台北駐日経済文化代表処台湾文化センターが主催する連続上映企画「台湾映画上映会2025」の第6回が、9月13日、大阪のミニシアター「シネ・ヌーヴォ」で開催された。今回上映されたのは、台湾フェミニズム文学の金字塔として知られる李昂(リー・アン)の小説『殺夫』(1983年)を原作とする映画『夫殺し デジタル・リマスター版』(原題:殺夫 數位修復版)。上映後には、京都大学大学院人間・環境学研究科の津守陽准教授と、本上映会のキュレーターを務める映画監督リム・カーワイ氏によるトークイベントが行われた。
文学と映画表現の差異を検証
津守准教授は、原作小説「殺夫」が台湾社会における女性の自己決定権を描いた前衛的作品であり、日本を含む世界15カ国で翻訳された経緯を紹介。「性的描写を含みながらも社会的な悪を鋭く描き、人間の暗部を暴いた文学的迫力が高く評価された一方、スキャンダラスな内容が社会に悪影響を及ぼすのではないかとの懸念もあった」と、当時の反響を説明した。
また映画版については「原作に比べて表現が大幅にマイルドになっている」と指摘。特に夫を殺害する場面について「映画はナイフで刺す描写にとどまるが、原作は解体作業の記憶と重ね合わせて夫を豚のように殺害するという、きわめてグロテスクな結末が描かれている」と解説。さらに「原作者の李昂自身も『これなら大島渚監督に撮ってほしかった』と語っており、その感覚に共感する」と述べ、会場から笑いが漏れた。
俳優と監督の手腕を評価
リム氏は、主人公を演じた香港ニューウェーブの女優パット・ハーについて「これまでのミステリアスでエレガントな印象とは異なり、素朴であどけない表情を引き出していた」と述べ、その背後にはソン・ジュアンシャン監督の演出力が大きかったと評価した。
会場からは「事件の中国での映画化」について質問があり、津守准教授は「チャン・ツィー主演、ピーター・チャン監督による映画『醤園弄・懸案(She’s Got No Name)』が今年の上海国際映画祭で上映された」と紹介。リム氏も「日本公開が楽しみだ」と応じ、現在も事件が映画の題材として注目され続けている状況を示した。
台湾映画の魅力を強調
最後に津守准教授は「台湾の芸術は広義のポリティクスであり、どのようなテーマでも果敢に切り込む勇気がある。それが非常に魅力的だ」と強調し、会場は大きな拍手に包まれてイベントを締めくくった。
本上映会は大阪アジアン映画祭との連携企画として実施され、台湾映画の多様な魅力を国内外に広める試みの一環となった。
編集:梅木奈実 (関連記事: 大阪アジアン映画祭2025が閉幕 グランプリは『最後の夏』、アジアの新たな才能も輝く | 関連記事をもっと読む )
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