日本のシンクタンクとメディアが入手した最新の衛星画像によると、中国人民解放軍は内モンゴルの朱日和合同作戦戦術訓練基地で、「模擬総統府」や「模擬外交部」に加え、新たに「模擬司法府」とみられる施設を増設した。さらに、この施設と「模擬総統府」は約280メートルの地下通路で結ばれており、政府中枢への迅速な突入、いわゆる「斬首」作戦を想定した訓練インフラだとの見方が浮上している。
衛星画像が示す増設の経緯と拡張スケール
產經新聞と国家基本問題研究所(国基研)の分析では、「模擬司法府」は2020年8月末に着工、2021年には概成。隣接する赤屋根の建物は2023年11月に工事が始まり、2024年4月にはほぼ完成している。衛星画像からは、2020年以降に訓練区域全体がほぼ3倍に拡張された跡が確認でき、装甲車の走行痕や障害物訓練の形跡が継続的に見て取れるという。国基研の研究者は、地下道や各種「模擬官庁」を組み合わせることで、実戦さながらの突破・突入・内部浸透の訓練に使われている可能性を指摘している。
朱日和訓練基地は内モンゴル自治区に位置し、面積は約1,066平方キロメートル。解放軍最大級の野戦・統合演習場として知られる。2015年に中国中央テレビ(CCTV)が同基地の「模擬総統府」映像を公開して以来、習近平国家主席の下で「実戦化」訓練が加速。演習の常態化とあわせて場内の改修・増設が続いてきた。日本側の報告は、こうした高精度な模擬施設が単なる演習インフラにとどまらず、対外的な心理戦・威嚇の意味合いも併せ持つと評価している。
専門家の見立て:地下道は「突入・確保」の想定か
ベテランジャーナリストの矢板明夫氏や国基研の研究者は、地下通路と隣接する「模擬官庁」の配置から、演習内容が戦術段階に踏み込んでいる可能性を示唆。要人の「確保」や中枢機関の制圧を含むシナリオを訓練している公算があるとみる。研究員の中川真紀氏は、習近平体制下で朱日和などの訓練拠点の実戦化改造が明確に加速しており、目標施設への内部浸透・制圧・即応指揮の能力を高める狙いに加え、「準備は整っている」とのシグナルを外部に送る効果も狙っていると分析する。

演習施設を超える三重のメッセージ
「模擬総統府」「模擬外交部」「模擬司法府」といったラインナップは、単なる標的群ではない。施設の存在やその露出自体が政治的・心理的圧力となり、台湾や国際社会に対する示威の要素を帯びる。一方で、解放軍の戦備を誇示する情報戦の素材としても機能し、戦略的抑止の一端を担う。
もっとも、目的についての評価は割れている。定常的な能力整備とみる見方がある一方、「斬首」など特定の作戦が演習に組み込まれるなら、台湾の政治・行政中枢に対する直接的な脅威となり得るとして、指導部保護や分散運用、情報防護を強化すべきだとの警鐘も鳴らされている。
中国の公式反応はなし—米日台の対応は
現時点で中国政府は、日本側が公表した衛星画像や分析に対し具体的なコメントを出していない。過去には、朱日和での実戦化訓練の必要性を官製メディアが強調してきた経緯があり、外交部や国防部も「軍事活動は内政であり防御的」との従来の立場を繰り返している。とはいえ、具体的な「模擬標的」の存在が裏付けられれば、国際的な安全保障上の懸念は一段と高まるのは必至だ。
安全保障の専門家は、こうした暴露が米日など同盟国に対し、台湾向けの防衛支援や情報協力の再点検、監視・警戒・電子情報の連携強化、要人防護の支援拡充を促す傾向があると指摘。台湾側には、危機対応の即応性、政府機能の分散配置、継続的な領域防衛体制の強化といった実務的な対処を急ぐべきだとの提言が相次いでいる。
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