トップ ニュース 現代の「スパイス」――TSMCのウエハ製造からF-35のミサイル発射まで、不可欠なレアアース
現代の「スパイス」――TSMCのウエハ製造からF-35のミサイル発射まで、不可欠なレアアース ウエハ製造にはレアアースが欠かせない。（写真／柯承惠撮影）
レアアース（希土類元素、Rare Earth Elements＝REE）は計17元素。独特の物理・化学特性を生かし、エネルギー転換や先端産業、防衛、そしてAIを含む次世代テクノロジーの基盤となっている。高性能分野を支える「スパイス」とも呼ばれ、その用途を理解することは、再編が進むグローバル供給網を読み解く鍵となる。以下ではハイテク産業における主な活用例を整理する。
レアアースは省エネ・脱炭素やESGの推進力でもある。中でも注目されるのが高性能永久磁石で、その中心材料は人類が確認する最強クラスの永久磁石、ネオジム鉄ボロン（NdFeB）だ。
グリーンエネルギーの心臓：高性能磁石とEVシフト グリーンモビリティの領域では、NdFeB磁石が電気自動車（EV）の駆動モーターに用いられ、高効率化と軽量化に寄与する。再エネ発電では、風力タービンの高効率永久磁石式発電機に広く採用され、発電効率の向上に繋がっている。
もっとも、高性能磁石の製造には重希土の支えが欠かせない。ディスプロシウム（Dy）やテルビウム（Tb）は、高温や過酷環境下でも磁力特性を安定させる上で重要だ。加えて、ユウロピウム（Eu）やテルビウムはLEDの蛍光体として、高効率照明を下支えする。ランタン（La）系合金はニッケル水素電池に使われ、低炭素化に直結する用途を担っている。
国防とAIの賦活要素：ウエハからレーザーまで レアアースは先端技術や国家安全保障の分野で欠かせない存在となっており、その戦略的価値は揺るぎない。半導体製造ではチップそのものを構成するわけではないが、製造工程を支える重要な「賦活要素」とされる。たとえばウエハ製造における化学機械平坦化（CMP）では、酸化セリウム（CeO2）が研磨液の主要素材として使われ、表面の精密な平坦化を実現している。
また、イットリウム（Y）やスカンジウム（Sc）はエッチング装置チャンバーのコーティング材として利用され、工程の安定性と精度を維持する役割を果たす。人工知能（AI）ハードウェアの分野では、高性能永久磁石がヒートシンク用モーターに活用されるほか、長距離信号伝送を支える光ファイバー通信では、エルビウム（Er）を用いた光増幅器が導入され、5GやAI技術の高速化を支えている。
米国の最新鋭戦闘機F-35が任務を遂行するには、多量のレアアースが不可欠だ。（写真／AP通信）
さらに国防や宇宙といったセンシティブな領域でも、レアアースは現代の軍事技術を支える基盤となっている。レーダー、ミサイル誘導システム、軍用レーザー測距装置などに広く使われるほか、環境分野ではセリウム（Ce）が自動車の排ガス浄化触媒として活用され、酸化反応を促進して窒素酸化物の排出削減に貢献している。
戦略面に加え、環境配慮が押し上げる循環経済 レアアースをめぐる地政学的な緊張は、単なる戦略問題にとどまらず、採掘や精製に伴う深刻な環境負荷とも密接に関連している。分離・精錬の工程は極めて複雑かつ高汚染で、放射性廃棄物を生じることもある。厳格な環境規制や採算性の問題から、精錬能力の大半は中国に集中しており、西側諸国が大規模な独自体制を築くことは難しい状況にある。
こうした環境コストを背景に、世界のテック産業はレアアースの循環利用に向けた取り組みを進めている。使用済み磁石からレアアースを回収・再利用する体制づくり（循環経済）や、代替材料・代替技術の研究開発が進行中だ。技術発展と地球の持続可能性の両立を模索しながら、環境と倫理の両面から単一供給源への依存を減らす試みが続いている。
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