調査》台湾には世界初の野外「せき止め湖」実験場 花蓮・馬太鞍の災害対応にどう生かされたか

2025-10-03 12:25
馬太鞍渓のせき止め湖が崩壊して災害が発生し、その研究のために台湾に実は世界初の野外実験場がある。(画像/顏麟宇撮影)
馬太鞍渓のせき止め湖が崩壊して災害が発生し、その研究のために台湾に実は世界初の野外実験場がある。(画像/顏麟宇撮影)
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9月23日午後、台湾・花蓮県の馬太鞍渓谷に低い轟音のような震動が響いた。まず泥流と濁った水が河道でうねり、次の瞬間、見えない壁が黒い泥を押し出すかのように光復の市街地へと襲いかかった。台9線馬太鞍渓橋は短時間で崩落し、堤防は削られ、住宅の窓枠以下は厚い灰泥に飲み込まれた。この「せき止め湖越流」と呼ばれる突発災害は、最終的に十数名の命を奪い、広範なインフラ損壊と長期の浚渫作業を残した。上流には、夏季の豪雨と前年の大地震による度重なる崩壊で積み上がった天然の土石ダム(せき止め湖)があり、強力な台風豪雨によって洪水が堰を越えて決壊した。発生は急激かつ猛烈で、下流の住民が避難や調整を行える時間はわずか数分に限られた。

せき止め湖とは?

せき止め湖とは、山崩れや土石流で河道が塞がれ、上流の水流が遮られて堆積した土石の背後に形成される天然湖のことを指す。人工ダムとは異なり、堤体は緩い土砂が自然に堆積したもので安定性が低く、寿命は短い。せき止め湖の9割以上は1年以内に決壊する。決壊の主な要因は、湖水位が堤頂を超えて越流し浸食が進む場合や、堤体が浸透・パイピングによって空洞化する場合である。決壊が起きれば、湖水は短時間で洪水となり、下流に深刻な土石流や浸水被害をもたらす。今回の花蓮の災害もまさにその典型例だった。

台湾は地震と豪雨が頻発するため、せき止め湖の形成は珍しくない。1999年の921大地震後には10以上のせき止め湖が出現し、2009年の台風8号(モーラコット)では小林村がせき止め湖決壊で381人の犠牲を出した。馬太鞍渓のせき止め湖も、2024年の地震で山腹が脆弱化し、7月の豪雨で大規模崩壊が発生したことにより大量の土石が流入し形成されたものだ。雨季で急速に集水し湖水位が上昇、9月下旬の豪雨で堤体が耐えられず23日に決壊した。

20250925-馬太鞍溪堰塞湖潰堤,山洪衝入光復鄉市區,搜救人員25日陸續尋找失蹤人口。(顏麟宇攝)
台湾は地震や台風が頻発し、せき止め湖は珍しくない。今回の馬太鞍渓のせき止め湖は2024年の地震に由来する。写真は決壊後、馬太鞍渓周辺の土地を覆った状況である。(写真/顏麟宇撮影)

台湾で繰り返されるせき止め湖災害と研究者・陳樹群の挑戦

台湾がせき止め湖災害に直面するのは今回が初めてではない。1999年の921大地震から2009年台風8号(モーラコット)まで、山崩れが河道を塞ぎ、急速に水が貯まり、そして越流決壊するという連鎖は幾度も繰り返されてきた。中興大学水土保持学系の終身特聘教授である陳樹群は、山河が崩れ落ち村が消滅する光景を前に、従来の理論研究だけでは現実の時間軸に対応できないことを痛感した。そして彼は現場へと足を踏み入れ、農委会水土保持局(現・農業部農村発展及び水土保持署)と連携し、この連鎖を「制御可能な野外実験場」に移し替える試みに着手した。 (関連記事: 舞台裏》優先順位の差?南部豪雨は即日対応、花蓮・馬太鞍渓せき止め湖氾濫は1週間後 中央政府の初動対応に遅れ、批判高まる 関連記事をもっと読む

は1991年に中興大学で教鞭を執り、当初は理論モデルや文献研究に専念していた。しかし1996年、台湾を襲った台風9号(ハーブ)が甚大な土石流被害をもたらし、彼の学術人生の転機となった。過去の研究が「机上の空論」に過ぎなかったことを痛感し、実験室を出て災区や農村に入り込んだのだ。それ以来、災害研究のみならず、政府部門と協力して全国500以上の土石流高リスク集落に避難拠点を設け、家庭用防災地図を配布し、住民に避難経路を教える訓練を行い、科学を直接コミュニティに持ち込んだ。

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