、銃規制を緩和すべきである。
私の論考に対する典型的な批判の一つは、「トランプ政権下のワシントンで台湾が十分な支持を得られなかった」という私の見解は誤りだ、というものだ。なかには、米議会の超党派が台湾を支持していると強調する者もいるが、私はこれにも懐疑的である。毎年4月、私は1979年施行の「台湾関係法」を思い出しては失望している。この法律は米行政府に対し、台湾の防衛に必要な武器を販売するよう求めているが、行政府はこの規定を46年間守ってこなかった。米国憲法は外交政策や武器輸出管理において大統領にほぼ全権を与えているため、これは驚くべきことではない。
台湾は、米国議会にいる「友人たち」に対し、台湾のために実質的な行動を取るよう強く求めるべきである。ワシントンでは、議会の「台湾コーカス」(Congressional Taiwan Caucus)が国会議事堂で最大規模の超党派組織の一つだと冗談交じりに語られるが、そのメンバーは加入以外に台湾関連で具体的な行動を取っていないのが実情である。
まずは、これらの友人に対し、米行政当局へ圧力をかけ、台湾がすでに購入した全ての兵器を引き渡すよう求めさせるべきだ。Grokの推計によれば、米側が未引き渡しの兵器は215億ドルに上る。トランプ氏は外国が米国製兵器を大量購入することを好むのだから、彼が拒めない条件を提示すればよい――すなわち、未引き渡し分を全て納品するなら、台湾は軍購総額を400億ドルまで引き上げる。ただし、彼の退任前に納品することを条件とする。
次に、これら議会の友人に働きかけ、毎年の国防授権法(NDAA)に、台湾が米国主導で隔年開催される環太平洋合同演習(RIMPAC)への参加を認め、中国を恒久的に排除する規定を盛り込ませるべきである。これは疑う余地のない措置であり、そうでなければ、なぜ演習を行い、太平洋に巨大な同盟軍を保持する必要があるのかという疑問が生じる。
さらに、台湾はこれらの友人に求め、法案に「国防総省は各参加国に対しRIMPAC事務局の設置を奨励し、米国、日本、フィリピン、台湾において法制化する」旨を明記させるべきだ。表向きは通年で複雑な演習計画を継続するためとされるが、実際の目的は危機時に機能する軍事協力の枠組みを構築することにある。
太平洋地域には北大西洋条約機構(NATO)に相当する同盟は永遠に存在しないだろう。しかし、この事務局は同盟関係の重要な「裏口」となり得る。すなわち、戦時に兵力を倍増させ得る合同軍事司令部の設立である。条約は存在せず、加盟国間に明文化された、あるいは暗黙の相互防衛義務はないが、危機時には各国軍事指導者が国家指導者の指示の下、台湾軍と共同作戦を実施する能力を持つことになる。これにより、戦時における「義務」ではなく「選択肢」を提供できるのである。
次に、台湾政府は近年米国政府から受け取った資金を返還すべきである。総額を算出し、小切手を米財務省に送ればよい。財務省には「寄付受付」の私書箱が存在する。数十年来、台湾は自ら国防費を調達してきた。近年、上院議員リンゼー・グラム氏のような議会の戦争タカ派は、台湾の要請なしにその経費を歳出法案に盛り込んできた。こうしたやり方は利益よりも害が大きい。国防の観点から見れば比較的小額であるにもかかわらず、台湾は「米国の資金を必要とせず、また望まない」という、稀有な同盟国としての重要な立ち位置を米国民に示す機会を失ってきたのである。この差別化は、台湾自身の手で取り戻すことができる。
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台湾は、正式な独立を宣言することなく、自国民と外国人の双方が理解できる独自のアイデンティティを引き続き発展させるべきである。このアイデンティティは、米国の国民的アイデンティティに英国の影響が残るように、常に一部は中国に由来するだろう。しかし、政治的血統については明確に切り離さなければならない。台湾は立法院や新台湾ドルから孫文(孫中山)氏の肖像を撤去すべきであり、中正紀念堂は1980年代以降に台湾に真の民主主義をもたらした人物を顕彰する博物館に改装し、蔣介石像は別の場所に移すべきである。
