アメリカのドナルド・トランプ大統領と中国の習近平国家主席が10月末に会談する可能性が取り沙汰される中、台湾の国家安全保障高官が渡米し、トランプ政権側とのパイプ構築を図っている。『日経アジア』が4日に独自報道したところによれば、国家安全会議の趙怡翔(Vincent Chao)副秘書長が静かにワシントンを訪れ、シンクタンクの専門家と非公開会議を実施。トランプ陣営関係者とも個別に会い、米台関係と両岸関係の新たな均衡を探っているという。
水温をうかがう往訪――台湾、防衛費増額を強調
複数の参加者によると、趙氏は会合で台湾が国防支出を大幅に引き上げ、「非対称防衛能力」の強化に注力している点を強調。今年8月、頼清徳総統は2030年までに国防費をGDP比5%へ引き上げたい意向を示した。最新予算では来年度の国防費はGDP比3.32%に達し、過去最高となる見込みだ。
趙氏はトランプ政権の1期目当時、台北駐米経済文化代表処(TECRO)で政治グループ主任を務め、ワシントンの実務に通じる。長年関わる関係者は「彼のワシントン理解は非常に深い」と評価する。
今回の訪米は、国家安全会議副秘書長に就任したばかりの趙氏が米台関係の“水温”を探る試みとみられる。今夏には、トランプ政権が頼総統の中南米訪問の帰途に予定されていたニューヨーク経由を思いとどまらせ、日程に遅延が生じた経緯がある。

中南米再訪と米国経由の地ならし
関係筋によれば、趙氏の訪米には、頼総統がパラグアイ、グアテマラ、ベリーズなど友好国を再訪する可能性を探り、再び米国経由を実現するための地ならしという目的もある。最短で年内の実施が視野に入るという。
頼総統は9月12日、パラグアイの新任駐台大使ダリオ・フィラティガ・ルイス・ディアス氏と会見し信任状を受け取った。同大使は、サンティアゴ・ペニャ大統領が頼総統の再訪を期待している旨を伝えた。
敏感なタイミング――トランプ・習会談の見通し
趙氏の訪米は微妙な時期に行われた。トランプ氏は10月末、韓国・慶州でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)サミットに合わせて習主席と会談する意向を示し、来年初頭の中国訪問も計画しているとされる。『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、習主席がトランプ氏に「台湾独立に反対」との明確な表明を求める見通しだと報じた。
さらに、8月以降は台湾からの輸出品に対して米国が「20%+N」の関税を課しており、二国間の通商合意の署名が遅れている。米商務長官ルートニック氏は最近、半導体生産能力の「半々」分散――半分を米国内に――を台湾側に要請したが、副閣流の鄭麗君氏は「断じて受け入れない」とした。

「台湾はトランプを失った」論、米台で波紋
8月、米国務省の元高官クリスチャン・ワイトン氏が「How Taiwan Lost Trump(台湾はどのようにしてトランプを失ったか)」と題する論考を公表し、台湾社会に衝撃を与えた。ワイトン氏は、民進党政権が米国の「新右派」的な政治空気を理解できず、トランプ氏の民主主義観を取り違えたと批判。例として、副総統・蕭美琴氏が「民主国家は連帯して権威主義の拡張に対抗すべき」と訴えた一方で、トランプ陣営の支持層はバイデン政権のウクライナ支援を「高コストで冒険的なグローバリズム」とみなしている点を挙げた。
優先されるのは「トランプ・習会談」、台湾は脇に?
ワイトン氏は『日経』に対し、トランプ氏が来年の訪中を図るなら、リスク回避の観点から米政権が台湾で強硬措置に踏み切る蓋然性は低いと指摘。「大型の対台湾武器売却や要人の経由・通過問題は後回しになるだろう。トランプ氏は北京訪問を重視している」と述べたうえで、「同氏は実のあるサミットを求め、記念撮影で終わらせず、貿易・安全保障の合意を含む“大取引”を志向している。政治的計算から見ても、陣営が台湾のためにリスクを取る理由は乏しい」との見方を示した。
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