台湾の頼清徳氏政権は発足から1年以上が経過した。しかし「大規模リコール」の失敗によって大きな打撃を受け、支持率は急落。内閣の小幅な改造や党内の人事異動を行っても、安定の兆しは見えない。民進党内部からは批判が強まり、行政チームの問題処理の不手際や立法院(国会に相当)の党団総召集人(トップ)・柯建銘氏の去就問題、さらには若者やネット世代との接点不足などが重なり、総統であり党主席でもある頼清徳氏は「信頼」と「リーダーシップ」の二重の試練に直面している。
9月19日、柯建銘氏は党団総召への再任が決定。これは民進党版の「馬王政争」(総統と立法院長の対立)を想起させる構図であり、今回の権力闘争は頼清徳氏側の敗北を意味している。頼清徳氏は柯建銘氏を退陣させようと何度も直接動き、総統府秘書長の潘孟安氏を説得に動員したが成功せず、両者の関係は冷え込んだ。その後、柯建銘氏は会期前の食事会に一度しか姿を見せないなど、関係の悪化は明らかだった。
リコール運動前に「大規模リコールは必ず成功する」と訴えた柯建銘氏は、大失敗の後も「自分に誤りはない」と主張している。(写真/柯建銘氏Facebook)
硬直した対立がもたらす分裂回避──総統と総召が歩み寄り 大規模リコールの失敗後、民進党団の幹部は次々に辞意を表明し、柯建銘氏だけが残った。外部からは「責任を取らせるための追い込み」と見られたが、柯建銘氏は沈黙を貫き、自身の任期は1年であり誤りはなかったと主張。《七歩詩》を引用し「同じ根から生まれたのに、なぜ互いを急ぎ攻めるのか」と述べ、党内批判に反論した。
頼清徳氏も一度は「党団は適度な調整が必要だ」と発言し、外部からは柯建銘氏の更迭支持と受け止められたが、最終的には党の分裂を避けるため柯建銘氏を残留させる選択をした。表立った衝突が党のイメージを損なうことを避け、柯建銘氏の続投を「安定の象徴」としたのである。
とはいえ、党団幹部の人事は難航した。柯建銘氏は自分に近い人材で班底を固め、議事を円滑に進めたいと考えていた。当初は蘇系の呉秉叡氏や英系の莊瑞雄氏を候補とし、民主活水派の陳培瑜氏とのコンビを想定していたが、いずれも意欲が不足し実現には至らなかった。
9月18日、柯建銘氏は本来なら新しい幹部を発表する予定だったが、その前日、頼清徳氏は党の中執会で「党団幹部は指名ではなく、選挙で選出されるべきだ」と発言。さらに各委員会の召集人も委員自身が選ぶべきだと主張し、名指しは避けつつも明らかに柯建銘氏を牽制していた。
柯建銘氏(中央)は党団幹部を独自に発表しようと記者会見を準備したが、頼清徳氏に先手を打たれて阻まれた。(写真/劉偉宏撮影)
柯建銘氏続任総召 頼清徳氏の意志は新潮流・民主活水で実現 9月19日の党団大会では、責任を負う覚悟を示した人物は限られていた。多くの立法委員は「大人の権力闘争」に巻き込まれることを避けたいと考え、最終的に明確に意思を示したのは鍾佳浜氏と陳培瑜氏の2人だけだった。投票の結果、新潮流系に属する鍾佳浜氏が43票を獲得して幹事長に就任し、民主活水派の陳培瑜氏は44票で書記長に再任された。
鍾佳浜氏の起用は、新潮流系という頼清徳氏の中核派閥が幹部層に代表を送り込みたいという意図を反映しており、頼氏の意志を実際の人事に反映させた形だ。同時に、民主活水派も頼氏を支持する立場を取っている。多くの議員が退いた中で、最終的に「少数の選択肢」として残った2人に票が集まるのは自然な流れだった。加えて、柯建銘氏が総召に留任している以上、幹事長まで柯氏に近い人材で固めれば「権力集中」との批判が出かねない。結果として「バランスの必要性」から、新潮流の鍾佳浜氏と民主活水の陳培瑜氏がコンビを組む形となった。
柯建銘氏は総召の地位を維持したものの、これが任期最後の半期になる見方が強い。頼清徳氏と柯建銘氏は「共治」とも言える妥協に至ったが、これは大規模リコール失敗後に頼氏が柯氏の辞任を求めながらも実現できなかった「意志の敗北」を意味する。総統は立法院で総召を排除できなかったのだ。党内の幕僚も率直に、行政院が張惇涵氏を秘書長に据えて対応を強化しているが、政策説明が難解で有権者に伝わらないとの批判が根強いと指摘する。一方、新任の民進党秘書長・徐國勇氏は党のネット番組で野党攻撃を強めているものの、「台湾には光復節は存在しない」との発言は一時的に話題を呼んだだけで、安定した支持にはつながっていない。
