アジアの半導体製造大手は、世界市場の変化に対し、欧米企業のように大型M&Aに熱中するのではなく、巨額の設備投資や重要資産の確保、戦略的提携に軸足を置く独自の資本戦略で臨んでいる。拡張と防御を高度に両立させる経営の妙を示しているのである。
TSMC(台湾積体電路製造)の資本戦略は買収ではなく、継続的ないわば「軍拡競争」に重心を置くものである。米国での投資を1,650億ドルまで拡大する超大型計画を掲げるほか、製造プロセス技術への投資と研究開発を最重視している。具体的には、先進パッケージングであるCoWoSの増産や、ファンアウト型パネルレベルパッケージ(FOPLP)の加速が柱である。
TSMC資本支出における戦略目標
海外アナリストは、TSMCの資本支出が2ナノ以下での絶対的な技術優位を確保することに主眼を置いていると指摘する。これは市場シェアの争奪ではなく、揺るがぬ技術の堀を築く行為である。投資の一円一円が、顧客と投資家への最良のコミットメントであるという評価である。
ASE(日月光)がウィン・セミコンダクターズ(穩懋)の高雄工場を65億台湾ドルで取得した案件、さらにTSMCが昨年8月にイノラックス(群創)の台南第四工場(第5.5世代)を171.4億台湾ドルで取得し、「先進封測八廠(AP8)」と命名して本年4月に装置搬入、年内量産を見込む事例は、台湾企業の柔軟性と精度の高さを端的に物語るものである。

台湾のサプライチェーン幹部は非公開の場で、AIチップ供給における真のボトルネックは先進パッケージングにあると明かす。今回のASE(日月光)の動きは即断即決であり、既存設備を丸ごと取得することで、新設工場に比べて少なくとも一年、場合によってはそれ以上早く生産能力を立ち上げられる。急増するCoWoS需要という喫緊の課題を解消し、先進パッケージという要の工程で台湾がグローバルAIサプライチェーンの主導権を確保する一手である。
UMC(聯電)の投資は28ナノの特殊プロセス拡充に照準を合わせ、TSMCの最先端プロセスという主戦場を巧みに回避している。大型ディールこそ目立たないが、台湾の第三世代半導体(SiCなど)各社も技術・ラインへの継続投資を通じ、電気自動車や高電力分野というブルーオーシャンを狙い、高マージンの差別化機会を追求しているのである。
サムスンがHBMでメモリの価値を再定義
韓国の資本配置は、とりわけメモリー分野で一段と攻勢色が濃い。サムスン電子とSKハイニックスはOpenAIとの提携を通じ、HBMをAIデータセンターの標準装備として位置づけることを狙っている。この戦略的アライアンスにより、メモリー事業は従来の景気循環型製品から、高付加価値のAIインフラへと一気に格上げされつつあるのである。
アジアの半導体大手は、それぞれの資本力を梃子にサプライチェーン上で新たな境界線を引き、AI時代の世界テクノロジー版図を共同で形作っているのである。
編集:柄澤南 (関連記事: アルトマンが台北を訪問か OpenAI CEO、TSMC・鴻海を極秘訪問 サムスンとSKハイニックスが「スターゲート」計画に参画 | 関連記事をもっと読む )
世界を、台湾から読む⇒風傳媒日本語版 X:@stormmedia_jp