米国務省と米国在台協会(AIT)はこのほど、第二次世界大戦期の国際文書を意図的に曲解する北京の主張を退けた。声明では、「カイロ宣言」「ポツダム宣言」および「サンフランシスコ平和条約」において台湾の最終的な政治的地位は決定されていないと強調した。ただし、この間接的かつ曖昧な表現は、外部に大きな解釈の余地を残した。民進党や独立派の勢力はこれを歓迎し、さらには拡大解釈して米国の対中政策に変化の兆しが表れたと見る向きもある。果たしてこれは、トランプ政権が初めて「台湾地位未定論」を認めたものなのか、それとも単に「米中首脳会談」における交渉材料を増やすための一手にすぎないのか。
内向け宣伝、AITも踏襲か
AITの発言の文脈から判断すると、これは正式な政策声明ではない。米側はAIT報道官を通じて中央通信社に控えめに情報を伝え、「北京の主張は誤りだ」と示したにとどまり、その後に国務省が受動的に追認したものの、公式サイトには声明を掲載しなかった。この点からも、政治的効果を意図的に抑えようとする慎重な姿勢がうかがえる。これに対し、中国の王毅外相は国連総会の場で公開発言しており、台湾メディアを介したAITの「放話」とは宣伝効果の落差が明白である。
振り返れば、バイデン政権下の対応はより積極的であった。昨年(2024年)、中国が国連総会第2758号決議を援用して台湾の国際的な活動空間を狭めようとした際、米側は大規模に官員を動員して応戦した。当時、AIT理事長ローラ・ローゼンバーガー氏が台北で記者会見を開き、ワシントンではカート・キャンベル国務副長官、ダニエル・クリテンブリンク国務次官補(東アジア・太平洋担当)、さらにマーク・ランバート副次官補らが相次いで台湾を支持した。今回の米側の表明と比べれば、その比重には明らかな落差があるといえる。

実際のところ、今回のAITの発言は、中国の王毅外相が最近「カイロ宣言」や「ポツダム宣言」など一連の国際文書を引用し、「日本は中国から盗取した領土、台湾を含めて中華民国に返還すべきだ」と主張したことに対する応答である。AITはこれらの歴史文書が台湾の最終的な帰属を定めていないことを明確に示し、その本質は中国共産党による「法理戦」への反駁であった。道義的、世論的な次元で台湾に声援を送ったものといえる。
「未定論」の再加熱、「一つの中国」論述には抵触せず
しかし、AITの立場と「台湾地位未定論」との間には依然として明確な距離がある。米側の回答は中共の主張を逐一否定するものではなく、従来の「一つの中国」政策──すなわち台湾独立を支持せず、「二つの中国」や「一中一台」を認めない──を揺るがすものでもなかった。米国のシンクタンク専門家リチャード・ブッシュ氏も、今回のAITの表現はこれまでより具体的ではあるものの、米国の一貫した立場に沿ったものだと指摘している。
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そのタイミングを踏まえれば、この動きは現在進行中の米中交渉と密接に関連していることは明らかである。米中両国はスペイン・マドリードで第4回貿易協議を行っているが、「米中首脳会談」の開催は依然不透明だ。関税など主要争点で隔たりが大きく、やむを得ずフェンタニルやTikTokといった副次的な課題に議題を移しているのが現状である。中国の王毅外相と董軍国防相は、それぞれ米国のマルコ・ルビオ国務長官、ピーター・ヘグセス国防長官との電話会談で、台湾問題に関して「言動を慎むべきだ」と警告した。米国務省とAITが「台湾の地位」を対話に盛り込んだことは、新たな交渉カードとなったことは疑いない。