新任の民進党秘書長・徐国勇氏は積極的に話題を発信しているが、安定した支持にはつながっていない。(写真/民進党提供)
大規模リコール後の処理 頼清徳氏はいまだ核心を掴めず 基層の世論には不満が積み上がり続けている。「大規模リコール」の後、頼清徳氏は直ちに地方党部や公職者との座談会を始めたが、ある地方幹部は「考え方が対症療法にとどまり、根本的な解決策にはなっていない」と指摘する。頼氏は地方党部にグループ拡充を求め、人数や活動状況を把握し、フェイクニュースに反撃するよう求めたが、中央からのわかりやすい情報発信が不足しており、地方でいくらグループを作っても効果が上がらないという。
党内幕僚によれば、政府は地方や社会からの圧力に直面すると場当たり的な対応に頼りがちで、体系的な改革や計画性に欠ける。また、ネット上での世論戦や若年層との交流でも、国民党や第三勢力に後れを取っているのは明らかであり、かつてネット戦術に強みを持った民進党にとって深刻な危機だという。
幕僚の一人はさらに、大規模リコール後、政府は若年層重視を掲げたが実際の対応は力不足だと語る。オリンピック金メダリストの李洋氏をスポーツ長官に任命し、若者支持を取り込もうとしたものの、成果は限定的。SNSやライブ配信などを駆使して若年層への訴求を試みても、民進党政権が長期にわたり抱える不満を払拭するのは難しく、道路料金の引き上げ、賃金停滞、リコール騒動、さらに柯文哲氏の拘束などが影響している。こうした状況で必要なのは「言葉を飾ること」ではなく、実効性ある政策を出すことだと警告している。
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頼清徳政権は新任の運動部長・李洋氏(右)を通じて若年層の支持拡大を狙ったが、効果は今のところ限定的だ。(写真/柯承惠撮影)
府院党は刷新を望むが 民進党内には自信欠如 ある党内部の立法委員は、現在、政策の諸問題は行政部門にあると述べ、府院党連結の強化を試みているが、行政権が最大の問題であるとした。また、立法院は過去1年間苦労して防御を行ってきたが、多くの立法委員が感じている議題も、最終的には行政院が突然撤退するなど、一体何のために戦っているのかがわからなくなっている。
党内部のベテラン幕僚は、単なるスローガンや言い回しにとどまり、改革や世代交代を直視しないのであれば、将来の情勢がただ不安定でなく、支持者基盤が揺らぐ可能性があると述べ、現在の困難は青と白(国民党と民進党の例え)からの挑戦だけでない、内部分のガバナンスに警鐘が鳴っている。大罷免後、閣僚が各派系の意見を取り入れつつあるが、効果がどうなるかはまだ不明である。微妙なことに、党内の多くの幕僚は実は賴清徳政権に懐疑的で、自信を持っていない態度を取っている。また、新たな局面を築く能力が欠如しており、この状態が続けば、2026年地方選挙、2028年総統選挙に大きく不利となる恐れがあると考えている。
党内のある立法委員は「問題の多くは行政部門にある」と指摘。府(総統府)・院(行政院)・党(民進党本部)の連携強化が試みられているものの、行政が最大の弱点だという。立法院も1年間防戦を続けてきたが、議題が進んでも最終的に行政院が突然撤退し、「何のために戦っているのか」と委員たちが困惑する場面も多い。
ベテラン幕僚は「スローガンや言葉遊びだけでは支持基盤は揺らぐ」と警鐘を鳴らす。現状の困難は国民党や第三勢力からの挑戦だけでなく、内部統治の欠陥に起因している。大規模リコール後、閣僚は各派系の意見を取り入れ始めたが、効果は未知数だ。微妙な点として、多くの幕僚自身が頼政権に懐疑的で自信を持てていないことが挙げられる。新局面を切り開く能力が不足しており、このままでは2026年の地方選、2028年の総統選に向けて大きな不利となる可能性が高いと見られている。