東京・日本外国特派員協会(FCCJ)で9月5日、翻訳家で日本文学研究者のポール・マッカーシー氏を招き「ブック・ブレーク」が開催された。今回のテーマは、三島由紀夫生誕100周年を記念して今年1月に刊行された短編集『Voices of the Fallen Heroes: And Other Stories』(英国ペンギン・クラシックス、米国ヴィンテージ・ブックス)。全14編が収録されているが、マッカーシー氏は自身が翻訳を手掛けた表題作に焦点を当て、詳細な解説を行った。

マッカーシー氏は1960年代に三島と直接面識を持ち、自宅に招かれた経験を披露。「若い頃から三島文学に強く惹かれてきたが、本格的に翻訳に取り組むのは今回が初めてだ」と語った。谷崎潤一郎研究を経て翻訳活動を続けてきた同氏が、改めて三島作品に向き合う背景を来場者に明かした。
講演では、1936年の二・二六事件と1946年の「人間宣言」を題材にした表題作が取り上げられた。マッカーシー氏は、作中に登場する将校の霊や特攻隊員の声を引用しながら「戦後社会に対する三島の苛烈な批判と、天皇の象徴化に伴う思想的葛藤が色濃く表れている」と解説した。また、「三島は常に死と美を結びつけて考え、戦後日本の平和な日常に強い違和感を抱いていた」と指摘。その一方で、徴兵検査を逃れた際に安堵した逸話も紹介し、「生と死への複雑な感情が彼の文学を形作っている」と強調した。
さらに同氏は、今後三島の未翻訳エッセイや講演を収録したノンフィクション選集の刊行を目指していることを明らかにした。質疑応答では聴衆から三島の自決に関する意図や「美の極致」に対する解釈が投げかけられ、文学と思想のはざまに立つ三島像が多角的に議論された。
編集:柄澤南 (関連記事: 花人・赤井勝氏、FCCJで作品展 写真と装花の新表現も披露 | 関連記事をもっと読む )
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