イスラエルは技術革新や強固な国防力を誇り、台湾でもしばしば比較対象として語られる。しかし、台湾に長く暮らすパレスチナ出身の研究者アン・ハイゼン(Hazem Almassry)氏は、「その類似は危険で、本質を外している」と警鐘を鳴らす。
「ガザで起きているのは戦争ではなくジェノサイドだ」。ハイゼン氏は《風傳媒》のインタビューでそう語り始めた。「イスラエルが存続できているのは『革新』や『しなやかさ』の結果ではなく、米国からの圧倒的な支持と途切れない軍事援助があるからだ。台湾がイスラエルを手本にするなら、深刻な人権侵害という代償を受け入れることになりかねない」と強調した。
ハイゼン氏はガザ出身で、台湾での生活は約9年になる。現在は博士研究員として、植民地支配に伴う暴力やディアスポラ(離散)、抵抗運動などを研究テーマに据える一方、公共講座や映画討論、連帯行動にも積極的に参加している。「私にとって研究は抽象的な営みではなく、故郷のために声を上げ、自らの土地と身体に刻まれた歴史的な傷に応えることだ」と語る。
社会の極端化──シオニズムと平和の空間の縮小
イスラエル社会の変化について、ハイゼン氏は重い口調で指摘する。「長年にわたり、イスラエルのメディアや教育は『被害者意識』を植え付けてきた。シオニズム思想と結びつき、社会は次第に極端化している」。
「彼らは自らを“選ばれた民”と信じ、パレスチナ人を障害とみなしている。パレスチナ人を殺すことが水を飲むより容易だと考えるほどだ。これは一部の過激派に限らず、社会全体に深く浸透しており、その結果として平和の余地はますます狭まっている」。

二つの誤解──革新の神話と米国の現実
台湾社会にはイスラエルに関する大きな誤解が二つあるとハイゼン氏は言う。
第一は「イスラエルが生存しているのは革新としなやかさのおかげ」という神話だ。
「それは幻想だ。実際にイスラエルを生き延びさせているのは、米国の無条件の支援である。イスラエルが毎年受け取る軍事援助の規模は世界的にも例外的であり、それこそが敵対的な環境で生き残る要因だ。彼らが特別に賢いとか柔軟だからではない」。
第二は「脅威」の想定を誤っている点だ。
「台湾はしばしば中国の圧力をイスラエルの状況に重ねるが、実際は真逆だ。中東全域がイスラエルの脅威にさらされている。イスラエルはF-35戦闘機を含む最新兵器を備え、ガザやシリア、レバノン、さらにはイランをも攻撃できる。実際に脅かされているのはイスラエルではなく、パレスチナ人の方なのだ」。

ウクライナの教訓──軍事力の限界と和平の重要性
台湾で議論が「軍事的自衛」に偏る現状に対し、アン・ハイゼン氏は「慎重さが必要だ」と強調する。
「台湾に軍事力が必要であることは否定しない。自らを守るために一定の力を持つのは当然だ。しかし軍事が唯一の答えであってはならない。価値や民主主義を守るための唯一の手段でもない」と語る。