中央研究院院士で台湾大学政治学系教授の呉玉山氏は12日、米国政治の変化について「現在のアメリカは過去とは異なり、トップが“白”から“黒”へと変わった」と表現した。トランプ大統領の行動には一貫したルールがなく、「もしカナダをアメリカの一州と見なすなら、中米交渉において台湾も取引材料になり得る」と警告。台湾は米国への依存を減らす必要があると強調した。
この発言は、元国民党立法委員の陳学聖氏と同党文伝会副主委の何志勇氏が司会するネット番組「志聖鮮思」に出演した際に述べたもの。番組では呉氏が「トランプ主義」の構造と背景について詳しく分析した。
「トランプ主義」の三つの要素
呉氏はまず、トランプ主義を構成する三つの要素を挙げた。
第一は米中覇権競争。長年、世界の覇者であったアメリカが中国の台頭に直面し、自らの地位が脅かされていると感じている。
第二は重商主義。国際的な分業構造の中で各国が経済成長する一方で、アメリカ国内では産業空洞化への不安が強まっている。
第三は右翼ポピュリズム。貧富の格差が拡大し、右翼的な政治手法によって社会の底辺層に「外国に搾取されている」と信じ込ませることで、民族主義や人種主義が広がっている。
特にトランプ政権下では、多くの経済的・社会的問題が発生し、中下層の有権者が生活の苦しさを実感。呉氏は「人間のDNAには異なる種族への反応が組み込まれており、貧富の差を超えて、異なる人種や言語を区別する傾向がある。『あなたを苦しめているのは外国人だ』と言われれば簡単に信じ込む」と指摘した。

トランプ氏は、中国人や中南米からの不法移民を「雇用喪失や治安悪化の原因」と名指しし、経済的成果が出せない局面では右翼的な手法を採って「国民が誰を憎むべきか」を示すことで容易に支持を集めてきた。呉氏は「経済が悪化すれば、この現象はさらに表れやすくなる」と警鐘を鳴らした。
関税を武器にする経済戦略
呉氏はまた、トランプ氏が米経済活性化のために取る極端な手法にも言及。各国がアメリカから利益を得ている構造を逆手に取り、関税を利用して貿易を均衡させようとしている。トランプ氏の発想は「アメリカがあなたから金を稼ぐのは許されるが、あなたがアメリカから金を稼ぐのは許さない」というものだという。
関税引き上げによって、米国と取引する国々を米国内への投資に追い込み、海外生産では利益を出しにくくする。結果として、生産拠点はアメリカ国内に戻り、関税は産業政策の一環としても機能する。また、財政赤字削減や外国への政治的圧力にも活用されている。
呉氏は「トランプ氏にとって関税は単なる経済問題ではなく、財政赤字削減や外交戦略と密接に絡む。彼が『関係ある』と言えば、それは関係することになる」と述べ、政策運用の恣意性と予測不能性に警戒を示した。 (関連記事: 「台湾はいかにしてトランプを失ったか」著者、米元高官が賴清徳政権に提言 自らの未来を切り開くための道筋 | 関連記事をもっと読む )

トランプ政権下では、台湾の半導体大手TSMCをはじめ、韓国、日本、EUの企業も相次いで米国への投資を進めている。しかし、長期的な事業展開には高コスト・高賃金への耐性が求められ、もし米政府の圧力が弱まれば、こうした外国資本の投資は撤退に転じる可能性もある。