桃園国際空港は李登輝氏の名に改称し、中華航空(チャイナエアライン)や中鋼(チャイナスチール)といった企業には名称変更を求めるべきである。国共内戦期に中国から持ち込まれた美術品は中国に返還すべきだ。こうした措置は、台湾が独自の文化であるのか、またそれをいかなる代償を払っても守るのかという問題を整理する助けとなる。1519年、征服者エルナン・コルテスが部下のスペイン帰国の望みを断ち切るためメキシコで船を焼き払ったように、台湾も思想面で「中華民国」という概念と決別すべきである。
次に、台湾はそのイメージを、半導体産業における不確定要素から、経済的自由と強さの砦へと転換すべきである。銀行・保険分野の全面的改革と規制緩和は、国内成長を促進し、外資を呼び込むだろう。中国からの資金についても、それが投資先企業の支配や技術移転を伴わない限り受け入れるべきである。台湾はシンガポールやドバイのような存在を目指すべきであり、金融力と外国投資は、諸外国に中国の攻撃を抑止する動機を与える。世界の自由な人々は、真の自由の象徴を守るために立ち上がる可能性が高く、それは中国がいつの日か自由を選択することを望む米国人にとっても力強い象徴となり得る。
世界貿易機関(WTO)や環太平洋パートナーシップ(TPP)といったグローバル主義的枠組みが行き詰まった今、台湾は経済を重視した新たな国際組織を主導すべきである。この組織は、米国から製造能力や雇用を誘致し、輸出依存型経済で成長を促す時代がすでに終わったことを前提に設計される。自由市場と親資本主義的な国内経済改革こそが、かつてアジア四小龍を高度成長へ導いた鍵であった。この組織の主眼は、各国が困難だが不可欠な国内改革を進めるための政治的・知的支援を提供することに置くべきである。台湾は創設段階で、全国各地にモジュール型原子炉を建設し、エネルギーコストを引き下げ(ひいては食料や住宅などあらゆるコストも低減する)計画を提示できる。
また、新台湾ドルを切り上げ、米ドルとペッグ(固定相場制)すべきである。通貨高は輸入財・サービスのコストを下げ、インフレを抑制する。これにより台湾人の生活水準は向上し、対米貿易赤字も縮小するだろう。米ドル連動は為替リスクを排除し、金融や貿易のさらなる成長を促す。
加えて、米国人やその他の自然な同盟国との結び付きを強化すべきだ。台湾で生活・就労を望む者には、より容易に移住できる環境を整える。米国人や日本人が申請すれば、自動的に長期就労ビザを取得できるようにする。フィリピンなど比較的貧しい国の国民には上限を設けることもあり得るが、その枠は寛大なものであるべきだ。さらに、長期経済移民に合理的な帰化プロセスを整備すべきである。台湾の銀行は米国のFICOスコアやその他の信用評価基準を採用し、台湾で生活や事業を営もうとする米国人の信用取得を容易にするべきだ。
これらの改革の最終的な帰結は、虚飾や度重なる失敗を重ねた手法を捨て、痛みを伴うとしても現実を受け入れ、歩みを続けることにある。台湾の未来はワシントンや北京が決めるものではない。それは台湾自身が決めるべきものである。
クリスチャン・ウィットン氏は、ブッシュ政権第2期およびトランプ政権第1期に米国務省上級顧問を務め、国務長官やその他の高官に対し広報および東アジア問題に関する助言を行った経歴を持つ。現在は国家利益センター(Center for the National Interest)の上級研究員であり、公共政策・政府関係コンサルティング会社Rockies Aria LLCの代表でもある。これまでにKPMG LLP、フィデリティ・インベストメンツ、オッペンハイマー&カンパニーに勤務した経験を有し、『Smart Power: Between Diplomacy and War』の著者であり、Substack「Capitalist Notes」の編集者でもある。メディア出演も多く、Fox Business、Fox News、BBC、CNBC、Newsmax、NHK、Sky News Australiaなどでインタビューを受けてきた。ウィットン氏はデューク大学で学士号を取得し、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)でMBAを修得している。